第一章 第6話 ハングリーな結果・・・ その5
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再び隣に座り直したナギちゃんは、木々の向こうの雲を眩しそうに見ながら
「天気いいですねぇ・・・」足をプランプランと揺らしながら言った。
「あ、そ、そうね・・・」
精神的に400メートルハードルをさせられて、どっと疲れて相槌も曖昧な俺。
結局、アイドルデビューの話は、完全にウソだったらしい。
たった今思いついたらしい・・・。
適当に考えながら喋っていたらしい。
ルーナギってユニット名も、ウソなんだ・・・。
そんなアホなウソに、完全に騙された奴がいるらしい。
バカだなそいつ。
いや、うん。俺バカだ。
でもなー。
なんというか、たしかにめちゃめちゃな内容の話だとは思うんだが、話し方とか、間のとり方とか、視線の動かし方とか上手くてさー。
あと、あまりにも荒唐無稽な出来事が立て続けに起こっているこっちのタイミングとか・・・。
つまり信じちゃうんだよ!
信じちゃったんだよ!
仕方ない!
騙されたことはさておき、緊張も少しとれて話しやすくなったところで、そもそもなんでそんな風貌にイメチェンしたのかを、ちゃんと訊いてみる。
「じゃあ、結局、なんでそんなカッコしてんの?
服は・・・ともかく、金髪とタトゥーはイメチェンにしてはやり過ぎじゃないか?
周りの友達とか、親とか、先生とかなんも言わない?
私立の学校って厳しいんじゃないの?」
軽い感じの年上ポジション的なしゃべり。
相談にのる感じで余裕を出してみるテスト。
「あ、あのガッコはやめました。退学です」
「はっあ? えっ? ちゅ、中学を!? えっ、まじ?」
いきなりドンと胸をどつかれた感じがした。
早速どもっている。
年上の余裕ってなんだろう。
「公立の中学に転入しましたけど、一回も行ってないです。
だから先生に何も言われないし、友達も居なくなりました。
だから・・・平気です」
いや、平気じゃないだろ!
「ななな、なんでっ!?」
「ま、お嬢様ばっかですからね。あの学校。
こんなカッコの友人なんて要らないし、家の人達も関係持って欲しくないんでしょうね。
電話も取り次いでくれないし、ケータイも着拒ですからね。
本人がしたのか親がさせたのかは知らないですけど。
で、暇なんで、だいたい毎日この辺プラプラしてます。
なので、この時間、この神社のこの場所は私の席なんですよ。
天気のいい日は」
なんというか、なんと言っていいか・・・。
「あ、そういえばルゥだけは見た目変わってもガッコやめても、何も態度が変わりませんでした。
だから、友達は・・・ルゥだけですね」
「そ、そう・・・」
いや、瑠璃、偉いな。なんか。
「親は、こないだ離婚して、ママはどこかに行きましたし、パパは元々ほとんど家に帰ってこないので・・・。
あ、破産したんですよ。パパの会社倒産して」
「えっ! り、離婚っ?
おじさんとおばさん離婚っ?
って、破産? えっ?」
俺さっきから「えっ」ばっかりだな。
ナギちゃんは無視して続ける。
「ま、だから、なんでこんなカッコしてるかと言われれば・・・。
んん~・・・」
考えこむように目を閉じてコメカミを人差し指でグリグリし、
「つまるところ、グレたんですね。あたし。フフッ」
・・・なんか、笑った。
いや、笑い事じゃなくね?
ちょっと。ちょっと待てよ。いきなりキツくないか?
中学生だぞ・・・。
中学生の頃なんて、俺、なんも考えてなかったぜ?
食い物と剣道とプロ野球とエロいことのカルテットのみで日々を過ごしてたぜ?
後、トッピング的にせいぜいマンガ・アニメ・ゲームくらいだぜ? あれ?
だ い た い 今 と 一 緒 だ !
