第一章 第6話 ハングリーな結果・・・ その8
◇ ◆ ◇
と、ととと。
とりあえず!
今後、俺を取り巻く女性諸氏に如何な罵詈雑言を浴びせられるかは、ともかくとして、この場でどのような言い逃れをしよう?
それが大事!
動け!灰谷慎太郎の灰色の脳細胞よ!
この場を丸く収める魅惑の言葉をなんとしてもひねり出すのだっ!
もしくはどんな罵詈雑言を浴びせられても上手くリフレクトする精神的対ショック体勢を・・・。
「ニーニくん・・・ありがと・・・」
そう!
ありがとうと罵倒された場合は・・・。
え? ありがと?
「・・・本当に、嬉しいです・・・」
「う・・・お?おう?」
顔を伏せたまま、謝意を口にする。
そしてまたもやタジタジとタジる俺。
「ニーニくんが、まさか・・・」
「うん?まさか?」
「 まさか! いきなり プ ロ ポ ー ズ してくれるなんてっ! 」
バッと顔を上げるナギちゃん。
あれ? 涙ないよ?
「もちろんお受けしますよ?
でも、わたし、まだ14なので式は二年後でいいですか?
それまでは婚約者って扱いでニーニくんの部屋でイチャイチャ同棲ですね?
結婚を前提としているなら18歳未満でも問題ないらしいですよ?いろいろと!
私、小柄なのでベッドはニーニくんのあのシングルでも十分ですし。
あ、あたし、お姑さんや小姑さんが同居でも全然オッケーです!」
は?
や?
え?
おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ???
どどどどどどういうことぉおおおおお?
「はっあ? あの? え? ぷろぽっ?」
プロポーズってなんですか?
何いってんですか、この子!
思わず、肩から手を離し、のけぞりながら後ずさる。
即座ににじり寄るナギちゃんに、逆に両肩を掴まれ、
「プロポーズですよ?
しましたよね?
いま!
しましたよ!
いま!」
俺は首をふるふると横にふる。
否定する単語すら思いつかない。
「うちに来いって! ずっと泊まれって! これプロポーズですよね!?」
「ちょ、え? ち、ちがいま・・・」
「え? 違わないですよ!?
かんっぜんに、紛れも無く、間違いなくプロポーズです。
『僕のパンツを洗ってくれ』より、『君のみそ汁が毎日飲みたい』より、よっぽど直接的ですよ。
プロポワード比喩表現ランキングだと、『うちに住め』なんて、『結婚しよう』の次くらいの位置ですよ?
ちなみに最下位は『君のみそしれる』です。
相手がこれで理解してOKしたらその人はめぞん一刻大好きなんです!」
ちがいますと言い終わらないうちに否定され、しかも微妙に表現を改竄されてプロポーズっぽい言葉を言ったふうにされた上に、余計な知識をインストールされ、もはやどこを否定し、突っ込んでいいかのポイントを見失う俺。
ただひたすら、小さく首を振るのみである。
そんな俺は、両肩にかかる圧力に押され・・・あれ?なんだか視界が傾いて・・・。
ドサリ。
押し倒されましたね。
タトゥー金髪の女豹に。
眼前のナギちゃんの背景、空ですからね。
豹柄フードの脇から流れた金髪が垂れて、鼻孔をくすぐる。
いい匂いが・・・いい香りぃ。
芳しく薫るパヒューム的なアレで、脳髄痺れそう。
「あ、あ、あ、あ、あのー、ナナナナナギちゃん?」
「ん?なんだっちゃ? ダーリン?」
いや、ダーリン違う!
高橋留美子作品から離れてください。
君、ネタチョイス古いな!
逆光のナギちゃんがニヤリと笑う。
「それにしても、ニーニくんは悪い人ですねぇ?
かなみ先輩という長年連れ添った人がいながら、彼女を無碍に捨てて、年端もいかない子供にプロポーズするなんて・・・本当にひどい人です。
まさに、外道ですね?」
これは否定せねばーーーーっ!
「ちょちょちょっ! ちょちょっと! ちょっと待ってよ! 待ってください!
ちちち、違うよね?
なんか違うよね?
なんつうの?
俺的には、えーと、思いやりの発露というか、ほっとけないとかそういう感じのアレであって、マリッジとかじゃなかったよね?
いや、確かに言葉尻だけを捉えたらどことなくそう聞こえなくもないけど!
でも、それは言葉の履き違いというか。
無理やり勘違いした上での誤解というより意図的な曲解というか・・・」
ナギちゃんは、ちょっと肩をすくめて、少し呆れたような、軽い溜息をついた。
「あー・・・、そういうこと言っちゃいますかぁ・・・。
あのですね? 誰が聞いても、プロポーズにまごうかたなきセリフを夢見る未婚の女子に囁いて、相手が歓喜の涙を流しているのに、『やっぱあれウソ!』とか・・・、『君の勘違い!』とか・・・、『あれは誤解だ!』とか・・・。
ほんと、グラビアアイドル食いまくりのチャラチャラ芸能人か、婚活パーティーで焦る女を食ってポイのゲス公務員か、クヒオ大佐くらいの外道精神持ち合わせていないと言えないセリフですよ?
ピュアだと思っていたニーニくんはいつの間にかそこまで落ちぶれていましたか・・・。
あーあ、かなみ先輩カワイソウプププ・・・」
ちょっとぉ! だから、かなみ関係ないじゃん!
「これ、面白おかしく話したら、かなみ先輩、どんな顔するんだろう?
知りたくないですか?」
知 り た く な い よ っ !?
俺は、ナギちゃんに組み敷かれながら顔面が蒼白になっていった。
「フフフ、ダイジョウブです。
言いませんよ?
そうですね・・・お願い聞いてくれたら」
おお、ナギちゃん、わっるい笑顔!
中学生にして脅迫者!
ていうか!
ていうか―――っ!
なんだかちょっと前に似たような感じのセクションが展開されたような気がするぅっ!
そう! それを人は「デジャ・ヴ」と呼ぶ!
色っぽい乱暴な保険医に「デジャ・ヴーというやつじゃな」と言われて、トランキライザーをたっぷり処方されてしまうアレですよ!
あれ?結局、高橋留美子作品から離れられてないぜ!?
デジャ・ヴの原因は、夢で以前見ていたとか、脳内の記憶に影響する海馬という部位が似たような記憶を既知と勘違いしちゃうからだとかどうとか・・・。
つまり、誰もしらないはずの新カードがいきなり出てきて、「海馬さん、お前それズルくね?」とか思ってたら、すでにこっちのデッキにはそのメタカードが入ってて、「遊戯、お前のほうがずるいわ」的な、相手のライフはもうゼロよ・・・それがデジャ・ヴ! あれ?
じ ゃ ね ぇ え よ !
あったあった!
確かに体験したコレ!
ノーデジャヴ!
まさしく実体験!
さっきフツーに騙されました!
つまり、ナギちゃん!
ここまでの話・・・コレまた全部、嘘だろっ!(ようやく気が付きましたよ! 俺は!)
その9につづく