第一章 第2話 ポヨンに魔封波を使った結果・・・その5
◇ ◆ ◇
「・・・だよねぇ。やっぱり真太郎くんだったぁ」ふわりと笑顔が咲く。
「は、はぁ」
うわ、意味もなく顔が熱い。
なんなんだろこれ。
「覚えてない?
子供の頃、遊んであげてたし。
クラブで剣道教えてあげてたじゃない?
かなちゃんたちと一緒に。
小学四年生くらいまでかなぁ・・・私が高校入る前くらいで」
「あっ、あ――――っ。ああ・・・」
パパパッと子供の頃の記憶がフラッシュバックされる。
覚えてる。
たしか、かなみのとこの隣に住んでて、中少剣で年少組の指導してた・・・。
「えっ! も、もしかして、水浦さんとこの、マコ姉ちゃん? ですか?」
「せいかーい。
ひさしぶりー。
七年ぶりだよ?
先々週、日本に帰ってきたんだ。
そしたらこのマンションに空き室あったから、せっかくだし、買っちゃった。
また、かなちゃんちのお隣さんなの」
ボバーン本人改め、マコ姉ちゃんは胸の前で軽く手を叩いて言った。
ボバーンが・・・ユサッと揺れた。あああああああ。
「まぁ、今は水浦まことじゃなくて、聖沢まことだけどね?」
「あ・・・、えーと、すいません。
ヒ、ヒジリ、ザワさん・・・。
あっ、けっ、結婚、おめ、で、とうございます・・・」
「ふふ、ありがと。
マコ姉ちゃんでいいよ?」
「あ、そ、そですか」
あれ?
あれー。
・・・なんだか、すごく残念感がある。
子供の頃の不安定で柔い気持ちだが、俺はマコ姉ちゃんに憧れていた。
綺麗で、優しくて・・・。
胸はあの時はそんなにボバーンじゃなかったと思うけど。
そうか、結婚したのか・・・。
子供もいるのか・・・。
うん・・・。
なんだかな・・・。
「あのね、こっちに引っ越してすぐ挨拶行ったけど、真太郎くんいなかったんだよね。
瑠璃ちゃんや、かなちゃんとは会ったし、何回かお茶したりもしてるよ?
うちにも遊びに来るし。
今度、真太郎君も仲間に入れようって話もしてたんだよ?
聞いてない?」
イ エ ス ! 聞 い て な ―――― い !
俺 だ け 仲 間 は ず れ い ぇ ――― い っ !
いやまぁ、その女子の輪の中に入れる気はしないけどな。
「そういえば、真太郎くん、剣道やめちゃったんだって?」
顔を覗き込んでくる。
いいにおいがする。
くらくらする。
でも、またそれか。
癒し系天使な顔して、かなみもマコ姉ちゃんも、えぐるわぁ。
剣道はもうほっといて。
たぶんマコ姉ちゃんにも勝てないよ。
「ママー、無泰斗にいちゃん知ってるの?」
ガキがマコ姉ちゃんの服をチョイチョイと引っ張って聞いた。
そこからの眺めはどうだ?ガキよ。
双丘の盛り上がりが下からよく見えるか?絶景か?
ちょっとポジション代わってみないか?
「うん。よーく知ってるよ?
ママはね~、うふふ。
このおにいちゃんの初恋の人なの」
いきなりとんでもないこと言った―――っ!
「はがっ? へっ? ちょっ! 何いってんデスカ! え?」
「へー、そーなんだー。 ・・・ハツコイって?」
よくわかってないガキ。
ああ、また高速ビートハートだ。
俺、心臓破れんじゃね?
「あら? ごめんなさい、間違えちゃった?」
さっきと同じトーンで同じセリフ。
上目遣いの潤みをたたえた瞳で俺を見つめる。
顔の前で指を絡める感じで手を合わせ、小首を傾げて、ボバーンをユサッ。
そして、俺に、やはりさっきと同じように、
「 ま 、 間 違 え て な い で す ・ ・ ・ 」
と言わせる天使の微笑。
いけません・・・。
これはもう、いけませんよ・・・。
人妻ですが、ママさんですが、しかも再会たったの3分間ですが、もう、マコ姉ちゃん・・・
俺の人生の サ ブ ヒ ロ イ ン だ ――――― っ!
仕方ない。
これは仕方ない。
抗いようがない。そうだろう?
抗えるといった奴はきっとウナギが高いからツチノコを捕まえて蒲焼きにして食ったことがあるって言うタイプの奴だ。
かなみ、許してくれ。
俺は決して浮ついた男じゃない。
真面目で純真で朴訥で実直で誠実でクールで真摯な紳士なんだ。
でも、またもやサブヒロインをつくってしまった。
だって、悲しいかな、残念かな、 童 貞 な ん だ っ!
