第一章 第4話 四次元ポケット手に入れた結果・・・ その5
◇ ◆ ◇
「ポヨーンッ!」
「ハイ!ポヨ!」
急にでかい声で呼んだら、ポヨンがピシっと気を付けをした。
「ポーチの中、見ていいかい?」
「ど、どうぞ、ポヨ」
自然と出る優しい声。
夕べから、いろんなことがあった。いろんな妄想があった。いろんなバイオレンスがあった(主にポヨンに)・・・。
でも今は全部いい思い出。全て忘れて、幸せになろう。
俺がポーチの横に付いているハートの形をしたボタンに触れようと指を近づけると。フタはひとりでにパカと開いた。びっくり。
そして、・・・見た。
ん?
んん?
んんん~~~?
ドラえ◯んの四次元ポケットの中がどうなってるのかはいまいち分かっていなかったのだが、なんとなく宇宙空間みたいな無限の空間に、いろんなひみつ道具がフワフワ浮いていて、手を突っ込んで任意のアイテムをつかむイメージだった。
でもこれは・・・なんというか・・・。
「ポヨン?」
「なにポヨ?」
「いや、ポーチの中が、なんか、リカちゃんハウスっていうか、シルバニアファミリーっていうか・・・ミニチュアの部屋みたいな感じなんだけど? これ・・・どうやって道具出すの?」
「出す? 入るじゃなくて?ポヨ?」
「入る? いや、道具使う時、取り出すでしょ?」
「え? 普通、道具は、中で使うんだと、思うポヨ?」
「え? なに? 道具使うときは、俺がわざわざこの中に入るの?」
「は? シンタロが中に入りたいなら、別に構わないポヨが・・・別に、シンタロはポーチを付ける側なんだから、中に入る必要はないと思うポヨ。
それに、シンタロはこの部屋があるポヨ?」
「は? 俺の部屋が関係あんの?」
「え? なんの関係ポヨ?」
「ん?」
「ポヨ?」
ん? んん? 何だ?
なんか、噛み合わなくない? なくなくない?
え?どういうあれ?
「・・・・ちょっと、あれ?」
「ポヨ???」キョトンとした顔で首を傾げるポヨン。
「あ~はいはい、質問変えよう。
ポヨン、お前、このポーチ、どうやって使うの?」
ポヨンは不思議そうな顔をして
「えーと、ま、やってみるポヨ。はい、シンタロとりあえず、ちょっと、装備して見るポヨ」
「お?おう。 装備ってどうすんの?」
「腰につけるだけポヨ。ちなみに次からはちゃんと装備された状態で変身されるポヨ」
とりあえず、腰につけてみる。何も起こらない。
ただ俺が着ているコスチュームのファンシーさがちょっとアップしただけだ。
「じゃあ入るポヨ」
「え? 誰が?」
「ん? もちろん、ポヨンがポヨ」
ポヨンは、俺の腰にピョンとジャンプ。
ポーチのフタがひとりでに開き、キュルンッと中に吸い込まれていった。
そしてフタがパタと閉まる。
「おっ? えっ? ちょっと! ポヨン?」
「聞こえてるポヨ~」
ポーチの中から声がする。いきなり消えたから、びっくりした。
「えっと、ちょっと、これ、あけて、いいのかな?」
「もちろん、いいポヨー」
恐る恐る、ポーチのフタを開ける。というか、ひとりでに開く。不思議。
覗きこむと、中には先ほど見たミニチュアハウスの部屋のソファーに腰掛けている、豆粒ほどに小さくなったポヨンが見えた。
こっちに向かって手をひらひら振っている。
とりあえず、にへら、と笑って手を振り返してみた。
うん、そうじゃねぇんだよ。
「いや、ポヨン。 とりあえず道具をなにか使って見せてくれよ。 あ、危険じゃないやつを」
「危険ってなにポヨ?」
「いや、その、例えば~、ネズミを殺すためだけに地球破壊爆弾を使おうとか、バイバインで栗あんたい焼きを増やすとかはもう絶対ダメ。
・・・かぐやロボットで女の子を人体錬成するとか・・・まぁそれに関しては俺が別途考えるから(ニヤリ)、そういうのじゃない比較的普通の道具を使ってみてくれ」
ポヨンが不思議そうな顔をして
「言ってることがよくわからないポヨだけど・・・。
えーと、じゃぁ・・・」
ポヨンはミニュチュアハウスに備え付けられているチェストから、ハサミと紙を取り出して、こちらに見せてからチョキチョキと切った。
「えーと、こんな感じでいいポヨ?」
「はっ? 何がっ?」
もう、軽くイラッとした。
何言ってんだこいつ。
「む、シンタロがなんか道具使えって言うから使ったポヨ!」
ポヨンも少しムッとした表情。何だこのやろう。チョキチョキするぞ! 耳とか手足を!
「いや、そういうのもういいから!
よし!アレだ! もうタケコプターみたいなのでいい。あるだろ。出せ。
そしてパタパタ飛んでみろ!」
「タケコプターってなにポヨ! さっきから意味が分からないポヨ!」
「はぁ!?
なんでもいいからひみつ道具使えって言ってんの!
別にこの四次元ポーチの道具とあのマンガの道具が完全に一緒の名前だとは思ってねぇから!
