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俺がビキニアーマーでどうすんだ!?  作者: ダラリノコトダマ
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第一章 プロローグ的な・・・

◆ ◇ ◆ 


 思うに、物語はハナからバグっていた。

 ・・・気がする。



 そんなわけで、俺は叫んだ。


「 裸 の 美 少 女 じ ゃ な い か ら 、 や り 直 し ! 」


「どういうことポヨ―――――――――ッ?」

 ピンクのボールに長耳を生やしたような謎の生物(?)も、叫んだ。



 つまりはこうだ。

 夜ふかしすぎの寝ぼけ眼な深夜二時。

 バイト探しのサイトで「軽作業」、「警備」、「ホール係」、「配達」などに混ざっていた「美少女騎士募集」のバナー。


 そんなのクリックするじゃん?

 仕方ないじゃん?


 マウスのボタンをカチッと押した瞬間、画面からあふれる閃光。

 そして画面から飛び出してきたこの謎のピンクボール生物・・・が言うには、どうやら俺はコレと契約して異世界を救う栄誉を得たらしい。



 ハハハハハ。

 ついにキタ―――――。

 異世界へのルート~~~。


 

 ハイ! 結論。


 俺は寝ぼけている。

 もしくはすでに寝ていのだろう。

 これ夢だ。間違いない。


 夢の中ならば朗々と語ろうじゃないか。

 

 俺は大げさな身振り手振りで

「おお。

 憧れの異世界。

 血沸き肉躍る冒険。

 めくるめく異種族美女たちのハーレム。

 世界を救い、称えられる勇者としてのカタルシス・・・なんと素晴らしい。


 だ が 、 断 る ! 」



 憧れのセリフを言えたことに深い喜びを感じる。


 そして俺は椅子にふんぞり返って、謎の生物にびしっと指を差し、続けた。

「あのなー?

 巻き込まれ系主人公が、いつだって異世界に行きたがると思うな。

 あと、お前のデザインがだめだ。

 異世界へのいざないは、『扉を開けたら着替え美少女』もしくは『PC画面から半裸美少女』だ。

 あるいは空から、街角から、引き出しから・・・。

 まぁ、とにかく裸だ。美少女だ。

 でなけでば誰が好きこのんで、異世界くんだりまで行って命を懸けると思う?

 知ってんだよ。

 あっちはあっちで大変なんだ。

 お前みたいな幼児向けマスコットじゃ、大きいお兄さんは釣れねぇな!」


「え―――――っ?

 なぜポヨ!

 なーぜーポーヨー!

 全世界、全ての少女たちの永遠の憧れたる、世界のヒロイン、『美少女騎士シュヴァリエキューティールナー』に選ばれて、それを受け入れられないなんて!

 アルカトピアの危機はどうなるポヨ!

 アークマーダーを野放しポヨか! 

 納得出来ないポヨ!

 ありえないポヨ!

 ありえないポヨ~っ!

 理由を! 理由を聞かせるポヨ! 」


 目の前の床をポヨンポヨン跳ねながらソレがまくし立てる。

 なんだ?世界のヒロインて。規模がでかいわ。

 軽くいらついた。


 PCデスクに片肘をつき、回転椅子に座ってその光景を漫然と見ていたのだが、ちょうどソレが足の前に跳ねてきたので、ズン!と、うまい具合に踏みつけてやった。


 ムギューッという声が足元から聞こえる。



 ブニョンとひしゃげるソレ。

 ゴムマリというよりは、耐久力の高い水風船に近いかもしれない。

 足をグリグリ動かすとプニュプニュ形が変わってちょっと面白い。

 なんか、や~むぇリュぽよ~、とか言っているし。


 ほっぺたを左右からはさみながら喋らされている感じが、悪戯心というか、嗜虐心というか、その辺のトコを刺激してきますね、これ。イヒヒ。



 しばらくプニュプニュグリグリを堪能した後、頭をぽりぽり掻きながら

「あー、えーと、・・・とりあえず、君の置かれた状況にはなんとなく全面的に同情する。

 そして、なんかアルなんとかピアの危機?

