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15:探査機

 恐る恐る時告鳥から体毛を拝借したマグダレンは、すぐさま他の素材採取に走った。

 とは言え、荒ら家の廃材と中にあった農機具、それとその辺の草で事足りる為、今は三人で廃材処理を行っている。

 

「時告鳥さん、ちょっと足退けて」

「まだ動くな尾羽に廃材が刺さる!」

「時告鳥、少しこれを咥えてて下さい」

 

 召喚に応じた時告鳥があまりにも立派過ぎた為、錬金以前に、羽毛の間に挟まった廃材の処理に時間がかかる。

 効率を考えれば、まずは錬金し、グレースの行方を探っている間に済ませればいい話なのだが、体のあちこちから廃材を覗かせる巨大な時告鳥の姿を見ていたら、自然と三人は同じ事をはじめていた。

 

「そう言えばセレストルさん、さっきの竜はどうなったんだ?」


 思い出した様にルドヴィックが廃材を片手に顔を上げると、時告鳥の羽の下で、何故かセレストルは苦い顔をした。

 

「殿下、私に敬称はいりませんよ……。先程の竜はオズウェル兄上が思い切り引っぱたいたら戻って行きました。竜の行方が心配なら、ここに呼びましょうか?」

 

 作業の手を止めずそう言い放ったセレストルに、マグダレンとルドヴィックが顔を跳ね上げた。

 『何』を『呼ぶ』つもりか。

 口には出さないが、二人顔を見合わせながらぱくぱくと口を動かす。

 二人の様子に心底不思議そうな視線を投げて寄越したセレストルに、二人は何も気付かなかった事にし、無言で作業を続けた。

 

 あらかた廃材の片付けの目処がたって来た辺りで、マグダレンは錬金に取り掛かった。

 材料は川の水と農機具についていた木のネジといくつかの金属片、それと近くで採取して来た大量の草と時告鳥の体毛。

 一見、ただのガラクタの山にしか見えない物を、水を張った鉢に入れると、マグダレンは思い出した様にセレストルの背中に飛びつく。

 思いがけず服が引っ張られ首が絞まったセレストルは、そのまま無抵抗で草の上に背中から倒れこむ。

 するとマグダレンは、仰向けに倒れ込んだセレストルの腹の上に先程の鉢を乗っけてしまった。

 

「よし! これで魔力使い放題! 無限溶鉱炉完成!」

「いや、さすがに限界はあるよ? 今日は扱いが酷過ぎないかい? 言ってくれれば学院からハリネズミを連れて来たのに……」

 

 どうやらマグダレンは、錬金にセレストルの魔力を使おうとしているらしいが、傍から見たら拷問の一種にしか見えない。

 すっかりお役ごめんとなった時告鳥と、現状起こっている事には触れないでおこうと決め込んだルドヴィックは、揃って少し離れた所でその光景を眺める事にした。

 不満そうに少しだけ身を起したセレストルを押さえつけると、マグダレンは遠慮無く詠唱を始める。

 もうこうなって来ると人間諦めがつくのか、セレストルは地面に寝そべったまま大人しくなった。

 

 次第に鉢の中が光り出し錬金が始まった。

 セレストルの魔力を使っているからか、小鳥を作った時よりも光が強い。

 しばらくすると鉢が砕け、中からネジ巻き式の蝶が二羽ふわりと舞い上がった。

 二羽の蝶はふわりふわりと飛び交うと、ルドヴィックの頭にちょこんと止まった。

 

「うわ、ずぶ濡れ……。マリー、そんな優雅に飛ぶものじゃ、いつまでも王太子殿下は見つからないよ。ちょっと貸して」

 

 セレストルは割れた鉢から零れ落ちた水でずぶ濡れになっていたが、すぐに『ネビュラス』を唱えると、蝶に向かい手招きをする。

 すると蝶は吸い寄せられる様な不自然な動きで舞い上がると、真っ直ぐにセレストルの差し出した手に止まった。

 セレストルが一言二言小声で何か唱えると、蝶達は勢い良く舞い上がり、そのままありえない速度で飛び去って行った。

 

「なぁマリー、あの蝶達、あの速度に耐えれるのか?」

 

 時告鳥の羽毛に埋もれながら座り込んでいたルドヴィックが、思い出した様にそう呟くと、マグダレンは問う様に隣に立つセレストルを見上げる。

 するとセレストルは視線を反らし、そっと遠くを見詰める。

 何も言わずともその態度が答えと言ってしまっても言い。

 ルドヴィックとマグダレンは、グレースが見つかるまで蝶の体が壊れない様、蝶が飛び去った方角に必死に祈る事しか出来なかった。

 

