第一章 第2話 ポヨンに魔封波を使った結果・・・その3
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「おにいちゃん、なにしてるの?」
気が付くと土手の上に、五歳児くらいのガキがいた。
たしか少し前にこの辺りに引っ越して来たっぽいガキで、最近ちょくちょくこの公園で見る気がする。
手には銃を持っている。
そして、その銃口を俺に向けている。
・・・殺る気だ。
「あー、えーと。
何君だったかな・・・。
えーと、ママは?
この時間、まだ公園には入れないはずだけど?」
ポヨンを頭上に掲げた変なポーズのまま、冷静かつ大人な対応。
「えっと、コンジイが入れてくれた。
ママはあっちでコンジイと喋ってる」
コンジイ、無能。
管理人だろ。
管理しろ、俺以外を。
俺は自由だ。
というか人妻を管理するな。
人 妻 を 管 理 ・・・猛烈にエロ過ぎて、この響きだけで数日は爆発できるな。
「あのね。コンジイが向こうにお化けがいるって言うから、ぼく退治しにきたの!
この、ライダーリボルバーで!」と決めポーズ。
子供に何を依頼してんだ。
・・・コンジイ、アホか?アホだ!
いや、むしろ人妻と二人きりになるための策か!コンジイ、狡猾!
「変身! パワーチャージ!」
子供が、腰に着けているメタリックカラーのベルトのボタンを力強く押す。
ショボくれた三原色のLEDがピカピカ光り、謎のギミックがガチャガチャと動く。
機械声で「ジャスト、ブレェェイブ!」、ノイズ混じりのけたたましい電子音が鳴る。
手にした銃と連動しているのか、銃も「リボルバーオォォン!」とか鳴っている。
単語の意味が分かりませんっ。
しかし、そうなのだ。
なにかに変身して敵を倒すのは、こういう子供の役目なのだ。
ルミナスなんとかさんも、こいつに魂をリンクするべきだったんだよ。
こんな、ひねた思春期高校生じゃなくてさ。
きっとなんとかピアもあっさり救われるよ。
見ろ。
あの、やる気満々の瞳を!
すっかりパワーチャージされ、ブレイブがオンされてジャストしているじゃないか。
「おにいちゃん、それがオバケなの?」
ひとしきり変身ポーズを決めた後、ガキは銃口を俺の手に鷲掴みされているひしゃげたボールに向けた。
「っとぉ!
コレはなんでもないっ!
コレは、おもちゃ! ぬいぐるみ!
昨日ベランダから落としたんだ!」
「なっ!おもちゃじゃないポヨ!
オバケでもないポヨ! 侮辱ポヨ!
ポヨンは、アルカトピア王国魔法騎士庁、聖女神ルミナスルナ騎士団、第七召喚騎士部隊所属の騎士導者ムギゥ!」
おもちゃという言葉に過剰反応して、早口でしなくてもいい自己紹介をいきなり始めた。
つーか、そういう紹介は冒頭でやって?
しかも漢字と片仮名ばかりでいらない情報多そう!
とにかく俺は、ピンクボールの口をふさいで慌てて背後に隠した。
そういえば昨日も何回か自分のことをポヨン様とか言っていた気がするな。
ようやくこいつの名前を認識したぜ。ポヨンね。
語尾がポヨで名前がポヨンなんて、お約束通りで全く安直だ。
「なに?いまの・・・」
「は、ははは!
なんでもないなんでもない。
最近のぬいぐるみって結構喋るし動くんだよ。
グロウラーって機械が中に入っててさぁ、ははは」
確か妹の持っているぬいぐるみが鳴くタイプで、妹はそれをグロウラーが入っているからだと言っていたのを思い出した。
「え?グロウラーのぬいぐるみって、メ~とかモ~とかしか鳴らないよ? そんなに喋らないよ?」
なんでそんなこと知ってんだ、このガキは!
てめぇの手にした銃はリボルバーオンとか言ってたじゃねぇか!
「あはははは!最近のはアレだ。高性能なんだよ!
君の銃とかベルトも喋るだろ?」
「コレはグロウラーじゃなくてサウンドチップだもん」
マジで何だこのガキ。
なんだよサウンドチップって!