でもなんかあるだろが? 似たような機能のものがさぁ!」
若干、もとい、完全にブチギレ・・・まではいかないがプチキレですよ。
「秘密道具ってなにポヨ!
ポヨンはシンタロに秘密なんて持ってないポヨ!」
「もー、うっせ! 存在自体がひみつ道具みたいなフォルムのくせに。
ちょっと、とりあえず中に入るわ! どうすりゃ入れんの? なんか呪文とか・・・」
そう言って、腰のポーチの中に手を中に突っ込んだ瞬間、猛烈に引っ張られるような感覚がして、俺は、キュルンッと中に吸い込まれたのだった。
ポーチはそのまま床に落ちたようだが、その衝撃はほとんど感じなかった。
◇ ◆ ◇
部屋の中央に立っている。
周りを見回す。
えーと、ここは、あのポーチの中なんだよな?
結構な広さの部屋である。
ただ、横に長い。感覚的には六畳の部屋を縦に三つ繋げた感じ。
上を見上げると、天井は無くて、そのまま吹き抜けになっていて、はるか遠くに見慣れた自室の天井が見えた。
ポーチのフタを閉めたらそこが天井になるのかな?
なんて思っていたらパタンとフタが閉まった。案の定、天井ができた。
シーリングライトがなんか豪華。シャンデリア?
ポヨンは驚いた顔で
「いきなりポヨねー。
あ、まぁ、いらっしゃいませシンタロ。
とりあえず、なにか、飲むポヨ?
といっても、ラトー茶と、ミルクくらいしか今はないポヨだけど・・・。
あ、冷蔵庫の中にソーマが残ってたからソーマのソーダ割りなんてどうポヨ?」
なぜか、お客様お迎えモードのポヨン。
ラトー茶とソーマは気になるところではあるが、今はその時ではない。
「いや、それは後でいい。 ・・・ひみつ道具は、どこにある?」
低いテンションの俺。・・・まぁ、すでになんとなく気づいている。この状況。
「んー。さっきも言ったけど、ひみつ道具ってなにポヨ?」
そうか・・。 そうか・・・。 やはり、そうか・・・。
「・・・つまり、このポーチ・・・。お前の・・・部屋、なんだな?」
ポヨンは嬉しそうな顔で、
「そうポヨ! 優秀な成績で騎士道者になって、この部屋が支給されたポヨ!
個室がもらえるのは大変名誉なことポヨ~。
騎士導者になっても貰えてないやつたくさんいるポヨ」
俺は顔を伏せる。涙は出ないが・・・体が震える。
「つまり、このポーチに入れば、お前だけはくつろいだ状態でいつでも俺の腰について移動できるという・・・そういうマジックアイテムなわけだ・・・」
「そうポヨ~。戦闘中でも、揺れてもこの部屋は大丈夫ポヨ~。
いつもコンパクトになったままは動けなくて辛いポヨからねー。
普段もここに居れば、周りの人間に見つからないという利点もあるポヨー」
「・・・つまり、あのマンガみたいに、手を伸ばせばそこにひみつ道具。
日常に夢のチートアイテムがごまんとあふれているというのは、俺の・・・勘違い・・・なんだな?」
拳をギュウと握りしめる。
やるせない気持ちを押しつぶすかのように。
「んん~、さっきからその話がイマイチよくわからないポヨ~」
ポヨンは、部屋の端のキッチンスペースにある食器棚から、ティーセットとポットを出してきた。
ポットの中には水があり、そこにポヨンがガムシロのポーションのようなものをプチッと開けて入れると、一瞬でお湯が沸いた。
なんか、魔法? すごい。
ポヨンは俺が少し驚いた表情をしたのに気がついたのか、「火の精霊が一回分入ってるポヨ~、いま、ラトー茶入れるポヨねー」、と説明をし、いそいそとお茶を入れはじめた。
フンフンと鼻歌を歌いながら・・・。
楽しそうに・・・。
楽し・・・そうに・・・。
嗚呼・・・。
あぁ・・・。無いのだ。
ひみつ道具は・・・無いのだ。
うそつ機も、ソノウソホントも、悪魔のパスポートも、もしもボックスも、あらかじめ日記も、予定メモ帳も、アワセールも、Yロウも、階級ワッペンも!
ガールフレンドカタログメーカーも、キューピットの矢も、あいあいパラソルも、流行性ネコシャクシウイルスも、石ころ帽子も、透視メガネも!
かなみのお風呂シーンに直行のどこでもドアさえも!
ない! 全て! 無い! 無い!
なんか後半列挙したヤツ、俺の性癖バレそうな道具ばっかだけど・・・。
「確かに・・・。
いま、一連の流れを・・・思い出してみたら・・・お前、・・・一言もそんな話、して、ないもんな・・・」
「ん? 何の話ポヨ?」
そう、全て、俺の早とちり・・・。
あぁ・・・。
なんていうか・・・言葉がうまく出ないわ俺・・・。
チートアイテムを手にしたと思った。
失敗しないように、慎重に行こうと思った。
筆舌に尽くしがたい、描写即発禁レベルのエロい妄想がものすごい速さで脳裏を走った。
その妄想を現実にできると思った。
誰かに、気持ち悪いと言われようが、ド変態扱いされようが、そんなことは気にしない。
すべての欲望を現実にしてやろうと思った。
・・・思ったんだ!
だのに・・・ああ。
その6につづく