18:その後
「マグダレン、出来た」
城に隣接する別館の一室で、辿々しく口を開いたのはクリスだった。
クリスはガラスのハリネズミを手に、書きかけの魔道書に向かうマグダレンに声をかける。
結局マグダレンは周囲の強い押しにより、学院には戻らず、城で新しい魔術と錬金術の開発を始めた。
オズウェル曰く、グルテリッジとの関係はグレースとセレーナの婚姻により友好的な物となったが、まだそれは表面的な物で水面下でのいざこざは続いているらしい。
オズウェルは今、グルテリッジと更に友好を深める為グルテリッジを訪れているグレースに付き添い、一時的に国を離れている。
まだ、いつ反対派の襲撃があってもおかしくは無い状態なので、グレースとセレーナの希望によりオズウェルがその任を任された。
オズウェルが抜擢された理由として、一人でグルテリッジの密偵を仕留め、更に一撃で竜を撃退したと言う話が城内に漏れたからだった。
そしてセレストルも今は学院だけでは無く、城に籍を置く魔術師となっている。
それもセレストルが古代魔術の再現に成功し、へブリーズ山脈の竜を手懐けたと言う話が漏れたからだった。
今も学院で近代魔術と古代魔術を教える傍ら、マグダレンと一緒に城で新しい魔術の研究も行っている。
それとグレースの影武者として錬金したホムンクルスは、ローレンスと言う名前を与えられ、そのままグレースの側近として働く事になった。
さすがに顔こそは多少変えはしたが、基本的な性格や仕草は元のまま。
当初、ルドヴィックはローレンスの返還を求めグレースと話を進めていたのだが、ローレンスは影武者として育てる際ほんの少しだけ身に付けた外交や国政の知識を武器に、国王の側近達が思いつかない様な事を柔軟な発想と無垢な心で次々と解決して行った為、半ば強制的にグレースにつけられる事となった。
一時期、ホムンクルスであるローレンスが王太子の側近になる事を快く思っていなかった一部の人間により、所詮造り物のホムンクルスと揶揄され、ホムンクルスを使ってマグダレンがこの国を乗っ取ろうとしているなどと言う噂が広がった事もあった。
しかし現実はその逆で、ホムンクルス達が引きこもり研究漬け体質のマグダレンの手綱を握り、決まった時間に睡眠や食事を取らせている現状。
その為すぐにその噂は笑い話となって霧散して行った。
マグダレンは城に籍を置いた時、真っ先に取りかかったのはクリスに声を与える事だった。
マグダレンも追々しようと思っていたのだが、何かあった時に困るとのクリスの強い要望により、最優先で行ったのだ。
クリスに声を与えたお陰で来客対応や納品などを行える様になり、マグダレンの仕事は一気に捗る様になった。
「ただいまマリー! グルテリッジとの国境沿いで良い物捕まえたぞ!」
勢い良く部屋に入って来たルドヴィックは巨大な兎を抱えていた。
今日ルドヴィックは、グルテリッジとの国境沿いにある川が最近の長雨で増水していた為、新しく堤防を作るべく下見に行ったはず。
それが何故巨大な兎を抱えて帰って来たのか。
クリスはもうそれに慣れたのか、当たり前の様にルドヴィックを迎え入れるとお茶の準備を始めた。
「おかえりルド! 思ったより早かったね。それフラワーラビット!? 久し振りに見た! セレス兄もまだ捕まえた事無いから召喚も出来ないってこの前話してたの! それにしても、よくこの子達の脚力について行けたね」
マグダレンは魔道書を放り出すと、嬉しそうにフラワーラビットにしがみついた。
新しい魔道具の錬成素材にフラワーラビットが使えるかもと、昨晩ルドヴィックにフラワーラビットの特徴を話したばかりだった。
フラワーラビットは、本来毛に覆われた耳がある場所には、花弁が一対生えており、更に尻尾も毛の塊では無く、耳の花弁と同じ花がちょこんとついた、大きさが大型犬程も無ければとても愛くるしい生き物。
マグダレンはフラワーラビットに抱き付きながら、目を輝かせルドヴィックを見上げた。
「増水した川で溺れそうになってたから持ち帰って来たんだが、正解だったみたいだな。で、こいつを使って何を作るんだ?」
入り口に剣を立て掛けガントレットをソファに投げ出したルドヴィックは、クリスから紅茶を受け取ると目元を緩ませマグダレンに微笑みかける。
「依頼で追跡セットを作るの。前作った蝶みたいなやつじゃ無くて、ぺたって本人にくっつけて追跡するやつ。何でも旦那さんの浮気現場を押さえたいって言う奥さんの依頼で――」
マグダレンが無邪気にフラワーラビットを撫で回しながらそう告げると、ルドヴィックは飲んでいた紅茶を盛大に吹き出した。
二人はまだ式を挙げてはいないが、マグダレンが城の別館に住む様になったので実質一緒に暮らしている様なもの。
ルドヴィックは王家の姓を捨てマグダレンと一からやっていくつもりだったが、まだグルテリッジとの関係も不安定な為それも叶わず、マグダレンは渋々王族のままのルドヴィックと結婚する事にしたのだ。
本来なら片時も離れたくない幸せの絶頂の婚約中だというのに、マグダレンは浮気調査の依頼を受け必死に開発をしていた。
流石にこれにはルドヴィックも衝撃を隠しきれず、思い切り咳き込みながらクリスに背中をさすって貰っている有様。
フラワーラビットに夢中でルドヴィックの状況に気付いていないマグダレンは、鼻歌交じりで錬金の構想を練っている。
「ルド、実験台、募集中」
「……追跡セットの? セレストルに頼んで竜にでもくっ付けろよ。耐久も距離も同時に実験出来るぞ……」
どうにも前途多難な予感しかしないものの、ルドヴィックは楽しそうにハリネズミを撫で回すマグダレンを微笑ましそうに眺めていた。
後日、出来上がった探索セットはそっとルドヴィックの背中につけられる事になった。
超急ぎ足のストーリー小説をお読み下さり誠にありがとうございます!
もう少し描写を…と思いつつ結局最後まで修正できず完結を迎えてしまいました!(ノД`)
拙作では御座いますが、最後までお読み頂いた読者様ありがとうございます!





