第一章 第2話 ポヨンに魔封波を使った結果・・・その2
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距離をとる。
イコール離脱。
とりあえず、踵を返して、すたすたと土手を登りはじめる。
「ちょっ! 待つポヨ! どこいくポヨ?」
俺は振り返らずに、手だけを軽くひらひらと振った。
別れの挨拶はこうありたい。
男は背中で語るものだ。
俺の背中に浮かんだ文字は、じゃあ、ずっとソコに居れば?である。
「いやいやいやいや! 待つポヨ待つポヨ!」
もちろん待たない。
「ちょちょちょちょちょー。
うそうそ! とりあえず殺さないポヨ!」
待たない。
スピードも緩めない。
いろいろ弁明を喚き散らしているが、それに対して反応すらしない。
土手を登り切る。
もうすぐ俺の姿はヤツから視認できなくなるだろう。
「フエェエエエエエ! スミマセンデシタ―――――――――ッ!
下ろしてくださいぃ―――――――っ!
調子乗りました―――っポヨォ―――――――――ッ! 」
ここでようやく止まって、振り返り、土手の上から偉そうに見下ろす。
許しを請うところまで計算通りだ。
見ると、なんか、涙と鼻水で顔・・・というか体全体が濡れて滴り、悲壮感で赤鬼どころか青鬼も泣きそうなほどの表情。
鼻がズビズビ、グシュグシュなっている。
・・・鼻の穴どこにあるのかわからんけども。
それにしても吊るし放置継続の刑がここまでの精神ダメージを与えるとは計算外。
多分PTSDってやつですよ、これ。
さて、もう精神的優位は保てているので、このまま下ろしてやっても良かったのだが、先ほどの惨陰な処刑のセリフの状況をちょっと想像して、やはりなんとなく恐怖を感じたので、とりあえず地面に落ちている小石を拾った。
サディステックな笑みを浮かべ、体を後ろに反らせながら靴底を相手に見せるように足を上げるフォーム。
そのまま相手を踏みつけるかのように大股で振り下ろし、その勢いを全てボール(小石)に乗せて、斬るように投げる!
「村田兆治のマサカリ投法!
カミソリシュートっ!」
「みぎゃっ!」
眉間を狙ったのだがボール(小石)は宙吊りの的の右耳をチュインと掠り、そのまま線路に飛んでいった。線路に石とか投げたらいけませんよ。
ポヨは、顔面蒼白・・・いや、顔面薄ピンク。
通常フランボワーズソースくらいのピンクが原液ケチったカルピスイチゴ味くらいのピンクになっている。
「武良太刀陽滋のマサカリ闘法カミソリ襲投・・・耳だけを正確にに撃ちぬくとは・・・。お、
恐ろしい技ポヨ・・・。
それにしても、マサカリなのかカミソリなのか・・・」
ガクガクしているピンク。
なんか勘違いしているみたいなニュアンスだがあえて放置で。
◇ ◆ ◇
子供の頃から何度も登った木であるので、数年ぶりでも難なく上部の枝まで到達することができた。
枝の先の方まではなかなか手が届きにくいので巻き付いた尻尾を外す作業は結構めんどうくさい。
「うう、やっと下りれるポヨ・・・」
「おい、念の為に言っておくが、俺を殺そうとしたら、・・・殺すからな」
「ダイジョブポヨ・・・お前を殺したら多分ルミナスルナ様にすっごく怒られるし・・・」
「なんでだ?」
どうにか枝から尻尾を解きながら訊いた。
ルミナスルナとやらはまぁ、いったん置いとこう。
「んー。お前が死ぬと、もう一度、ルミナスルナ様に騎士候補を探してもらって、そいつが魂のリンクに適合できるかの審査とか、色々面倒くさいポヨ・・・。
お前は一発目でリンクできたらいしいから、ルミナスルナ様は喜んでいたポヨ。
ぶっちゃけ相性ポヨ。
・・・だからお前には是が非でも騎士になってもらいたいポヨ」
「いや、知らねぇし。
シュバリエ?とやらがが何かはわからんが、やらねぇよ?」
「ならお前は死ぬポヨ!」
「フンッ!」
即座に樹上から思い切り下にぶん投げた。
地面に跳ねて、ブポッっという声がきこえる。
俺は枝からそのまま飛び降り、土手の斜面を転がる球体の上に完璧な着地。
潰れるピンク。
慣性の法則に任せてそのままズズズー・・・。
足で踏みつけたまま数メートル滑り降りたところで、ゆっくりと手を左右に広げ、テレマーク。
泥にまみれたそれは、ほぼボロ雑巾。
じゃぁもうコイツはきっとボロ雑巾なのだろう。
「さて、殺そうとしたから殺すぞ?」
「ブッフォッ!」
ポヨンの口の中から土が出てきた。
しばし咳き込み、最後にペッペッと舌についた砂粒を吐き出す。
「土・・・まずぅ」
だろうね 。
「もっかいいっとくか?
土、食いたそうだもんな」
努めて冷徹な声を出してみる。
「ちょまっ! ちがうちがう!違うポヨ!」
バタバタと慌てるポヨン。
「なにがちがう? 殺すって言ったら殺すって言ったろ?」
「殺しません!
ころしません!
コロシマセン!
死ぬポヨって言うのはそういう意味ではなくて!
騎士にならなければ、ポヨンが何かしなくても自動的にリンク解除されちゃって、結果死ぬってだけポヨ・・・」
「うん。やはりあまり違わないな。
では、土を喰らえ」
待ってポヨと連呼するのを無視。
鷲掴みにして頭上に掲げ、倒れ込みながらこいつを地面に叩きつける態勢を整える。
その瞬間、ふと背後に気配を感じた。
その3につづく




