第一章 第6話 ハングリーな結果・・・ その11
◇ ◆ ◇
「とーころでぇ・・・」
上目遣いにジト目ですり寄ってくるナギちゃん。
この子、猫っぽいよね。
でも猫じゃないので緊張する俺の体。
「は!ん?
な、なにかな?」
「んー?あれれ?
お腹が空いて、死にそうなところに、最後の一個の『ライフ全回復のキャンディー』をあげたのに・・・お礼の一つもなしですかぁ?
命の恩人が隣にいますよ?」
うおおおお。
飴玉一個で、大変なことに!
こらまた、すごい脅迫きますヨ! コレ!
「あ、あああ、あありがとう・・・うまかった・・・うん」
おののきながら応える俺。
何が来る?
どんな攻撃が来るのっ?
どこから来るのっ!?
しかしナギちゃんは、
「エヘヘ、どういたしまして」と言って、嬉しそうに笑っただけだった。
か、かわいい。
あれ?なんか・・・勘繰りすぎた?
俺、疑り深い、器の小さい人間ぽくなっちゃった?
そして、ナギちゃんはパッと立ち上がり、階段からぴょんと飛び降りると大げさな動作で回れ右をしてこちらを振り向く。
「ニーニくん動けないなら、わたし、なにか買ってきましょうか?」
「ぅえ?」
「空いてるんでしょう? お腹。
お弁当か何か、買ってきますよ?」
「あ、ありがとう・・・」
そうだ。健全な肉体と精神を保つためには、腹ごしらえだね。
腹が減っては戦はできない。
仮に腹が満たされてもメリーさんと戦う勇気はないけどね。
ナギちゃんは両手のひらを俺に差し出し
「さて、相談なんですけど・・・さっきの諸所様々なニーニくんの最低な部分を、かなみ先輩とルゥに黙っとく代わりに、私もおべんと、ごちそうになっていいですか?
それで、貸し借り無しってことで。えへ」
俺は、己を恥じたね。
いい子ですわ。ナギちゃん。
ひどい脅迫するかもとか疑念を抱いてしまった事自体が、己の精神的矮小さの証左ですよ。
もうね!弁当奢るぐらい全然いいですよ!
ま ぁ 、 借 り は 一 個 も な か っ た は ず だ け ど ね !
バッグのサイドポケットから財布を出す。
んー、小銭は全部で634円か。ムサシだな。二人分だと足りないよな・・・。
そして俺は、万札を一枚取り出し、
「なんでもナギちゃんの好きなの買ってきていいよ。
俺は・・・そうだな、甘い系のパン以外なら何でもいい。
あ、あとペットボトルの飲み物も何本かお願い」
人差指と中指でかっこ良く(?)挟みながらスッと万券を差し出し、ちょっと大人な感じを気取ってみた。
気取れていたかはしらん。
ナギちゃんはニコッと笑って
「かしこまりっ! 甘いパン以外ね!」
カワイイ敬礼をして、タタタっとかけだし、鳥居の前で一度振り返り手を振ると、
「美味しいの買ってきますねぇー」と、そのまま階段を下っていった。
手を小さく振って見送る。
うん。
そこ、メリーさんいないよね・・・?
一人になると、忘れていた恐怖感がぞわぞわと頭をもたげてくる。
えいくそっ!
ま、メリーもポヨンも全部、腹ごしらえが終わってからだ!
日が高く上り、少し暑い。
フライングしすぎている蝉が一匹、寂し気にジジッと鳴いた。
◆ ◇ ◆
そして。
そして・・・。
おせーな・・・。
おせーよ・・・。
おそーいですわ。
この辺で適当にお弁当買うってなると、そこらのコンビニか、商店街のほか弁か、目の前の駅ビルの食品売り場くらいが妥当なのだが、なんだかんだで、もう一時間はとうに過ぎている。
もう昼過ぎてんじゃね?
あれー?
どーしたのかなー?
メリーさんにやられちゃったかなぁー?
そんなわけないよねぇ?
だとするとー。
えーと、まさか・・・、まさかまさかのまさかですけど、ナギちゃん。
イチマンエン、パクって逃亡・・・。
なんて・・・。
そんな、ハハハ・・・。
ないない。
だってあれだよ?
