第一章 第8話 初めて好きな娘の部屋に入った結果・・・ その5
◇ ◆ ◇
扉が開けられると同時に俺は飛び込むようにポーチに手を突っ込んだ。
一瞬のうちに吸い込まれる俺の体。
心臓バックバク。
セーフ!
今のはセーフだろ!?
審判!?
アウトだっつったらチャレンジ申し立てるぞ!
「あれ?んん~?」
瑠璃の声だ。
忘れてた。
別にかなみが紅茶入れててもコイツは動けるよねー。
「ん。なんか、ダンって聞こえたけど・・・」
あぁ・・・俺だわ。
『忍者が全裸に見えるポーズ(全裸バージョン)』を決めた時、ダンって着地したわ。
全然忍べてなかったわ。
忍ばずワッショイ。忍者失格。
マーセルの野郎、音もなく簡単そうにやってたけど、着地練習してやがったな。
「かなみさん、なにもないみたいですーっ」と廊下の奥へ大きな声で知らせる瑠璃。
俺はというと、ポーチ内で着地に失敗して一昔前のギャグ漫画よろしく逆さにひっくり返っていた。
もちろん全裸で。
「イッテー・・・」
このポーチはどの角度で飛び込んでも足からきちんと降りられるようになっているっぽいのに、頭から落ちると思っちゃった俺は変に受け身を取ろうとして、結果、ズッコケゴロンと回転して逆さで壁に激突ですよ。
壁が柔らかいからそんなに痛くもないんだけどな。
ま、こんなズッコケおもしろフルチンポーズを決めたところで、だれも突っ込んでくれないし、笑ってもくれないので、俺は起き上がることにした。
日常の中、偶発的に笑神降臨したというのにその時に限って客がゼロとか、ほんと虚しくなるよね。
あとで友達とかに話してもいまいちウケないしさ。
悔しいから今言っちゃうけど。
先週の土曜の夜中。
コンビニ行く途中。
俺、誰も見てないとこで。
バナナの皮で・・・。
コケたんだぜ?
・・・まじで。
・・・。
・・・・。
・・・・・。
ほら、言わなきゃよかった。
ホントなのに!
その時一緒にいたら絶対爆笑なのにーっ!
その、「ハイハイ、今作ったネタ乙」みたいな目をやめろっ。
いや、だってさぁ~。
俺の中のもったいないオバケが
「お蔵入りさせるには惜しいエピソードだ。せっかくだから披露しとけ」って囁くからーっ。
も―――っ! チキショウ。
結果、泣きっ面に蜂だよ。
「よっ・・・しょ。」
勢いをつけてかっこ良く起き上がろうか迷ったが、全裸だし誰も見てないし、無理してもしかたがないのでのっそりむっくり起き上がる。
ちょっと逆さを向きすぎていたのか、頭に血が行っててクラッとした。少しよろめく。
ゴツ。
周りの壁はポーチの生地だから柔らかいのに、わざわざ固いとこにぶつかった。
壁に埋め込まれた100インチのポヨンのテレビ。イッテぇ・・・。
パッ!
あ、テレビの画面が点いた。
接触型のスイッチなのか。
高機能か!
しかし魔法のアレの仕組みとかはよくわからんけど、とりあえずでかいテレビはいいねー。
実際この状況下では、あいつらにばれずに脱出できないもんな。
万全を期すにはちょっと長期戦の構え(例えばあいつらが夕飯食いに行ったりするのを待つとか、二人でお風呂に入るのを待つとか)になるかもしれなかったからな。
スマホが手元にない今、退屈しのぎがあるのはいいことだ。
で、どんな番組やってんだ?
普通の民放か?
それともアルなんとかピアの番組か?
それならちょっと興味あるよ?
画面を見る。
うん?
よく知ってる顔だ。
つーか瑠璃だ。
瑠璃映ってる。
ルーナギ、デビューしてやがる!
てことはこっちの番組?
・・・じゃねぇ。
・・・。
・・・・。
・・・・・・。
はい、ちょっと皆さんストップ!
さきばしるなー?
分かってる分かってる。
こ れ 、 ポ ー チ の 外 の 映 像 だ よ 。
考えてみたらこの機能は妥当だよな。
戦闘中このポーチの中にポヨンがいていろいろアドバイスしたり指示したりするのに外の様子がまるでわからないってのはダメだろうからな。
このソファに座って、くつろぎながらもちゃんと周りを把握するってのは重要かつ必須の機能といえよう。
だから、まぁ、つまり・・・
イ エ ス !
合 法 の ぞ き キ タ ――――――――― っ !
俺は、天を仰いでヨッシャーポーズを決めた。
全裸でヨッシャーッ!
全裸でワッショーイ!
全裸でイエスッ!
全裸でイエーェェッス!
うぉおい。やったぜコレ!
これぞ魔法のアイテム!!
踊るぜ、マイハート!
揺れるぜ、マイステック!
その6に、うへへ。