第一章 第7話 柄にもなく、勇気を振り絞った結果・・・その8
◇ ◆ ◇
な。
な。
な。
無いのかな~?
トイレ無いのかな~?
いやいやいやいや。
おかしいって!
出てこいよ!
トイレ!
隠れたって無駄だ!
どうなってんだよ、おい!
あるだろ!?
ワンルームマンションにだってトイレあるだろ!?
安アパートにだって最低限共同トイレがあるだろ!
いいよ!
贅沢言わないよ!?
シャワートイレじゃなきゃ嫌だとか言わないよ?
和式でいいからっ!
なんならボットン便所でもいいからっ!
出せ!
トイレ出せ!
出さないと出るぞ?
すごいの出るぞ?
期待を裏切るポヨンルーム。
まさかのトイレ無し物件であった・・・。
いやいや。
え?
うそ?
ちょっと待ってよ。
ほんとに?
あいつじゃあどこでリトルジョーとビッグベンするの?
それともアイドルは排泄しない論理でピンクのボールは排泄しないの?
ウ グ ゥ ッ !!
下半身に、重苦しい圧力。
勝利を確信して最後の力で押さえつけていた便意が揺り戻す。
ギリギリのタイミングでを裏切りにあった便意マンの顔面が蒼白だ。
マスクしてるから見えないけど!
もう限界か・・・。
そうか。
トイレ事変・・・ついに・・・詰みか・・・。
なんども投了かと思われた状況をこれまで切り抜けてきたのに!
眼の焦点が合わなくなってきた俺は、トイレェ、トイレェ・・・と小さく呟きながら壁際に手を当て、撫で摩すりながらヨチヨチと内股で歩く。
きっと無意識に隠し扉とか探しているんだと思う。
可哀想に・・・きっと俺このまま漏らしちゃうよ。
ビ キ ニ ア ー マ ー で ウ ン コ 漏 ら し ち ゃ う よ ぉ !
うひゃぁああ。
も、もうだめだぁあああ。
ゴツ、と俺の膝になにか当たった。
その衝撃で決壊しそうになった。
しかし便意マンが肛門砦の城門の前で全身矢ぶすまにされ、血まみれになりながらも仁王立ちして居るおかげでどうにか助かった。
まだ門は破られていない。
便意マン、お前・・・最期まで本当に頑張るな・・・。
なんか泣けてくるよ。
典韋や弁慶レベルの忠義者。
負けたとしてもおまえが今日のMVPだ!
俺の妄想空間に住まう脳内精神レスラーの中でコイツが最強なんじゃないだろうか?
考えてみたら排泄って三大欲求に次ぐ生存欲求だもんな。
食欲マンと睡眠マンは文句なしに強そうだが、性欲マン(=エロマン?)も使いドコロによっては物凄いポテンシャルを秘めているんだろうか?
そして、俺は溢れた涙で歪む視界の中、膝に当たったそれを見る。
凝ったデザインの花柄の意匠が施されている白い小さめのローチェストだった。
引き出しが三段の、膝丈より少し高いくらい。
幅は50センチくらい。奥行きは30センチくらいかな。
天板には小さい人形と花。
その上にポヨンの家族の写真だろうか?ピンクボールが三つ並んだ写真が飾られている。
嬉しそうな顔のポヨンがなんか四角い帽子かぶってトロフィーと賞状みたいなものを持っている。
卒業式とか?もしくはあいつがなんか口走っていた騎士導者か何かの授与式とか?
どうでもいいが、写真の笑顔が、いまの俺を嘲笑っているかのようだった。
「こ・・・このやろう・・・ブッコロ・・・」
無意識にチェストにケリを入れる。
と言ってももう、フラフラのヨチヨチなので軽くつつく程度のモノだが。
その時、キンコンと小さなベルのような音が鳴り、チェストの一番下の段(おそらく俺のケリが入ったところ)が少し光ったかと思うとスーッと自動的に引き出された。
「な、んか・・・開いた・・・」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
朦朧とする意識の中、俺は思った。
思うことにした。
嗚呼・・・これ。
き っ と 、 最 新 型 の ト イ レ だ わ ぁ ・ ・ ・ 。
便座が細くて、座ると太もも痛いけど、平気ですよ。
は? それは物入れ?
凝った作りと、飾ってあるものから考えて結構大事なものを入れてるっぽい物入れ?
ふ。
フハハハハハ。
何言ってんの?
これはトイレだよ? 明智くん。
ほら、俺の便意マンも!
息も絶え絶えで、頭に矢とか刺さってるけど、こっち見て親指立ててるもん!
あいつマスクの下は笑顔だよきっと!
だからこれはトイレですぅ~!
間違いないですぅ~!
だから・・・誰がなんと言おうと、
俺 は も う 、 こ こ で ウ ◯ コ す る か ら な っ !
お前らちょっとあっち向いてろよぉ!
もう、みるなよぉ!
ほっといてくれよぉ!
完全に涙があふれている。
わかってる。
わかってるんだホントは。
ポヨン、ゴメンよ? ゴメンゴ!
ポヨンのチェストにケツを向ける。
そしてパンツを・・・。
あれ?
うわー、なんかこのスーツ、ぴったり体に張り付いて脱げね―――っ!
もういいよ!
この期に及んでこんな罠いらないから!
謝るから!
ポヨンと、世の中全ての人々と、神と仏と忍者とマーセルに謝るからぁ!
「ぐ、ぐぬぅあ・・・シュ、シュゴブソォ・・・カイジョォ・・・」
俺は迷うこと無く変身を解いた。
ビキニアーマーが光の粒になり消えていく。
変身を解いたらこのポーチも一緒に消えて、全裸の俺がマンションの廊下にブリブリしながら降臨するかとか、一瞬だけ頭をよぎったが、もう、どうしょうもなかった。
結論としてはポーチは消えなかったんだけどね。
俺は全裸のまま、迷うこと無く引き出しに腰を下ろした。
そして、便意マンは・・・。
嗚呼・・・。
便意マン・・・ありがとう。
今までどうもありがとう。
今後はあんまり無理させないようにするからね。
そして、便意マンは、ビシッと敬礼。
そのままの姿勢で・・・ドサリと、倒れた・・・。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
ただいまクラシックが流れております。
画面が真っ暗ですが、仕様です。
もうしばらくお待ち下さい。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
スー、パタン。
引き出しをちょっと押すとそのまま吸い込まれるように収まった。
・・・。
うーん。このチェストも、魔法の何かなんだろうな。
開き方とか閉まり方とかおかしいもん。
匂いとか・・・全然漏れてこないし。
ほんと何も臭くない。
あれ?もしかしたら俺、ウ◯コとかしてなかったも。
一連のくだりは夢とか幻覚だったかも。
何も悪いコトしてなかったかも。
はは。
・・・そんなわけ、ないじゃん?
自己欺瞞もほどほどにしないと。
だってちゃんとケツ拭いたし?
うん。
反省しています。
ほんとに。
ただ。
ちょっと、精神的にショックが大きいんで・・・。
少しの間・・・ほっといて?
少しの愛で・・・そっとして?
◆ ◇ ◆
柄にもなく勇気を振り絞った結果・・・勇気マンのキャラを便意マンが食った。