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天才詐欺師と魔術探偵  作者: カツ丼王
第四章 二十人殻
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25. 決着の時

 ダンスホールを内外埋め尽くしていた暗闇は忽然と姿を消し、元の煌びやかな西洋建築を取り戻していた。いつの間にか大部屋の隅で蓄音機が音を奏で、灯のついたシャンデリアが昼間のように空間を照らし出している。


 どれくらい眠っていたのかは分からないが、飛鳥はふと意識を取り戻した。


 重たい瞼を何とかこじ開けると、少女達三人の顔が飛び込んできた。


「あ、目を覚ました! 良かった!」


 泣きながら喜んでいる由佳里の顔がまず映り、次いでエミリアと昴がこちらを見下ろしていると分かった。あと大切なことだが、重たい頭が柔らかい感触の上にあることも分かった。


「……由佳里ちゃんに膝枕してもらえるなんて、僕は果報者だよ」


 皺がれた声を出すと、三人は安心と呆れを混ぜた顔になった。


「アンタねえ、私達が居なかったらとっくの昔にお陀仏だったのよ? そのへん理解してる?」

「へえ、どれくらいやばかった?」

「まず心臓が破壊されてて、私の液体金属で代用するでしょ? 全身の負傷は万能薬もどきで治癒したけど、重傷過ぎて治癒魔術を併用しても一か月は絶対安静よ」


 エミリアが丁寧に文句を述べると、昴もそれに割って入った。


「心臓の駆動や神経の働きを模擬するため、私の雷魔術まで駆り出される始末よ。外気功を使って君の生命力を底上げして、辛うじて生き永らえたってわけ。おわかり?」

「あーなるほど」


 くどくどありがたい講釈を頂戴するも頭が回らない。気の利いた返事も出来そうにないし、疲労の波が押し寄せて、長く意識を保っていられそうになかった。


「あの……立花さんは?」


 飛鳥が単刀直入に問うと、昴が顔を背けて答えた。


「向こうで伸びてるわ。あの人が倒れるなんて、正直今でも信じられない」

「自分がトドメを差したのに?」


 軽口を叩く飛鳥だが、昴は真剣な面持ちで返事をした。


「君があの人を破ったのよ。大したものね、詐欺師もあまり馬鹿にできないかも」


 明後日の方角を向いたままの名探偵から、飛鳥は慣れない称賛を受ける運びとなった。どう言い返すべきか。とりあえず茶化したいところだが、それも何だか場にそぐわない。


「何だ、照れているのか? お調子者の怪盗の分際で、これは滑稽だ」


 すると離れた位置から聞き慣れた中年の声が聞こえた。


 昴は誰よりも早く反応し、刀を抜いて声の傍に立った。


「なんだ藪から棒に。それでも妙齢の乙女か?」


 仰向けになったまま流石に動けないのか、立花は昴へと苦言を呈す。


「大したものですね。真正面から落雷を受けて、もう意識が戻るなんて」

「フン、どうやら誰が手解きしたのか忘れたらしいな。私の下を巣立って、すぐ探偵事務所を構える跳ねっかえりはやはり違う」

「はあ!? 何言ってるんですか!?」


 昴はふざけた口を利く堅物を見て、どうにも驚きを隠せないらしい。


 これは指を加えているわけにはいかないと思い、飛鳥は両者に割って入った。


「随分調子がよさそうですね? 負けて開き直りですか?」


 飛鳥がおどけた調子で話しかけると、立花もため息交じりに言葉を返した。


「何とも最悪の気分だ。私のお情けで入学できた無能に、まさかしてやられるとはな」

「む!? あなたは敗者なんですから、もっと殊勝な態度を取ったらどうです?」

「断固拒否する。偽物の分際で口が減らんな」


 互いの顔がはっきり見えない中、彼らは皮肉めいた舌戦を繰り広げる。


 まるで子供ような応酬に、見ていた少女達は困惑するばかりである。


 ひとしきり下らないやり取りを行った後、立花はふと真剣な顔つきになった。


「西条、お前の眼にはこの未来が映っていたか?」

「え?」


 突然の問いかけに、由佳里は驚きを見せる。


 彼女はしどろもどろになりながら、膝もとの飛鳥へと視線を落とす。


 飛鳥も彼女の答えが聞きたかった所だった。


 その意図が通じたのか、彼女は頷いたあとに立花を見て答えた。


「分かりません。私はまだまだ未熟ですから」


 これまでにない晴れやかな笑顔で、彼女は実に軽く言ってみせた。


 それは今は未熟な己を認め、まだ見ぬ未来に可能性を見出した冒険者のようであった。


 飛鳥は満足そうに笑い、立花はなおも無表情で感想を漏らした。


「つまらん答えだな」


 いつも通りの、これまで何度も聞いた言葉だ。


 しかし彼はさらに続ける。 


「だが嘘をつかない素直さは、どこぞの馬鹿よりは見どころがある」

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