第三章 第2話 においマンが最強になった結果・・・ その13
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母親はきれいな人だった。私にはとても優しかった。
あの潰れたスナックのママをしていた。実の父親は私が生まれたときにはすでにいなかった。
流行らないスナック。兼住居。
生活の面倒を見てくれたおじさんは気まぐれで訪れたどこかの金持ちだった。
おじさんは水曜日になるとやってきて、人形や絵本をたくさんくれた。
私はその人が来た夜はスナックの二階の一室で、貰ったプレゼントで時間を潰して・・・。大抵は朝まで母親に会うことはできなかったから絵本や人形でいろんなことを空想しながら、一人で眠った。
数年がたち、スナックは営業しなくなったが、その人は友人だと言って複数の男と連れ立ってやって来るようになった。メンツは毎回違った。老人から若者まで様々だった。みんな良いスーツを着ていた。
翌朝の母親はたいていひどく疲れているようだったが、いつも笑顔でフレンチトーストを焼いてくれた。
私が中学になった頃、色んな意味を理解できるようになり、その人はプレゼントをくれる優しいおじさんから、嫌悪を超えて唾棄すべき対象となった。
中学を卒業したら、頑張って働いて、母親とここから逃げ出そうと思った。
だが、母親はその年の冬に死んだ。
身寄りの無くなった私に、その人は気味の悪い笑顔で擦り寄り、優しいふりした脅迫で、結局、私はその人の正式な養女となった。
養女で・・・愛人だった。
水曜日の夜。
私の上で脂肪で膨らんだ腹を弾ませる恍惚とした養父に、何の感情も抱かなかった。
ただ、絵本や人形が現金になっただけで、水曜日の夜は以前のように、なにか漠然とした空想の世界に浸って過ごしていた。そうしてただ、夜が明けるのを待っていた。
卒業した頃、養父に連れられやってくる男が増えていった。母のときと同じように。進学はしなかった。
男たちはみな、私に夢中になった。母親と比べてどうのこうのと、聞きたくもない言葉をよく吐きながら私の上で踊っていたが、空想の世界に逃げている私にはどうでもいいことだった。
この頃わたしは、荒れ果てた荒野、赤い月の下、死神のような格好の私が、大鎌でかぼちゃを刈りとる空想ばかりしていた。刈り取られたかぼちゃは、赤い血を流し、断末魔を上げる。そのかぼちゃがゴロリと転がるとそれは養父や他の男の顔になる。そんな空想ばかりをしていた。
男たちの中で、特に私にご執心だったのは、養父の一人息子だった。と言っても四十路は超えていたが。
その頃から、かなり年の行っていた養父は体でも壊したのかあまり来なくなり、その息子、つまりは戸籍上は私の義理の兄になる男が水曜日の男になった。
その兄は水曜日だけでなく、時間の許す限り廃スナックに入り浸り、貪った。
外へ連れ出し、いろんな男に貸し出した。
テレビでも紹介されない高級な料亭のようなところで、私に色とりどりの料理を盛り付け、客に供した。
私は笑顔だった。頭の中で、私を取り囲み下卑た笑みで箸を伸ばすカボチャどもを、血飛沫まみれで刈り取って、刈り取って、刈り取って・・・。
刈り取られた男どもはやはり私に夢中になり、次の機会を求めてきた。
三倍ほど年の離れた義兄は、勿体をつけながら笑っていた。
「大切な妹ですから、そう頻繁には・・・ハハハ。でもまぁ考えておきますよ」と。
頭の中で、義兄の顔をしたカボチャは、宴が終わるまで念入りに切り裂きぐちゃぐちゃに踏みつけた。
でも、私が18になった頃、養父の孫、つまりは今の水曜日の男の息子がやってきた。
義理の甥になる、私とさほど年の変わらない男。
そいつがやってきてから他の誰も来なくなって、連れ出されることもなくなった。
そいつは私を抱かず、あのスナックから普通のマンションに引っ越させ、なにを思ったのか、勉強を教え、アルバイトを始めさせた。
そして、無気力なまま、流させるまま、生活し、大検を受け、一年遅れだが大学にも入った。
その男は私がなにかするたび、自分のことのように喜び、褒め、叱り、笑った。
そして私は恋をした。
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「で、その人が、アルカトピアの守護騎士だったの。
その人の導きで私も守護騎士になってね、ほら、私の格好とか武器とか、けっこう空想そのまま・・・って、聞いてる~?」
カルラさんの昔話。
俺は、コゲコゲの珈琲豆で入れたブラックと、めちゃクソ酸っぱい梅干しを一気に口に突っ込んだような、しわくちゃの顔で、怒りと涙を我慢してた。
カルラさんは少し懐かしそうな顔で俺を見ると、「君、少し似てるよ。彼に」と哀しげに笑った。
その14に続いった。




