第一章 第11話 試しに一戦交えてみた結果・・・ その1
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天高く舞い上がり、キリモミ三回転ひねりで華麗に屋上へ着地!!
・・・できない。
俺は、一階上の、かなみの家のバルコニーのヘリの手すりにつまづき、転倒した。
顔から落ちたが、面を被っていたおかげでそんなに痛みはない。
ていうかっ!
え?なんで?
ジャンプ力・・・低くない?
人類最強、こんなもん?
しかもウサギタイプの騎士なのに?
起き上がり、困惑する。
顔を上げるとその視線の先、ガラス戸の中、リビングルームの中から、掃除機片手にこちらを見ているかなみのおばさんがいた。
びっくりした顔で、目をこすって、こちらを二度見。
そのまぶたが開く一瞬前に、俺は二度目のジャンプで、かなみ母の視界から消えた。
しかしそのジャンプでも、屋上フェンスを越えられず、弁慶の泣き所を強打。
反転。そのまま頭から落下。
剣道の面の防御力は、前面は鉄の格子なのでそこそこ高いが、脳天は布なので、今回は痛い。
おお痛い。
「おぉい、ポヨン~! 全然ジャンプできねぇじゃねぇかぁあ?」
頭をさすりながら、腰にいるポヨンに、悪態をついた。
右目からだけ涙がでる。
たまにあるよね。片目から涙。
「シンタロッ、あそこポヨ!」
叫ぶポヨン。
そして、俺の片目に映る・・・えーと、何? 切れ目?
だだっ広いマンションの屋上。
その真ん中辺りの中空に、ヒビが入っている。
そのヒビは、湖の氷が割れていくような軋んだ音を立て、縦に伸びていく。
そこから、紫掛かった霧が流れ出し、徐々にと周囲に広がり始めた。
「ポ、ポヨン! なんか、ほら! なんか出てきてる!」
俺はその霧の範囲から逃れようと後ずさる。
「大丈夫ポヨ!
むしろその霧の中で戦うポヨ!」
「インフォームドコンセプトが必要だって言ってるだろ!
説明だ! 説明しろよ! でないと絶対入らないからな!」
そう言っている間にも紫の霧は朦々と広がり、亀裂を中心に半球形をかたどって拡大していく。
「大丈夫ポヨ! その霧は一時的な異界ポヨ!
敵は魔界から来てるので、その中は魔界扱いポヨ! さあ行くポヨ!」
「その説明で大丈夫なわけ無いだろっ! 絶対行かんわ!」
霧のドームは広がり、後ずさる俺は、マンション屋上の端に追い詰められている。
これ以上広がってきたら、飛び降りるか、中に入るかしか・・・。
迷っていたが、どうやら霧はそれ以上に広がらなかった。
半径15メートルのドーム状ってとこか・・・。
「平気ポヨ! その霧の中に敵が現れるポヨ!
倒せば霧は晴れるポヨ!」
「毒霧とかじゃないんだなっ?」
「ダイジョブポヨ、その霧の中はこっちの世界の人間には見えないし、入れないポヨ!
位相が違うポヨ。すり抜けるポヨ。
でも一定時間経つと、中の状態がこちらの位相と統合されるポヨ」
「イソウってなんだよ!
つーか結局、中に敵がいて?今は普通の人は入れないし見えないけど、早く倒さないとそのうちこっちに出てくるってこと?」
「シンタロ馬鹿だけど大体そうポヨ。
中で建物とか壊すと、位相が統合された時にこっちもその状態になるポヨ。
統合される前に倒せたら、魔界は亀裂の中に吸収されて、破壊前の状態に戻るポヨ。
だから早く中に入って倒すポヨ!」
今、馬鹿って言ったなコイツ。
言ったなコイツ。
逝ったな。
「イダッ!ッポヨ」
俺は、ポーチから出てる頭をチョップすると、その霧に、歩を進めた。
ま、だいたい分かった。
時間内に倒せば器物の破壊はリセットされるってこったな。
わかりやすい閉鎖空間だぜ。
どうせ敵はポッポーだ。
サッサとどつきまわして、金と経験値をいただこう。
PS4買おう。
中は半透明のドーム状だった。
プラネタリウムの中みたいな。
霧がもうもうと充満しているかと思ったんだけどな。
外の様子も、紫のセロファン越しに見てる感じだけど、ちゃんと見える。
ふっしぎー。
その半球の中心にある亀裂は、ピシパキと音を立てて、先程より大きくなっていた。
あの中からハト怪人ポッポーが出てくるんだな。
ちなみに俺は、どんなカワイイゆるキャラ怪人が登場したとしても平気で殴るぜ?
絵面的に弱いものいじめている感じになろうが気にしないぜ?
なぜなら俺は、着ぐるみに「中の人」などいないと思っていた純真な幼少期の頃から、駅ビルのイベントに来ていたオーちゃん(我が区のゆるキャラ)に蹴りを入れていたし!
着ぐるみの中には汗を書きながら頑張っているバイトのにーちゃんが入っていると悟った小学低学年期にもオーちゃんに蹴りを入れていたタイプの人間だからだ!
ちなみにオーちゃんはウチの区にある羽川空港をイメージしたゆるキャラで、奇しくもポッポーと同じ鳥系の着ぐるみなんだけどさ、飛行機に鳥って、ちょっと・・・。
バ ー ド ・ ス ト ラ イ ク とか大丈夫ですかね?
暗い未来しか見えないんだけど?
ま、そんなわけで、ポッポーに、中の人がいなかろうが、中の人が元首相だろうが、全力でワンパンしちゃうぞ?
だから早く出て来い。
紹介とかナシでいきなり殴ったる。
なお、俺は子供の時から「ヒーローがダラダラ変身してる隙に殴ればいいのに」と思っていたタイプだ。
ポキポキ指を鳴らす。
キューティールナー改め、剣道コートマン。
せっかくだし、なんか、戦いの前に、ちょっと言っとこうかな。
えーと・・・えーと。
「 フ ッ・・・ 俺 の 中 の 、
獣 が・・・ 目 覚 め る ぜ ! 」
あれ? なんか違うな・・・。
いまのなし。
「え? シンタロ、ナニいってるポヨ?」
「う、うるっせぇ!
なんでもねぇよ!」
自分でも外したなと思っているのに、外からワンテンポ遅れでいじってくるのやめて?
ポーチから俺を見上げるつぶらな瞳に、ゴンとパンチをくれてやった。
その2につづいてやった。