 救ってやりたいとおもう全力で。

 で、アクマーダ?

 悪いやつ?

 これは大変だ。

 何とかしたいぞ? 本当だ。

 だがしかし・・・全ての少女だが幼女の、憧れの?

 世界のヒロインナントカになることができない理由としては、だ・・・」

 と言いながら踏みつけている足を、ぐりぐり動かす。


「・・・にゃんだぷゆょ(何だポヨ)?」

 ひしゃげながら聞き返した足の下に向かって



「俺は! ど・う・見・て・も・男! だろが――――――っ!」



 足元の軟体生物的なにかを掴みあげ、その顔らしきものを目の前に持ってきて、

「だぁーかぁーらぁー、どうか他所をあたってくださいなぁ!

 あ~、でも妹の所には行ってくれるなよ。

 自分の妹が世界のヒロインで魔法少女ビューティーなんとかとか、

 絶 対 イ ヤ だからな!」


 そこまで言って、それをぽいっと投げ捨てようとした・・・その時!

 ゴムマリの目がキラリンと光った。


「もし・・・」

「ん?」

「もし、断ったら・・・」

「断ったら?」


「 ・ ・ ・ 死 ぬ 、ポ ヨ 」


 なんか、低い声で言いやがった。


「・・・あぁん?」

 より、低い声で聞き返す。

 軽くメンチとやらも切ってみる。

 オウ、何やコラ。

 俺のアイアンクローで軽くひしゃげているくせに、クリクリとしたぬいぐるみ的な瞳で俺のメンチに対抗してくる。

 そして、


騎士シュヴァリエを辞退したならば、ポヨンはお前と女神様との魂のリンクを解除しなければならないポヨ。

 騎士契約が成ればリンクは本人の意志以外では解除されないポヨだけど。

 なお、リンクされてから七十二時間以内に騎士契約しなかった場合も自動解除になるポヨ・・・」


「何言ってんだ。

 望むとこじゃねぇか。

 よく知らねぇけど、はよ解除しろよ」

 俺は語気を強める。


「・・・魂リンクの解除は、一度、接触、融合した女神の魂がお前の魂から分離するということポヨ。

 人間の魂はそれに耐えられず、砕け、引き摺られて一緒にその体から離れるポヨ。

 ・・・つまり死ぬポヨ」


「・・・・・」

「さらに、抜け殻になった騎士の体は、その勢いで消滅するポヨ・・・」

「し、消滅?」

 なんか、とんでもねぇこと言いやがった?

「つまり爆発してバラバラになるポヨ。爆発四散ポヨ。ナムアミダブツ」

「・・・ほぉ。ナムアミ・・・?」


 う~ん。

 言葉が、いまいち出てこない。

 だって、丑三つ時ではないけれど、充分、深夜である。

 意識もフワフワ、もう寝ようと思っていたところだ。


 で、寝る前にちょっとエロい動画でも見ようとして、ああ、そういえば前回のバイト辞めてからちょっと経つし、夏休みに向けてお金もほしい気もするから、あさってからのゴールデンウィークに軽く日雇いのバイトでもしようかな~、と思ってバイト探しのサイトを適当にポチってたら画面からこんなゆるキャラまがいのモノが出てきたのだ。


 あれ?

 もしかして求人サイトじゃなくて初志貫徹してエロ動画を見ていたなら画面からムチムチプリンなおねーたまが出てきたんじゃないか?

 ぐわ、超失敗した!



