第一章 第1話 かなみがエロい結果・・・ その2
◆ ◇ ◆
「やっ!
シンがゆっくり歩いているなんて、珍しいね!」
昨晩、ピンクのボールを投擲した自宅マンションから、最寄り駅まではなだらかな下り坂が続く。
その坂の途中で朱野かなみに後ろから声をかけられた。
俺の後ろ姿を見つけて早足で追ってきたようだ。
少し息が上がっている。
なんかもう・・・なに、その吐息。
かわいい。
超かわいい。
実は俺も君の姿を探していました!
ていうか待ってました!
わざとゆっくり歩いてました!
でも、
「ああ、なんか、早く起きたわ。
アラーム鳴る直前で目が覚めちまった」
と嬉しくもなさ気に、素っ気なく応える俺。
カバンは肩に背負う感じで持つ。
自分なりにカッコつけてる。
カッコ悪いかもだけど。
自分なりのクール&ニヒルキャラ。
「へぇ、それで同じタイミングとは、奇跡だねー」
「は? 別に、奇跡でもねぇよ」
「えー? 遅刻しないまでも、いつもはたいてい走って追いついてくるじゃない?
今日は私が追っかけたよ?
あ、おっはよーっ!」
思い出し挨拶して笑うかなみ。
肩を軽くポンと叩かれる。
春風にふわりと花が舞ったよう。
わざわざ追っかけてくれるとか。フフ。
なんかもう、なに、その笑顔。
かわいい。
超かわいい。
なのに・・・
「はぁ? 追いつくとか、別に、たまたまだろ。
別に一緒にガッコ行きてぇ訳じゃねえし。
なんなら別に時間ずらしてもいいし・・・」
ローテンションで答える俺。
カコイイ!
「えー?
うそー?
つれないなー。
一緒にいこーよー」
ちょっと拗ね気味のかなみ。
はい!うそです!
一緒にいきたいです!
お願いします!
どこまでも一緒に!
取り留めもない会話をしながら、駅までの長い下り坂を歩く。
嗚呼。幸せだぁ。
◇ ◆ ◇
同じマンションに住み、幼稚園から高校二年である現在までずっと一緒の学校(クラスは違うけど)。
昔、通ってた地元の剣道クラブもそろばん塾も、学童活動の町内清掃班も一緒だった。
いや、生まれた病院からして一緒且つ誕生日も三日しか違わないので、もう、キングオブ腐れ縁!
そう・・・ただの腐れ縁。
・・・と、向こうは思っているかもしれないが俺にとっては腐ってません、この縁は!
むしろ唯一無二の絆です!
小学生の時は、いつもまとわりついてくるこいつを鬱陶しいと思った時もあった。
しかし!春機発動期を迎えたバリバリ青い春ヒャッハーなここ最近!
僕に幼馴染などという超レアアイテムをくれて、神様ほんとにありがとう!
最高です!
と感謝する日々である。
そもそも、かわいくて優しくて性格のいい幼馴染アイテムなんて、人生ゲームアプリではガチャに何十万円つぎ込もうとも出るものではない。
ついでにスタイルもイイ。
おっぱいバンザイ!
もはやかなみは伝説上のSSアドバンスレア幼馴染であろう。
スカイフィッシュ並みのレア度であると確信している。
うぉおおお。かなみぃ――――ッ!
お前が俺の人生の メ イ ン ヒ ロ イ ン だ――――っ!
もう 結 婚 してくれ――――っ!
お前で 童 貞 卒 業 させてくれぇ――っ!
できれば今日!
今すぐにぃぃいいっ!
心の声が大絶叫。
いいんだ。
心の中なのだから。
内心の自由だ。
俺 は 自 由 だ !
ちなみに、メインヒロインがいれば、サブヒロインも当然いる。
そこそこ仲良く接してくれて、俺のストライクゾーンに入っている子は、みんなサブヒロイン。
誰がなんと言おうとバーチャル世代の高校生男子の脳内などそんなものだ。
そんなもの・・・だよな? な?
