炎熱の戦い
二人は溶岩の滝が流れる火山で大きな飛竜と戦っていた。
何度も攻撃を仕掛け続け、ついに飛竜の住処まで追い詰め、戦いも終局に差し掛かっていた。
回復をしようとしているのか、飛竜は目を閉じて岩の上で寝息を立てていた。これはチャンスだ。
中腰になった二人は、音を立てないように飛竜の近くまで近づいていく。
ここで起きられてしまえば、二人はひとたまりもない。
少し離れた岩の後ろにカナデは隠れ、大きなボウガンで飛竜の頭に狙いをつける。アカリはそのまま近寄っていき、鼻息が聞こえる程の距離まで近づいた。
岩陰のカナデは残弾数を確かめた。通常弾以外はもう殆ど残っていない。
赤い鱗に守られた硬い鱗に傷をつけるのは、並大抵の武器で出来る事ではない。この通常弾では弾かれるだろう。特殊弾の配合の材料も尽きて、残弾の使い方には気を使う必要があった。
こんなこともあろうかと、アカリは爆弾を持って来ていたのだった。
鱗を剥がす為に赤樽爆弾を飛竜の腹部に設置する。少し後ろに下がり、後ろのカナデに合図をする。
カナデは微調整をして、樽に狙いをつける。焦るな、深呼吸、深呼吸。よし。
引き金に掛けた指に力を込め、引き絞る。金属音を上げて銃弾が飛び立つ。
狙い通り、樽に吸い込まれていく。よし、いけ!
無事に命中し、一瞬の静寂の後轟音が響く。そして強烈な衝撃波を伴った爆発が飛竜の無防備な腹部に突き刺さる。鱗は吹き飛び、腹部が露わになる。成功だ。
煙の中、飛竜はよろよろと起き上がり怒りの声を上げた。だが、もう虫の息だ。
隙を見逃さず、助走をつけたアカリが大剣を横から斬りつける。鱗の剥がれた腹部から突き刺し、鱗ごと切り裂いた。致命傷になる一撃だ。
なにせ、龍の鱗や牙を加工して作られた飛竜の大剣である。ダメージも大きい。
アカリが剣を振り抜くと、カナデが駆け寄り腹部に散弾を放つ。
これが致命傷だったのか一際大きな断末魔を残して、飛竜は倒れ込んだ。
狩猟成功の音楽が流れ始めると同時にすかさず二人は飛竜に駆け寄る。
そして、どこからか出した片手ナイフで飛竜の体から鱗や爪を剥ぎ取る。
巨体の飛竜から剥ぎ取れるのは3回。剥ぎ取り時間は2分だ。
20秒程で剥ぎ取り、残りの時間は攻撃しあって時間を潰す。クエストクリアの表示がでかでかとブラウン管テレビ画面に表示される。
「あっぶねー!硬すぎるだろー」
「時間制限まであと2分だったよ、危なかったー」
扇風機がカラカラと回る部屋の中で、汗をかきながら二人してゲームをしていた。エアコンは無いので、窓を開けて扇風機を回すのが唯一の納涼手段だ。それでも暑い。
現在二人が画面上で戦う相手は4人で協力プレイをすればすぐに倒せるのだが、二人だとそう簡単じゃない。数回攻撃を喰らえばすぐにやられる。3回死んだらクエスト失敗だ。慎重なプレイを要した結果、1時間も掛かってしまった。
無事に倒した二人はハイタッチをして、ポテトチップスを新しく開けた。
冷えたカルピスをストローで飲みながら、ポテチをボリボリと食べる。勝利の味は身にしみる。
「いやー、面白いなこのゲーム!」
「アカリと初めてゲームした時は下手くそすぎてどうなるかと思ったよ」
「いやいや、カナデがゲームしすぎなんだよ、これだから都会人は」
「うるさいぞ、こっち来てから全然やってないからな」
「ゲーム脳め」
「それ本当にやめろって」
東京にいる時、ゲームばっかしていたらママにも言われた。どうやらテレビ番組でその言葉が使われたみたいで、ゲームする度に言われて本当に嫌だった。
「自転車脳め」
「うれしー事いってくれるじゃん」
アカリは満更でもない顔だ。わざとらしいドヤ顔が腹立つ。
「ところで、ゲーム脳のカナデくん」
「だからそれやめろって」
「じゃあカナデ脳のゲームくん」
「もう訳がわからないよ」
面倒な感じになってきたので漫画に手を伸ばすと、漫画を取り上げられた。何なんだ。
「まぁまぁ、自転車脳の話を聞いてくれって」
「なんなんだよもー、はいどうぞ」
「明日空いてる?」
「夏休みだしそりゃ空いてるよ」
「じゃあさ、ちょっと一緒に自転車で走ろうぜ!」
「どこまでさ」
「美々津だね」
「いや、遠すぎるでしょ!!」
以前パパとママと車で行っても結構掛かった、2時間位だろうか、とにかく車酔いする位掛かった。自転車で行ける距離じゃない。
相変わらず唐突なアカリの提案に僕は頭を抱えた。なんだって急にそんな事を。
「いーから行こうぜ!」
「なんで行きたいのさ」
「それはえっと…」
アカリは柄にもなく目を泳がせた。そして鼻筋を中指で撫でた。
「えーっと、そうだなぁ…ば、ばぁちゃんに会いに行きたいから」
嘘をつく時、アカリは鼻筋を中指で撫でる癖がある。そもそも、前にばあちゃんがいるのは鹿児島の方だと前に言っていた。わかり易すぎる嘘だ。相変わらずアカリは嘘がつけない。
「…で、本当は?」
「ほんとだーってば!いいから来いって!」
「まぁ何でもいいけどさー、パパとママに良いって言われるかなー」
「うっ…」
考えていなかった様だ。どう考えても駄目って言われるよ。
そう言うと、暫く黙り込んしまった。
「そうだよなあ、わかった。ひとりで行くよ」
「うん」
なんだか気まずくなって、ふたりとも漫画を読み始めた。気がつけば、もう5時になっていた。
リビングからママがアカリを呼ぶ。帰る時間だ。
「じゃあな」
トボトボと部屋から出ていくアカリを見送る。なんだか、悪い事したのかもしれない。
でも、駄目って言われるだろうし、行けないだろうなと思う。
なんで、そんなに行きたがるんだろう。
アカリが帰った後、ご飯を食べてすぐお風呂に入った。狩りで汗をかいたのでとても気持ちよかった。
お風呂を出てリビングの前を通るとき、パパとママが中で何かを小声で離していた。
聞いちゃいけないと思いながら、聞き耳を立てる。
それは、本当に聞いちゃいけない事だったのかもしれない。
それでも、ちょっとした好奇心でボクは耳を壁に押し当てたのだった。