第一章 第7話 柄にもなく、勇気を振り絞った結果・・・その1
◆ ◇ ◆
ウッ、ナッ、ギッ!
ウナギ、うめぇえぇぇぇぇええええ!
なんだこれ!
何だこのウナギ!
ニクアツ!
厚い!
ふんわりふっかり!
なのに歯ごたえもクニっとしっかり!
タレだ!
タレがうますぎる!
深い!
そしてばーっと広がるこの香りと、スッキリながらもこってりとした味!
深くて広く優しい、母なる海の如き味わいのタレ!
そして、お重狭しと、どどん、どどどん!
ウナギの野郎を三枚乗せ!
三枚だぞ三枚!
しかも、ウナギごはんウナギごはんのミルフィーユ!
とんでもねぇよ! このうな重ゥゥうううう!
人生十七年。こんなウナギにはついぞ出会ったことがねぇ!
うまい!
うますぎる!
十万石まんj・・・ウナギ!
さすが、野田川・・・。
さすがひとつ約五〇〇〇円・・・。
ごごごゴセンエン・・・。
色んな意味で泣きそうだよ・・・。
そして、ぱくぱくぱくっと顔に似合わずなかなかの勢いで頬張るナギちゃん。
「んん~~~! やっぱりおいしーっ!
鰻は野田川の特上に限りますねぇ~」
限 ら ね ぇ よ !
ウナギの値段がバク上げした最近では、俺のウナギはサンマか豚肉のうなぎのタレ風味付け蒲焼きに限ってるよ。
「ま、ニーニくんのお財布を考えて、追加の白焼きとうざくはやめときました」
「へ、へぇ・・・」
「それ頼んだらニーニくんだけツナマヨおにぎりになっちゃいますからねぇ。かなり迷いましたけど」
迷 う な よ !
それほんとにやられたら君は即俺の敵だ。
エネミーナギちゃんだ。
「ちなみにおまけしてくれたこのお新香、千円なんですよ?」
「つ、つけもの高っ!」
「でもすごく美味しいです。どうぞ」
「う、ううう、うまっ! つけものうまっ!」
俺が考えていた二人分の昼飯代の総予算はお新香代にもならなかったようだね。
恐るべし野田川、そしてナギちゃん。
◇ ◆ ◇
満腹だ・・・。
すっげーうまかった。
たぶんもう二度と食わん! 自分の金では!
空を見上げる。
日が高い。
木漏れ日も鋭さを増している。
今何時だろ。一時半くらいかな?
空っぽになったお重をきちんとまとめて端に寄せているナギちゃんが、
「と・こ・ろ・でぇ~」
そんな声をかけられただけで、ビクッとする俺。
ももも、もう、カネは出さんぞっ?
「ニーニくん、なんで、家出してるんですか?」
クルッと向き直り、まっすぐ見つめてくる。
強い視線。
タジる俺。
かなみといい、瑠璃といい、どうして女子はこっちの心理ガードを視線一つで崩せるんだ?
そう、当然のごとく、視線が泳ぐ。背泳ぎ。
「い、家出なんて・・・」
「家出ですよ」
バッグをポンポンと叩いて
「ですよね?」
有無を言わせないね。ナギちゃん。
「あ、えー、えーと、その、なんだ・・・えーと・・・」
「あ、今、嘘とか考えなくていいですよ?
どうせニーニくんじゃ誤魔化しきれるだけのブラフはできないでしょ?」
こちらの煙幕を事前にシャットダウン。
「そういうわけで、無駄なコトせずに、正直に、どうぞ?」
君はさっきから嘘つきまくってたくせに。
とはいえ、メリーなんて正直に話せるわけねぇじゃん?
「さっきは、神社から出ると死ぬかもとか言ってましたね」
え?そんなこと言った?・・・かな?
言った気もする。
とりあえず一旦整理しよう。
俺はペットボトルのお茶を一口飲む。
そしてさっきまでの出来事、今朝の出来事、昨夜の出来事、思い出して整理する。
・・・うん。やっぱり話せない。
むちゃくちゃ過ぎる。
俺が頭おかしいと思われる。
「・・・あの、さ、正直に言いたいのは・・・やまやまなんだけど、多分信じないと思うし・・・」
「うん。だから話さないとそれも判断つかないんで。
余計なこと考えないで喋ればいいんですよニーニくんは」
バカの考え休むに似たりだから、ありのまま私情の入らぬ報告をせよってことかい。
ここ軍隊かな?
ナギ大佐と灰谷三等兵?
「・・・いや、うん、えーと・・・」
なおも口籠る俺。
いや、だって、正直に話すっつってもさぁ、どうしていいかわかんなくね?
どこからどこまで話せばいいのさ。
ポヨンのくだりを話さないと、俺が家にいる理由で嘘つかなきゃいけないし。
電話のやりとりとかもポヨンの件を抜きにするとつじつま合わせにアドリブいるじゃん?
そんなアドリブ、ナギ大佐相手だと多分、即ばれるじゃん?
そしたらナギ大佐からお仕置きくるじゃん?
ムチとか叱責とか肉体的精神的お仕置きならちょっと・・・いいけど(いいんか)。
金銭的お仕置きは勘弁して欲しいじゃん?
そんなこんなで、喋ろうとはしてるんだけど無言の状態でいる俺をみて、ナギちゃんが溜息まじりに口を開く。
「はぁ~・・・。
んーと、神社から出ると死ぬってことは~。
つまり神社に逃げ込んでるってことで・・・。
且つ、話しても信じてもらえないって思っていて・・・。
しかもそれが言葉にするのも難しいほど・・・となると・・・」
目を閉じてあごに指を当てて考えるナギちゃん。
数秒。
片目を開けてこちらを見て、
「んん~~~。
ま、オバケとか闇属性のモンスターに追いかけられてるとかですかね?」
す す す 、 鋭 す ぎ る だ ろ っ !
ナ ギ 大 佐 っ !
その2へつづく-っ!