グロウラーとの差はなんだよ!
じゃあグロウラーってそもそもなんなんだよ!?
しらないよ!
怪人かモンスターの名前だと思うよ!
宇宙怪獣グロウラー参上、覚悟しろウル〇ラマン。
というかおもちゃの喋る機構を理解するほどの利発なガキでも楽しめるのか、変身ごっこを!
「ぶはっ!
放すポヨ!
放せポヨ!
ポヨンはおもちゃ呼ばわりが一番許せないポヨ!
子供でも容赦なく正義の鉄槌だポヨ!」
背中でポヨンがジタバタ暴れる。
おちつけ、おもちゃ呼ばわりしたのはあいつじゃなくてこの俺だ。
「それ、すごいね~。どこで売ってたの?」、ガキは目を輝かせて言う。
俺の背後に回りこんで、ポヨンを見ようとするガキに対して、背中を見せまいとジリジリ動く俺。
放せ放せと喚きちらしてバタバタ暴れるポヨン。
前も後ろもウザーい。
「しかたない!
よく見ろ、子供よ」
俺はポヨンの顔をグワシと握り直し、左肩にかけていた通学カバンを地面に置いた。
教科書の類はハナから入っていない。
全部学校に置きっぱなし。
かなみの言ってた本日提出のはずの課題もな!
スカスカのカバンを開き!
ポヨンを握ったまま!
ロボコンパンチよろしく腕をぐるんぐるん振り回す!
ポヨォオォオォオォオォオォオという声が若干のドップラー効果で揺れる感じに聞こえる。
ガキの視線も釘付けだ。
俺はひとしきり振り回したところで高く掲げたポヨンを両手で持ち、叫んだ。
「 喰 ら え ! 魔 封 波 ――― っ ! 」
ズバーンとカバンの中にポヨンを突っ込む。
そして素早くジッパーを閉めて、
「封・・・印っ!
・・・俺様!
悪魔を!
完全封印!」
わざとらしく息を荒げながら言った。
ガキは・・・うん。
無言。
無反応。
あれ?引いてる?
五歳児(?)のくせに?
いいよもう。
もはやさっさと帰るだけだ。
今のことを後で親に話したとしても、魔封波のおかげでワケの分からない報告になって一連の流れはばっちり隠蔽だ。
フフ、俺ってば策士ぃ~。
「おにいちゃん・・・」
「ハァ、ハァ、なんだ?
悪魔は封印したから、もう、大丈夫だ・・・」
「お兄ちゃんは・・・武泰斗さまなの?」
「ちょっとまてぃ!
なんで初期ドラゴンボールネタであるピッコロ大魔王封印技の使い手を、お前の歳で知ってるんだっ!」
思わず指差し、聞き返す。
「キッズ・アニメチャンネルで見たの・・・」
なるほど、ケーブルテレビかネットテレビかの再放送か。
新旧のコンテンツがいろいろ充実してるらしいな・・・。
俺がガキの頃には、アニメなんて見逃したら終わりだったからテレビの前に定刻通りにかじりついていたものだが(母親がアニメを録画してくれない)。
ネットやらなにやらで、便利な世の中になったものだ。
その代わり情熱は失われたんじゃないか? 子供たちよ。
「待ってて! おにいちゃん! ママ呼んでくる!」
「えっ?」
通報ですか? マジやめてください。
「それまで、死んじゃだめだよ!」
「お、おう・・・」
そう言うとガキは公園入口の方へ、てててっと一生懸命走って行った。
そういえば、無泰斗様は魔封波使ってピッコロ封印した後、力尽きて死んだんだっけか?
バカなのか利発なのかわからんが・・・正義感に溢れて、優しい心を持つ、良いガキだ。
俺なんかより、よっぽどヒーロー向き。
カバンの中を覗くと、ポヨンが目を回して気絶していた。
「ふぅ・・・かえろ」
俺はカバンを肩にかけ、息をつく。
とりあえず、部屋に戻ってからいろいろ解決しよう。
なんか・・・どっと疲れた。
その4へつづく・・・。