それいわゆるひとつの寸借詐欺ってやつですよ?
犯罪じゃないですか。
そんなコトする?
だってあんなに可愛くて素直で・・・。
素直と言っても自分の欲望に素直で。
嘘の量と質がハイクラスで。
沈んだ顔とか涙とか完全にフェイクで。
五分に一回は相手の弱みを掴むどころか創りだして脅迫してくる。
そんな子が、寸借詐欺なんかするかなぁ?
す る よ っ !
いや、普段はしないと思うよ?
だけど俺に対してだけはやりそう!
躊躇なくあらゆるものを掠め取りそう!
俺の金なんて自分のものって思ってそう!
ていうか完全に見下されてたね! 今思えば!
おおおおぅ。まじかよー。
逃亡資金、四万のうちの一万は非常にヘビーだぜ―――っ。
しかも逃亡開始二時間弱でそれって!
一ターン目にHPを25%も削られたらもうその勝負勝てねぇよ。
しかもライフ回復手段はないのだ!
そして、腹は物凄く空いているのにこの神社から出ることもできないので枯死を座して待つ以外にないということは結局金使う宛もないなぁ、俺よ!
くっそ―――っ! 一万円飛んだぁぁぁぁぁあああ! ナギちゃんめ――――ッ!
心の中で、怨嗟の大音声を上げていると、鳥居の向こうの階段から、ナギちゃんの豹耳頭がぴょこぴょこ登ってくるのが見えた。
「おまたせしました~っ」って声を上げてこちらに手を振っている。
・・・。
・・・。
・・・ばか。
ばか、お前。知ってたよ。
ナギちゃんがそんなコトするわけ無いじゃん?
いい子なんだから!
いい子で可愛くて優しいんだから!
なに疑ってんだよ!? まったく!
よいしょっと小さく呟き、隣に腰掛ける。
もう一度、おまたせでしたっと上目遣いの、花が咲いたような笑顔で言う。
そして、ペットボトルのお茶を二本差し出す。
うへへへ。ダイジョウブ。待ってないよぉー。
ていうか、えーと?
あれ?
お弁当は?
俺の頭上にはてなマークがピコンと浮かんだところで
「おーい、ナギサちゃん、足速いよぉ。ワシもう年なんだからいたわっておくれよ」
鳥居外の階段を岡持ちを持って上がってくるおじさん。
いや、おじいさん。
え?だれ?
ナギちゃんは、「はーい、こっちこっちー」と手を振る。
俺らの前まで来たおじいさんはヨッコイセと岡持ちを隣に下ろし、中からお重を二つ取り出し、僕らに渡した。
さらになんかお椀を僕らの隣に置き、「椀とお新香はサービスだよ」と、小ぶりの鉢に入ったお漬物をくれた。
え?なに?
お弁当? 出前なの?
ナギちゃんは、「わ、ありがとー、お新香美味しいもんねー」なんて言いながらはしゃぐ。
おじいさんは、「食べたらそこ置いといてくれていいからな、山吹さん家は特別扱いだ」と言って帰っていった。
岡持ちには、野田川と書かれていた。
野田川? ん~、どっかで聞いた気がするな・・・野田川・・・野田川・・・。
あ。
鰻 の 名 店 、 野 田 川 !
中森町に住んでいるものなら一度は聞いたことのある野田川。
一度は食べてみたい野田川。
敷居の高い野田川。
たしか、母方のじいちゃんばあちゃんが知り合いの法事かなんかで数年ぶりに上京してきた時に、オヤジ達が気張って連れていったのが・・・。
THE NODAGAWA!
「あ、ニーニくん。お釣りです」
お重を見ながら軽く冷や汗をかいている俺の手のひらに、ナギちゃんがお金を乗せる。
見る。
硬貨が、えーと、四枚。
・・・うん。
17 円 ッ !
やっぱ一万円 飛んだぁあああああああああっ!
ぐあああああああ。
◆ ◇ ◆
ハングリーな結果・・・イメチェンした女の子に翻弄されて、財布の中身がハングリーです。