 とにかく、俺は死の宣告をされたようだ。

 混乱と怒りと、ぜんぶ夢だろ?という気持ちとか、なんだかいろいろ混在して、言語中枢の働きをぐちゃぐちゃにした。


 つまり無言。

 思考停止状態の俺。

 気分的には額から一滴の汗がツツーッ。


「ふ。どうしたポヨ? ・・・あぁ、やっぱり、やる気が出てきたポヨ~?」

 雫型のおちょぼ口の端が、クイッと上がって、ちょっと笑った。


「ククク、色々と理不尽に踏みつけてグリグリしてくれたけど、今なら深々~っと頭下げて、どうかワタクシめを美少女騎士(シュヴァリエ)キューティールナーにしてください~って、丁~寧~に、お願いされれば、寛容なこのポヨン様は、許してやらないこともないポヨよ~?

 あっ、あと、この世界といえばアレ!

 栗ポヨ!

 栗!くり!クリ!栗まんじゅう!栗最中!

 天津甘栗をたくさん!

 たーくさん用意しr」


 ぷち。


 ムカつく笑顔から放たれるクソのような長台詞を聞いているうちに、混乱してた俺の思考が一つの感情に素早く統一された。

 そう、怒り!



 ポヨンを持ったまま、すっくと立ちあがる。

 カラカラと窓を開け、バルコニーへ出る。


 親戚が集まってバーベキューパーティーができるほどのバルコニー。無駄な広さ。

 スタスタと歩を進め、バルコニーの端へ。


 ぐわしと鷲掴みにしたレタス大のソレを高く掲げて大きく振りかぶる。

 足を上げる。背中が見えるほど腰を大きくひねる。そして叫んだ。



「 野 茂 英 ◯ ぉおおおおおおお!」



 怒りが具現化されたトルネード投法から放たれる推定150キロ、実質50キロの剛速ポヨが夜空に放たれる。


 ッポヨォオオオォォォォォ・・・・という声とともに、そのピンクボールはマンションの八階から、夜の闇へ消えていった。



 ・・・。

 ・・・・。

 ・・・・・。

 ざまあみろ。

 俺は何も見なかったし聞かなかった。

 夢だった。

 間違いない。


 全く嫌だなぁ俺ってば、寝ボケちまってもう。



 投擲姿勢から体を起こし、ふぅ、と息を吐く。

 バルコニーの手すりに肘をかけ、下を見る。


 眼下には、マンション隣の公園の雑木林が黒ぐろと見えた。

 その右手側には線路。終電の終わった線路はまるで黒い河のようだ。



 5月の頭、夜はまだ少し寒い。

 見上げれば星が綺麗だった。




◆ ◇ ◆


「にぃに、夜中だけど?」

 ビクッとした。


 隣室の窓からベランダに顔を半分出した妹が背中から声をかけてきた。

 半眼でじとりと睨んでいる。

「お、おう。すまん。

 起きてた? べ、勉強中?」

「ま、受験生だからね」


 ちょっと前まで仲良かったのだが、最近なんだか冷たい妹は、ただいま中学三年生で受験勉強中である。


「にぃに・・・いま、なんか投げた?」


「い、いや?」、思わず否定してしまった。


「・・・ふーん。だめだよ?

 ベランダからモノ捨てたら。

 下の公園、夜中でももしかしたら人いるかもしれないし」

「お、おう、分かった。

 お、お前も、早く寝r」


 妹はこっちの返事も待たずに既に引っ込んでいた。

 ピシャンと窓を閉める音が、なんだか塩対応。

 兄は寂しいぞ。


 それにしても良かったな、妹よ。

 忙しい受験勉強の合間を縫ってキューティーなんとかにならずに済んで。

 お前の兄は諸悪の根源を断ったぞ(はじめから妹の所には来ていないが)。

 心のなかで呟きながら、俺は部屋に戻り、そのままベッドに潜り込んだ。


 話も聞かずに投擲したことに、僅かな同情と一抹の不安を抱えないでもなかったが・・・。


 ・・・うん。

 ていうか、何も。

 何もなかった。

 これたぶん夢だし。


 ・・・何もなかったはずである。




◆ ◇ ◆ 



              ・・・はずであった!






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