第一章 第4話 四次元ポケット手に入れた結果・・・ その6
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ポヨンの部屋のソファにドッカと深く腰を下ろす。
上を向く。
両手で顔を覆う。
「クウッ・・・」
重い。心が、体が。
リアルに重い。
目頭は熱い。
自由に空を舞う翼に、いきなり岩を括り付けられたようだ。
人生で最もテンションが上がりきった頂点。
ヒャッハーサイコ―・・・ってところから、すっごい勢いで落ちていっているのがわかる。
そりゃもう、シュゴオオオオオ!ッて感じ。
パラシュートなしで重力に引かれて大気圏突入だよ。
もはや摩擦熱で燃えそう。 燃えそう! 燃える! 燃えるわ!
メラメラメラメラ! メラメラメラメラ!
メラメラメライラ! メライライライラ!
イライライライラ! イラ イラ イラ !
心理的大気圏に突入し、黒焦げの怒りに燃え盛りながらも無事着陸した俺は、静かに口を開いた。
「ただの部屋に・・・」、低く暗い声が出た。
「ん? 部屋がなにポヨ?」
お茶を入れたポヨンが顔を上げ、淹れたての、ラトー茶とやらをニコニコ俺に差し出す。
「ミルクを入れてもイケるポヨよ~」、などとのたまう。
お・も・て・な・し ってやつですか? ハッ!
ぷち!
あ、なにかが、切れた。
エースの肘の靭帯?
いやいや、多分、俺の堪忍袋の緒。
「 た だ の 部 屋 に !
四 次 元 ポ ー チ と か !
紛 ら わ し い 名 前 !
つ け て ん じ ゃ ねぇえええええええええええええええええええッ! 」
俺は、ラトー茶で満たされたカップをポヨンの手から掴み取ると、ふわりとカップを横にした。
高温の薄紫色の液体は、表面張力によりカップの形状である半球形を一瞬保ちながらも、重力に引かれ、やおらその形を崩壊させる。
そしてテーブル目掛けてまさに落ちんとする刹那、俺の右掌がカップの底辺を高速で押出す。
その先にはポヨンの顔!
「シャイニング・フィンガァアアア―――――ッ!」
熱湯の入ったカップを持った状態での張り手!
ポヨンの顔にカップが深くめり込み、砕けた。
同時に飛び散る熱々のラトー茶。
そのまま力を入れて掌を突き出す。
水滴が尾を引いて流星のように吹っ飛ぶポヨン。
無回転で壁に激突し、ビッターーーーンと壁に広がり張り付く。
ピザのよう。
「 ア ッ ズ ッ イ イ ッ! 」
広がりきったポヨンは絶叫し、ギュンッと元に戻り、床に跳ねた。
「 アヂャヂャヂャヂャヂャアァァァァァアアア 」
ピンクの体が赤くなり、湯気を立てている。
バインバインと跳ねまわる。
俺はチラリとテーブルの上を見て、ラトー茶で満たされているティーポットとポヨン専用と書いてあるティーカップを掴み無言でポヨンとの間合いを詰めた。
そして、フォォ・・・熱いポヨォ、などと言いながら床をコロコロしているソレに向かって
「雉も、鳴かずば撃たれまい・・・」、冷たく言い放つ。
ポヨンの真上でティーカップを迷いなく逆さにする。
ポヨンはアチャチャジャァアァアと叫び、再び跳ねまわった。
「・・・つまりな、四次元ポーチっていう、名前が悪いよ・・・」
跳ねながら距離を取るポヨンに対し俺は再び距離を詰める。
恐怖と怒りが入り混じる血走った目でこちらを見ながらさらに距離を取るポヨン。
「はじめから、『ドキドキ! ポヨンのポーチはおしゃれルーム』とか・・・」
ここは既に壁際。追い詰める。
「『ワクワクポヨンの、ひらいて! ポーチのおうち』とか・・・、そういう名前にしとけば、そもそも期待してなかったんだし、マッハパンチくらいで済んだんだよ・・・」
そしてここはついに部屋の隅。
追い詰めた。
ポヨンの慄く顔は、混乱しすぎて引きつり、ちょっと笑っている。
「一度、夢や希望を与えてから、それを摘み取る行為の罪深さ(さっきのたい焼きとかな)・・・つまり、この世の中の厳しさは罪・・・。
夢を抱かせる学校教育は罪・・・。
エロゲーは! エロマンがは! エロラノベは! インターネットは罪・罪・罪!」
俺はにこやかな笑みでポットを掲げた。
「 ナ ニ い っ て る ポヨ―――――ッ! 」
俺は、現実、現世、現代社会、その原罪を洗い流すように・・・。そう、キリストが洗礼を受けるような、厳かで清らかなアウラで、にこやかにポットを傾けた。
そして、祝福のラッパが部屋に鳴り響いた。高らかに。
最近のラッパはギャエェエエエエッて音がするみたいですよ。
世紀末を乗り越えた神は・・・パンクだぜ。
その7へ続くぜ。