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俺がビキニアーマーでどうすんだ!?  作者: ダラリノコトダマ
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第一章 第3話 美少女騎士キューティールナーになった結果・・・その3

◇ ◆ ◇


 ポヨンはたい焼きをまじまじと見つめる。

「んん・・・ポヨンは基本的に、ふわとろ系のスィーツにラトー茶っていうタイプなんだけどな~ポヨ」

 何だそのタイプ。

 さっき栗まんじゅうとか、めちゃめちゃ推してたじゃねぇか。


「あ、ポヨン。

 それな、栗あんたい焼き。

 ・・・栗入ってるぞ~?」

「クックリッ?」

 ウサ耳がピクッと反応した。

 ほっぺたのトコが二割増しくらいで濃ゆいピンクに。

「え?こんな魚に・・・伝説の、栗が・・・。

 いや、そういえば、綿密な事前調査レポートによると、このリガイアにはほんとに栗があふれていて、一説には栗を茶碗に入れて、まるでごはんのように食す栗ごはんなるものもあるというし・・・」



 早 く 食 え !



 何だ伝説の栗って。

 何だ綿密な事前調査レポートって。

 栗ごはんの情報若干間違ってるし。

 その調査レポ・・・鯛のこと調べすぎだし。


 小さな口を大きく開いて、たい焼きをハムッと頬張る。

 瞬間、ポヨンの顔がパァっと華やいだ。


「はっ!・・・はぁあああ・・・。

 こ、こんな、こんな・・・ハムッ!

 ハグハグハグ、ムグ!ング!」

 いったん感想を言おうとして、やめて食べる。

 食べきる。

 そして喉に詰まらす。


 どんなに言葉を尽くしても敵わない、美味さの表現の極み。

「慌てるなポヨン。そこで、濃い目に淹れたお茶だ」

 ムグムグしているポヨンにすかさずアドバイス。


 小さい手を器用に使って、湯呑みを持ち、ズズズーっと茶をすするポヨン。

 口の中で転がして、香りとまろ味を味わって、コクンと飲み干した。

 そして、ほぉっと一息つく。

 目尻も下がって、ほころんだ顔。

 ・・・おばあちゃんかな?


 そのまま数秒。

 ポヨンの顔は完全に蕩けた。

 そして、急に真剣な顔になり、

「・・・ポヨ」

「ん?」

「・・・美味いポヨ」

「そうか。うん。そうだろう?」

「こんな美味いものは、いままで・・・」

「そうかそうか。それは良かった。ところでだな・・・」

「で、でも!

 こんなことで許すわけには!

 い、いかないポヨッ!

 一度、騎士道者としてリンク解除をすると決めた以上、それを覆すなどということは、責任というより、騎士道者としてのプライドを・・・」

 そこで俺は、残りたい焼きの五個入りパックの蓋を開けて、ポヨンの目の前に差し出した。


 ホワっと甘い香りが先ほどの五倍増し。

 ポヨンの言葉が止まる。


「プライドを・・・。

 プライドが・・・。

 プラ・・・プラ?」

 ナチュラルに、ふらふらと吸い寄せられ、無意識に手を伸ばしてくるポヨン。

 よだれ、すごい。


 そして、まさに、その手がたい焼きに触れようとした刹那、財宝の入った宝箱と同義であるたい焼きの入った紙箱はパタッと閉じられ、フイッとポヨンの前から消えた。煙のように。

 呆然という言葉を端的に表しているのが、ちょうどこんなポヨンである。


 視線がだんだん上がってきて、俺の頭上に捧げ持たれているたい焼きの箱を見つけた。

 そしてサディスティクな俺の微笑みを見た。

 愕然という言葉を端的に表しているのが、ちょうどこんなポヨンである。


 ずっと不幸である人よりも、一度幸福を味わってしまった後の不幸のほうが、よほど辛いと言っていた学者だか作家だかがいたが、実際どうなのだろうと思っていた。

 一度、財を築いた後に破産した者と、ずっ~と破産状態の者のどちらが不幸なのか。

 正直わからん。

 一度でも栄華を極められたらそれを慰みに生きられるではないか。

 再び巻き返そうという勇気とイメージを持てるではないか。


 もっと的確な例えで反論するなら、今後、何らかの理由で、一生女性に縁がなくなる運命だとして、童貞と非童貞、どっちが幸せだ?

 童貞がリア充に対して「あぁ、俺一回もSEXしたことなかったから、別に不幸じゃないわー。全然平気だわー」って言ったとこで、こんな悲痛な負け惜しみはない。

 つまり幸せを知っていたほうが不幸になってもやはり幸せだということだ。

 ・・・だったのだが。


 今回ばかりは、この幸福は・・・この味は、知らないほうが良かったみたいだ。



「ぅ・・・ぅう・・・ぐぅ・・・うぐうぐ。ぅぅぅぅぃぃぅぅ・・・」

 ポヨンの目には流れる寸前、

 表面張力ぎりぎりの涙。

 わははは。

 あーははははっは!


 悔しさと我慢から歯をギリギリ食いしばっている。

 ファンシーキャラのこんな顔見たこと無い。

 殺意を込めた悔恨のフェイスのぬいぐるみなんて、なかなか無いデザインだ。

 だって需要がない。

 

 たい焼きの箱を、スススと下ろして、ポヨンの顔の前へやる。

 ほわんと口元が緩む。

 手を伸ばしかけたところで、すかさず箱を頭上に!

 空を切るポヨンの手。

 再びギリギリ歯ぎしり悔恨フェイス。


 もう一度やってみる。

 ほわんフェイス → 歯ぎしりフェイス。

 ・・・笑える。いひひひ。


 ホレ、ホレと声を出しながら箱の上げ下ろしを繰り返す。

 あははははは!

 あーははは!

 面白い、面白いぞ!

 サディスティクばんざい!

 俺に対して一瞬でも精神的に優位に立ったことを後悔するがいいさ!


 下 種 な 畜 生 が ! 


 いやいやストップ。

 とまれ、俺。

 やり過ぎはよくない。


 こいつ、やり過ぎると自分の進退も顧みずに暴挙に出るタイプのようだからな。

 栗あんたい焼きの効果が思った以上に絶大で調子に乗っちまったぜ。


 下種な畜生とか・・・普段言いませんよ?


 その4へつづく


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