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水車小屋のテオ

「んっ、んー…、ふぅ。もう朝か」


 俺はのびをして部屋を見回し、夢から覚めた事を確認した。そして住処にしている水車小屋の見回りを始めた。戸と窓をあけ光と風をいれ、外にある水路で水車を横目に顔を洗う。そこでまた大きくのびをした。


「んー…んっ。今日も一日平穏に暮らせますように」


 俺、テオは三人兄弟の末っ子として生まれた。12歳の悩めるお年頃だ。12才上の長男ハンスは既に結婚し、すでに子供も授かっている。6才上の次男は数年前に親父とケンカして家を出て、それっきり行方知れずだ。


 末っ子の俺は甘やかされて育ったが、何も期待はされていなかった。家の中は長男夫婦が主役であり、俺の居場所は徐々になくなった。今では一人で粉挽き屋の店番をし、数ヶ月前からは家族から離れ、水車小屋で寝泊りをしている。


 しかし、俺はこの状況に満足していた。領主や他の農民とのやり取りは、親父と兄さんがやってくれる。自分は水車小屋に持ち込まれた穀物を、粉にし続ければいい。延々と回る水車や歯車の音を聞きながら、本を読むことに没頭できる。それだけで十分だった。


「さて、昨日の続きを読むか」


 俺は水車小屋からイスを出し、入り口の脇で読書を始めた。昨日の続きを読み始めたが、指を挟んで少し戻り、読み直して微笑んだ。この本は好きな本リストに入るかもしれない。そう感じながら、惜しみながらゆっくりと読み進めていた。


その時、屋根の上に腰掛けた少女が言った。

「テオ、兄上がお見えですよ」


 その声で顔をあげ道の先を見ると、ロバの引く馬車がこちらに向かっているのが見えた。


 屋根の上の彼女の名前はクー。俺にしか見えない書庫の幽霊だ。何にでも姿を変えられるので、本当は悪魔なのかもしれない。彼女が言うには、意思の疎通をしやすくするために見せているだけで、それ以上の意味はないそうだ。少女の姿は前の持ち主が指定したものだが、俺が拒否しなかったのでそのままでいるとの事。本当はどういった存在なのかよく分からない。俺はとりあえず幽霊のようなものだと思うことにしていた。


 俺はひとまず本を閉じ、イスにのって屋根の上の彼女に渡した。俺が読んでいた本もまた幽霊で、普段は俺にしか見えない。幽霊といっても、重量や触感など実在のものと区別がつかないのだが。それでも、彼女が見せようとしていない人には見えないし触れない。何もないところから現れ、跡形もなく消える。そういったものなので、やはり幽霊のようなものだと思う。


 馬車が近づくと、ハンス兄さんの他にも人影が見えた。あの髪はエルザかな。彼女は俺より年上のしっかりもので、姉のような存在だった。彼女の親はあまり人を信用していない。今日も、俺がちょろまかさない様にと見張りを言いつけられたのだろう。彼女の家が粉挽きを頼むときにはおなじみのことだった。


「おはよう兄さん」

「おはようテオ、今日の分をもってきたよ。ご飯もね。あとは……」

「よっこらせっと。はいはーい、突っ立ってないでどいたどいた」


 エルザが荷台から洗濯物を下ろし、小屋の裏へ運んでいく。その後ろから小さな女の子がついていく。


「エルザとイーナが一緒だ。あとで迎えに来るからその時までよろしくな」


 兄さんが苦笑いしながら言った。いつも断りきれず申し訳ないという感じだ。あの家の人は強引だからなあ。俺も兄さんにつられて苦笑した。

そして、兄さんは荷物を降ろし終えると、また馬車で去っていった。

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