第一章 第2話 ポヨンに魔封波を使った結果・・・その4
◆ ◇ ◆
物陰から公園の門扉をそっと覗う。
よし、あのガキはいない。
コンジイが竹ぼうきにもたれながら、ぼーっと空を見ている。
お迎えでも見えますか~?
何事もなかったかのように、すたすたと近づき、気持ち小さい声で訊いた。
「コンジイ、さっきの子供、帰った?」
「おお、シンイチ! おまえ、悪魔を封印して死んだんじゃなかったのか?」
よし、計画通りわけわかんねぇ。
悪い顔でニヤリ。
「うん、大丈夫。
宇宙怪獣グロウラーとの戦いは苛烈を極めたが、おれ、命をふたつ持っているから。
ウルトラマンゾフィーと呼んでくれい。
ところで、あの子は?
もういない?」
門扉から外を覗いて左右を確認。
とりあえずいないようだが。
「おう、あの子はシンイチ・・・じゃなくてゾフィーが大変だっつって、わしとマコちゃん連れて土手の方へ行こうとしてたんだが、もうすぐ保育園の時間だからって、引っ張られていったわ」
ゾフィーと呼んでくれといったが、ほんとに呼ぶなよ・・・。
こうやって謎のあだ名は生まれていくのだな。
しかし、あの子のママであるところの人妻を、マコちゃんと呼んでいるのかこのエロジジイは。
自重しろ。
まぁ、とりあえず、帰ったようで良かった。
「いやー、マコちゃん、いい女になったわい。眼福、眼福。
・・・あのなシンイチ、マコちゃん、まだまだ女子大生かと思うくらいに若いんじゃが、こう、チチがな、ボバーンってなっててな・・・」
コンジイが胸のあたりで手をワキワキ動かし、こんな、こーんな、とか言っている。
空を見てたのは妄想中だったか。
お迎え遅いよ、何やってんの。
というかそのイマジネイション、それを外に出すな。
たれ流すな。内心の自由を超えてる。
危険だ。毒だ。害だ。老害の最たるものだ。
管理人なら管理しろ、自分の妄想を。
まぁ若干、コンジイと自分の属性が似通っていることを発見して凹んでいる俺がいる。
じゃあなゾフィーという声を背後に聞きながら俺は手をひらひらさせて公園を後にした。
それにしても、チチが・・・ボバーンか・・・。
ボバーン・・・。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
ボ バ ー ン っ て 何 っ ?
ボイン → ボヨ~ン → ボバーン ってこと?
どういう事態?
気になる!
くそっ!
気になりすぎて、ポヨンの関連の事を忘却しそうになるレベルだぜ!
ボバーンの脳内への侵食速度が半端じゃない!
コンジイめーっ! ボバーン!
マンションのロビーでエレベータがくるのを待つ。
オアシスガーデンパレスなどという大層な名前のせいなのか、高級マンションと謳って不動産価値を釣り上げるためなのかは知らないが、うちのマンションはやたらに木が植えられている。
チャンスがあれば植えられている。
空いたスペースに無駄なく飛び込んでくるC・ロナウドのように植えられている。
外周からエントランスには植木。
無駄に高級感あふれるソファーなんかが置かれているホテルのような広いロビーにはプランター。
そこから見える広い共用庭は芝生。
守衛室にすら小さい植木鉢がプットオン。
つまり、何が言いたいかというと、うちのマンションの外周から一階部分はマイナスイオンがすごい。
ということはリラックスした状態が維持されやすくなっているということ。
例えば文豪や哲学者が、哲学の小径のような閑静で緑あふれる並木道を歩きながら思索し、多くの素晴らしい作品や思想が生まれたように、俺の思考も研ぎ澄まされて・・・。
つまりボバーンの妄想が!
めちゃめちゃはかどって仕方がなかった!
「ボバーン?
ボバーン・・・。
ボバーン・・・かぁ。
いや、ボバ~ンかもなぁ」
完全に、にやけていたと思う。
マイナスイオンのせいで。
「ボバーンて、なに? おにいちゃん」
振り返れば、ヤツがいる。
・・・うん。さっきの子供がいる。
保育園の制服を着て。
っていうかなに?
俺、ボバーンが口に出てたっ?
妄想たれ流してたっ?
内心の自由超えてたっ?
そして、そのガキのとなりに、今、そこにある
ボ ッ バ ァ ――――― ン っ !
うぉおおお?
なにそれ?
なにそれ!
なぁにそれっ!?
あぁ、今わかりました。
おっぱいを突き詰めた先にある超おっぱいには人体を停止させる力がある。
実証されました。
金縛りの謎は完全に解明されました。
おっぱいです。
完璧です。
ノーベル賞は俺のもんだ。
ボバーンによる人類フリーズ現象は、ゆくゆくは軍需産業の勢力図を塗り替えます!
世界の紛争を全て終わらせるどころか、宇宙戦争でさえも!
マクロスに歌なんかいらんかったんや!
おっぱいさえあれば全て解決する。
それを解明した俺こそが世界をストロベリーフィールズ・フォーエバー的イマジンにラブアンドピース!
「ほらほら、ママ、さっきの、このおにいちゃんだよ!
無泰斗にいちゃん!
よかったー、生きてた」
ガキが俺を指差しながら、嬉しそうに母親の袖を引っ張る。
「あぁ、魔封波を使って、悪魔を封印したシンイチくんって、真太郎くんだったのね?
フフ、なんだか、納得したわ」
にっこり微笑むボバーン本人。
え?
ちょっと待って、なに?
なんでボバーン本人に俺の顔と名前が割れてんの?
もう既にグローバルに紛争を引き起こして儲けている武器商人や闇の軍産複合体のエージェントが俺をマークしているのか。
悪の組織が俺の個人情報を拡散共有状態か。
クソっ、このままでは宇宙の平和が・・・。
ああ、だめだ。
我がマンションのマイナスイオンとボバーン妄想のせいで、脳みそがまともに稼働してくれない。
つまりいつも通り!
「あれ? 真太郎くんでしょ? 灰谷真太郎くん」
「・・・・・・」
ちょっと待った。
今、気がついたんだが、顔もすっごい美人だ。
しかも優しい系のメガネ美人だ。
ウェーブ掛かった、ゆるふわっとした明るい髪を軽くまとめて留めてる。
ふちなしメガネ、キラっと光るピアスに、ぷるっとした色気のある唇。
癒し系微笑。
いい匂い。
かなみのとは違う、香水?
フェロモン?
エロモン?
こんなエージェントが暗殺しにきたら成功率100%だろう。
だって、だめです。
金縛りが解除できません。
「あら? ごめんなさい、間違えちゃった?」
胸の前で手を合わせ、上目遣いに小首を傾げるボバーン。
ハッと我に返る。
「あ、いや! ま、間違えてないです。
た、確かに、は、灰谷、し真太郎ですけどっ。
・・・え、えぇと?
す、すんません。だれ、でしたっけ?」
ドギマギ。
そう、コレがドギマギ。
クールに、ぶっきらぼうに、礼儀正しくドギマギする。
何て日だ。
でも、いきなり人妻属性キレイ系清楚系癒し系巨乳女優みたいな人にいきなり至近距離で名前呼ばれたら普通絶対こうなると思う。
朝から色々あって、既に一日分の心拍数を使いきってしまったくらいに高速ビートハートだったが、普段の俺はもう少し落ち着いていて、ちゃんとクールでぶっきらぼうなのだ。
・・・多分。
その5へつづくっ!