うん。
だからつまり、中学生の日常なんて単純でバカで幸せだと、そう・・・思っていた。
そんな、離婚とか、破産とか・・・退学とか。
・・・友達いなくなるとかさぁ・・・なんか、どうすりゃいいんだよ。なぁ。
かける言葉がないって・・・こういうことか。
何言っても、なんも経験してないガキじゃ、空回りだ。
でも、ソレが当たり前だ。
心の奥の、どこか知らない場所に、黒いボーリングの球を、ドスンと乗せられた感じだ。
ちょっと、えづくような感じで息が苦しい。
「あ、あの、あのさ・・・なんていうかさ・・・えぇとさ」
無理矢理言葉を絞り出そうとするけど、カスも出ない俺にナギちゃんが
「あ、でもでも、別に、気楽ですよ?
今、アパートに一人暮らしなんですけど、前の家は広すぎたっていうか、今のほうが落ち着きますし!
あ、一応パパは同居って事になってますけどめったに帰ってこないから、夜更かししててもイイし。
今まではママの見栄でお嬢様学校に無理矢理通わされていただけで、はっきり言って窮屈だったし、無理に優等生してたし。
・・・高校も・・・行くつもり、ない・・・から。
受験勉強も、ないし。
だから、今けっこう・・・うん。
ダイジョウブ、です。えへ」
なんで、ナギちゃんにフォローされてんだ、俺は!
明らかに無理してんじゃねーか!
「・・・ん、うん。 いや、ダイジョウブじゃなくて。でもさ・・・」
慰める?元気づける?共感する?
その方向性も定めることができない自分が情けない。
瑠璃はなんて言ったんだろう。
何も言わず何も変わらず、友達で在り続けたのだろうか?
だって、俺なんて、両親もいて妹もいて、友達も多少はいて、金持ちというわけじゃないけど貧乏でもなくて、受験勉強とかも来年で、自由に、適当に暮らしている。
肉体的にも精神的にもだらだらモラトリアムのぬるま湯につかっている・・・。
そんな俺が何を言えるよ?
ナギちゃんは、身も心も成長しきってない青春の入り口で、ぬるま湯から焼けた鉄板の上に引きずり出されて・・・。
あれ?
俺、なんか、ちょっと、泣きたい感じがこみ上げてきた。
「た、大変だったね・・・じゃなくて。えーとさ・・・」
次の言葉を紡げず、下を向く俺の顔を心配そうに覗き込むナギちゃん。
やばい、マジで目頭がなんか少し熱くなってきた。
ナギちゃんは取り繕うように
「ニ、ニーニくんっ?
あ、あのホントに・・・平気なんですよ?
む、むしろ、楽になった面もあるっていうか・・・。
ほら、えーと、たとえばですねー・・・恋愛とか!
いままではアイドルでもないのにそういうの絶対ダメでしたからね。
パパも、ママも・・・。
結婚相手も無理矢理決められそうな家だったので、ほんとにそういう意味では、自由恋愛バンザイっていうか・・・。
だから、ほんと、一人でも・・・全然、平気・・・」
「 強 が ん な っ ! 」
うぉ、お、思ったより大きい声出てもうた。
ナギちゃんがビクッとなって固まる。
自分もちょっとびっくり。
「・・・あのさ。・・・強がらなくて、いいんだ」と、今度は、落ち着いた声で言う。
だって、何が楽だよ?
楽な面なんてねぇだろうよ。
中学生が、親いなくて飯とかどうしてんだよ。
炊事も洗濯も掃除も全部自分じゃないのかよ。
誰もいない部屋で一人で寝て、一人で起きて、おはようも無くて・・・。
あとは・・・お金とかも。
まさか今日の飯、さっきの飴玉だけじゃないだろうな?
俺は、自分のできることはなにかないか考えた。
ぐるぐるぐるぐる考えた。
無い知恵絞って。
泣きそうな気持ち抑えて。
その6へ・・・つづく




