第一章 第11話 試しに一戦交えてみた結果・・・ その12
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黒鎧の騎士は馬上から、床に刺さった先ほどの黒い壁に手を伸ばし、ヒョイと持ち上げると左肩に背負った。
ミサイルを防いでくれたそれ、盾だったのか。
でかいな・・・。
体の殆どを鎧で覆われたフルプレートの騎士。
その鎧は、ひたすらに黒く、時折りキラキラと星が散りばめられた夜空のように輝いていた。
馬も鎧で覆われていた。
古代ヨーロッパのレリーフや神話を描いた油絵に出てくるような鎧の軍馬。
鎧以外の部分は、メラメラと燃える黒い火が集まって馬の形を形成しているようだった。
足は・・・八本あった。
「ス、スレイプニール?」
なんかのゲームか、小説か忘れたけど、北欧神話かなにかで見た八脚の馬がスレイプニールという名前だった気がする。
俺は無意識にその名を口にしていた。
その人馬はあまりにも美しかった。
背を向けていた黒鎧の騎士は、フルフェイスのヘルム(兜)をかぶった頭を少しこちらに向け、肩越しにこちらを見た。
束ねられて兜の後ろから流れ出ている紫がかった髪も夜闇のようで、バイザーのスリットから見えた瞳もまた、吸い込まれそうなほど黒かった。
「君は・・・誰だい?」
兜の中から、落ち着いた口調で、くぐもった声が聞こえた。
「スレイプニルを・・・知っているということは、アルカトピアの人、なのかな?」
ハスキーな少年のような声だ。
馬上なのでよく分からんが、思ったよりも小柄だ。
あれ?もしかして、だいぶ年下? ガキ?
ちなみに俺はアルカトピアの人ではないです。
なお、馬の名前を知っていたのは偶然です。
ゲームとかやり過ぎたからです。
剣道系隠れヲタだからです。
「ま、ちがうな・・・あちらの世界の住人が剣道の面着けて、ケイパのコートは着ないよな?
・・・もしかして、君もシュヴァリエ?・・・は、無いな。うむ。ナイナイ。
特に、ケイパは無い。
せめてアディダスかチャンピオン。最悪でもカッパーを着るべき・・・」
あれ? ちょっと、バカにされてます?
ケイパ、ディスってます?
ひいてはケイパが超特価でたくさん売ってる中森町庶民のレトロ系百貨店ダイサンをもバカにしてます?
言っときますけどこのコート超特価で1500円でしたからね?
アディダスだったらその10倍ですからね?
もしアディダスのベンチコート持ってたら・・・。
汚れるのイヤだから、こんな戦闘に着てこないですからね!
つまり、ファンタジー戦闘に耐えられるケイパブランドなめんな!
とは、まぁ口に出しては言わないよ? なんか怖いし。
俺が無言でいると、黒鎧の騎士は俺に背を向けポッポーらと対峙した。
騎士が右手を上に掲げると、その手からゴォと黒い炎が立ち上り、その炎が黒い馬上槍になった。
「ハト4匹・・・私が貰ってもよいかな?」
え? この人、戦うんつもりなん?
貰うって、つまり俺の代わりにこいつらとやるって解釈でいいんだよな?
答えないでいると、
「・・・よいかな?」と重ねて訊いてくる。
「は、はい、ど、ど、どぞ」
俺がカミカミでそう答えると、「うむ。傷みいる」と言い、馬首を敵の方へ進めた。
イタミイルって、えーと、ありがとうってことだよね?
「ああ、範囲魔法を使うから、君はもう外に出たらいいだろう。あちらから」
ランスで霧の境界線を指した。
う・・・。
に、逃がしてくれるのか・・・。
や、最初から逃げる気だったから願ったり叶ったりなんだけど、なんか、もう少し見ていたいというか・・・。
話したいというか・・・。
情報も色々教えて欲しい気もするし・・・。
ぶっちゃけ魔法が見たいな~!
「ん? はやくしたまえよ、きみ?」
「あ、は、はは、はい、で、出まっす」
有無を言わせないトーン。
なんか、ガキっぽいくせに迫力ありすぎじゃない?
日常的に命令し慣れてない? 貴族?
俺は小物感マックスにソソクサと境界の際まで行き、振り返ってチラリと騎士の方をみた。
騎士は、俺がなかなか出ないつもりなのを察知していたのか、こちらに顔を向けており、肩をすくめると、早く行けとアゴで指示する。
はいはい行きますよ。
境界線に触れると、俺の体がゆっくりと吸い込まれていく。
皮膚が少しチリチリする。
弱い静電気でパチパチなってる感じ。
位相の変換とやらが行われて外に出されている感覚がコレなのか。
まさにスキャニングされてる感じ。
2分ほどで俺の体はほとんど排出されていたが、体をねじって頭を最後に出るように頑張った。
できるだけ最後まで見たい。
そして、その頭も境界を越えようという時、黒鎧の騎士は槍を前方に突き出す。
避ける間も与えず目の前のポッポーを一匹突き刺し、そのままランスを高く掲げた。
軽々と。
黒鎧の騎士が何言か呟くと、ランスはチョココロネを引っ張ってにょ~んと伸ばしたみたいに螺旋状に解けて伸び、その中から赤黒い炎が溢れ出る。
すげぇ・・・。本当に、魔法だ。
素直にそう思った。
昨日から魔法だなんだと言いつつも、微妙な感じのしか見てなかったからな。
これは、まさにホンモノの魔法って感じだ。
騎士は伸びた槍を「フンッ」と振り下ろし、刺さっていたポッポーを床面に叩きつける。
同時に黒炎が地面を半円状にゴォォと這い、その範囲にいたポッポーを燃やした。
4匹のポッポーは黒い火柱に包まれ、「ボォボボォ」と断末魔ともつかぬ啼き声を上げて・・・。
そして、そこで俺は、外に出された。
最後どうなったか分からん。
中の様子は見えない。
と言うより外から見ると霧の中は何もないように見える。
ポッポーも居なけりゃ騎士も居ない。
あれだけ穴だらけになった床もヒビだらけの塔屋も吹っ飛んだ貯水タンクも壊れていないように見える。
不思議だ。位相が違うってのは、こういうことなのかな?
よくわからないけどさ。
その12につづくけどさ。