 

 セレストルは、捕らえたグルテリッジの男達を連行して行ったオズウェルの様子が気がかりだと言い、一先ず二人を残し王都へと帰還して行った。

 セレストルが心配しているのは、オズウェルと言うよりも捕らえた男達の方だろう。

 セレストルが言うには、マグダレンが濁流に流された後の荒れっぷりは凄まじく、歴代一、二を争う程の激昂だったらしい。

 マグダレンは蝶と共に、割れた鉢の中から転がり出た緋色の石を手に、廃材の中から古い地図を引っ張り出すとその上に乗せた。

 緋色の石はひとりでに地図の上を動き回る。

 ゆるゆると彷徨う様に動く石は、どうやら放った蝶と繋がっているらしく、ゆっくりとだが着実に進んでいる。

 一度石は王都を通り過ぎると、そのままグルテリッジの国境沿いまで移動する。

 まさか本当にグルテリッジに攫われたのでは。

 そう思いマグダレンが顔を跳ね上げルドヴィックに視線を向ける。

 しかし、石を追って右へ右へと視線を動かしていたルドヴィックの目がぴたりと止まったと思うと、今度は下へ下へと移動し始める。

 その動きに再びマグダレンが地図に視線を落とすと、石は再び王都に戻って来るとそのまま通過し、すぐ隣の小さな街で止まった。

 そこは王都から半日もかからない距離にある、名前も忘れ去られた小さな街。

 いや、街と言うよりもちょっとした休憩所と言った方が正しい。

 王都のすぐ側にある為、商人や旅人はわざわざそこで一泊せず、もう少し進み王都まで行ってしまう。

 その為元々街だったそこは徐々に規模を縮小して行き、現在では廃墟の中でぽつりと一つ、食堂付きの小さな宿屋が営業するのみとなっている場所だ。

 ルドヴィックとマグダレンはお互い視線を交わし、一つ頷いた。

 グレースはここにいる。

 幸いにも二人の居る場所からはそう遠くない。森を抜けた先がその街だ。

 どちらとも無くにやりとした笑みを浮かべ立ち上がった瞬間、地図の上の石が小さく振るえると、軽い音を立てヒビが入る。

 再び地図の上に視線が縫いとめられた二人がその場にしゃがみ込むと、もう一度石が震え、今度は粉々に砕け散ってしまった。

 

「やっぱり耐えられなかったのか? ぎりぎりだったな」


 セレストルの力にありあわせの材料で作った蝶は、やはり耐えられなかった。

 ルドヴィックはそう判断し、安堵のため息を漏らしたが、どうにも隣に座るマグダレンの表情は優れない。

 マグダレンの異変に気付いたルドヴィックが、心配そうにマグダレンの肩に触れると、マグダレンはゆっくりと視線を上げルドヴィックを真っ直ぐ見つめ返した。

 

「あんな意味あり気な態度だったけど、セレス兄がそんなミスするはずが無い。むしろ、十分あの速度に耐えれるってわかってたからはぐらかして行っちゃったんだと思う。それに、この石は蝶が何らかの攻撃を受けた時にそれを知らせる役割にもなってたの……」

 

 マグダレンはそこで言葉を区切ると、無言でルドヴィックを見上げたまま押し黙った。

 

「……追跡がばれて蝶が壊されたって事か」

 

 ぽつりと溢したルドヴィックの言葉に、マグダレンはゆっくりと頷いた。

 その瞬間眉根を寄せ、ぎりっと音がなる程歯を食いしばったルドヴィックは勢い良く立ち上がると、勢いもそのままにマグダレンを抱え上げ、一目散に森に駆け込んだ。

 追跡に気付いたのがグレーズなら、すぐにでも移動するだろうし、もし、本当にグレースが攫われていて、攫った何者かが追跡に気付いたとなれば……。

 二人の頭の中にはみるみる最悪の状態が浮かび上がって来る。

 マグダレンはありったけの力を込めルドヴィックに『ファルテア』を唱える。

 マグダレンはおろか、自分の重さすらほぼ感じなくなったルドヴィックは、更に速度を増し暗い森の中をつき進む。

 

「俺は絶対次期国王なんかになりたくない!」

 

 ルドヴィックはそう叫ぶと、ひたすら森の中を走り続けた。

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