だから、そう、仕方ないんだ。
サブヒロインの一人や二人や、三人や四人・・・。
十一人いると誰かが「十一人いる!」って叫びそうだし。
十二人だと全員妹じゃないといけないから・・・。
概ね十人までは居てもセフセフ。
仕方ないよな?
全国の童貞諸君?
しばし、ボーっとしていた。
・・・正確に言えばマコ姉ちゃんを脳内のサブヒロインデータベースに登録するのに思考の半分を奪われ、ただ立つこと以外の機能を停止していた。
その俺の手提げカバンのジッパーを、
「無泰斗にいちゃん、さっきの喋る悪魔オバケおもちゃは?」
と言いながら、勇敢な五歳児がジジジーっと開けた。
待ておい!今はそれマズいだr
「 お も ち ゃ じ ゃ 、 な い ポ ヨ ――――― っ! 」
カバーンからズバーンと飛び出すポヨン。
呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン的に。
ワァって笑顔で喜ぶ五歳児。
そして、ものすごく驚いた顔でおののき、後ろによろめくマコ姉ちゃん。
ボヨョ~ンと揺れるボバーン。
空中からガキに飛びかかるポヨン。
全てがスローモーションに感じた。
俺は、揺れるボバーンの動画を脳内ハードディスクに光の速さで保存!
・・・しつつ、ガキに到達する直前のポヨンを右手でキャッチ&カバンに突っ込みリリース。
ジッパーをクローズ。
「一度ならず、二度までもおもちゃ扱い!
もう怒ったポヨ!
出すポヨ!
出せポヨ!」
カバンがビヨンビョン跳ねるように動きまくる。
はしゃぐ五歳児。
唖然とするマコ姉ちゃん。
やばい。
どうにか黙らせないと!
俺は、ショルダーバッグ型の通学カバンの肩掛け部分を握り、右膝をスイっと高く上げて、一本足打法で壁をフルスイング!
「王貞治ぅっ!」
「 ギ ャ ン ッ !」
ポヨンがジオンのモビルスーツの名を呼んだ。
そして無言。
周りの空気も・・・。
だらんと下がったカバンを、ゆっくりと体全体で振り回す。
だんだんとそのスピードを上げ、自分もぐるぐる高速回転する。
回転するたびに、手を叩いて喜ぶ五歳児と、愕然とした表情のマコ姉ちゃんとバボーンなおっぱいが視界にグルグル入る。
そして、高速回転エネルギーを全てカバンに乗せて、マンションエントランスに向かってハンマー投擲!
「うぉおおおおおおお! 室伏広治ィィイイイイッ!」
ハンマー投げられたカバンは、広いロビーを抜け、たまたま自動扉を開けて入ってきた管理人のばあさん(コンジイの友達らしい)の横を抜け、エントランスの外、マンションのポーチの樹木にぶち当たった。
ハァハァとわざとらしく呼吸を整えながら、投擲姿勢から直る。
五歳児の笑い声はいいとして、背中に突き刺さるおっぱいビームじゃなくてマコ姉ちゃんの視線が痛い。
振り向いて顔を見るのが怖い。
何してんだ俺は?
何しちゃってんだ俺はっ!。
意味わからないよ!俺の行動!
でも昨日からの一連の流れでなんかやっちゃったよ!
ノリで無意識に行動しちゃう。
みんな、そういうコトあるよな!
そういうトコあるよ俺!
とりあえず、気まずさで十秒ほど機能停止。
その間、マコ姉ちゃんは無言。
空気に耐えられなくなった俺は・・・
「ち、ちこく、チコクーっ」と、トーストを咥えた女子高生(転校生)が曲がり角手前で言うはずのお約束的セリフを棒読みで言うと、そのまま、テッテケ走りだす。
ぽかんとしている管理人のばあさんを無視し、動かないカバンを拾う。
そして、居たたまれないその空間から・・・遁走した。
最後まで、振り返ることはできなかった。
もう、めっさ恥ずかしい。
再会五分で既に金輪際合わせる顔がない。
フラグ立ち、即断ち。
穴があったら入れ・・・入りたい。
入れもしたい。
後日説明を求められたらなんて答えよう。
アレを大人相手におもちゃで済ますのはちょっと難しい気がする。
どう見ても生きてるもんな。
しゃべる謎生物だもんな。
まぁ、もう仕方ない。
どうにかなるだろ。
もしかしたら親身になって相談に乗ってくれていい方向に転ぶかもしれん。ぐへへ。
◆ ◇ ◆
ポヨンに魔封波を使った結果・・・史上最強のボバーンと出会った。