「シーン?」
きいてるの? と言った感じで覗きこんでくるかなみ。
か、顔が近くに!
大きい瞳がクリクリキラキラ。
カワイイなにそれ。星屑でも入ってるの?
さらに、サラサラでふんわりの、ちょっと色素が薄くて光が当たると少し茶色く見えるロングヘアが、もう、いい匂いすぎる。
「ハッ! ハァ? うん? え? え? なんだっけ?」
明らかにコミュ障。挙動不審。
というよりも普段女子と話す際には高確率で挙動不審になりそうなのを覆い隠すために、ぶっきらぼうな態度でクールな仮面を被っているのが日本男子というものだ。
世の中の男子は全員、寡黙な武士なのだ。
は?イタリア人?リア充?
知らね。爆発しろ。
つまりオラオラ押せ押せムードで女子に接することができる自分が出現できるのが脳内エリア限定なのも、バーチャル世代高校生男子の特性なのだ。
そうだよな? な? な? な!?
「だから~、夕べはよく寝られたのかって聞いたの」
ゆーべ?
ユーベ?
ユベントス?
あ、夕べか。
ふあ、なんかいい匂い。
えーと、夕べは・・・普通に寝たった、かな。
なんかあったような気も・・・。
「いや、あんま寝てねぇ・・・」
とりあえずの寝てないアピールは条件反射である。
寝ても寝てなくても寝てない。
俺は眠そうな、けだるい雰囲気を出してちらりとかなみを見る。
「あー、えーと・・・あ、朱野は?」
かなみのことをなんて呼ぶのかいつも迷う。
小さい時は、かなちゃんて呼んでいた。
小学生の時はカナブンってガキ特有のあだ名で呼んで嫌がられた。
中学くらいから、なんか意識して苗字呼び捨てになった。
今は、心の中では恋人チックにかなみと呼んでいる(内心の自由!)。
現実でもそう呼びたい。
というか恋人になってくれぇえええ。チュウしてぇぇぇ!
色んなとこに、チュウしてぇぇぇぇっ!
「わたしは、んー、夕べはねぇ・・・。
なんか、いろいろあって、寝られなかったなぁ・・・」
「な、何があったん?」
いろいろあってっていうだけで、軽くエロい妄想が思い浮かんでしまうこの脳みそを何とかしたい。
そして何があったんだ?
エロいことか!
ひとり×××か?
かなみは、少し考えてから言った。
「・・・ん~? ちょっとね。
ちょっと、今は、言えない、かな?
女の子の秘密ってやつ?」
「へ、へぇ・・・。ま、別に?
聞きたくもねぇし?」
聞 き て ぇ え え え え ぇ ぇ ぇ ―――――――― っ !
言えないとか、言えないとかっ!
くっそエロいっ!
だいたい女の子の秘蜜ってなんだよ!
何蜜だよ!
どこからあふれる蜜だよ!
いや、わかってるよ?
蜜違いってことくらいは。
俺は馬鹿じゃない。
バカにすんな。
ただ、もう、蜜ねぇ・・・げへへ(バカ)。
「ところでさ、シン・・・」
なんですかっ!
このエロい流れで、俺が登場ですか!
「夕べ、っていうか、夜中・・・」
夜中?
夜中に俺とかなみが!
なに?
「ベランダから、なにか・・・投げた? 」
背中がビクッとした。
「・・・。
・・・・。
・・・・・。
な、なんも。
な、んで?」
縁側で庭の盆栽を見ながらのほほんと日本茶をすすろうと湯呑みに口をつけたら緑茶じゃなくて抹茶ラテだった感じ。
昨晩の、すでに俺の中では夢だということで処理され、全てなかったコトにしたはずの荒唐無稽な記憶が高速スライドショーで再生された。
それをパパパッとかき消す。
ないない。ないから。夢だから。
「そう? ・・・ほんとに?」
かなみの視線が強い。
まるで、眼球の底を通り越して脳内を覗こうしているかのような・・・。
「・・・ほ、んとも、なにも。
え?なに?・・・しらんけど」、俺、完全に目が泳いでた。
その2へつづく