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逃れられぬ因縁

木枯らしの吹く中、手をこすり合わせながらいつもの通学路を行く琴羽とそれに随伴する銀髪の少女。

正確には、こすり合わせているのは琴羽ひとりだけだが。


「あなた…寒くないの?」


「言ったでしょ。私は人間じゃない、暑さ寒さなんて感じないの」


「…姿は人間なのにね」


平然と応える少女に対し、溜め息混じりの息を両手にハアッと吹きかけ、また手をこすり合わせる琴羽。


「あのさ、そもそも屠霊師ってなんなの?

除霊師なら聞いた事あるけど」


不意の琴羽の質問に、真顔になる少女。


「解釈の違いはあれど、除霊師は単に悪霊に憑依された人間から悪霊を追い払うだけ。

そう、あなたがお母さんにやったようなね。

それに対して屠霊師は、完全に霊をこの世から抹消する…つまり『成仏』させる事が目的なの」


「でも、私にそんな事が出来るのかな…?」


急に立ち止まる琴羽。少女も同じように彼女の側で立ち止まった。


「出来る、出来ないじゃない。やらなきゃいけないの!

あなたのお母さんをあんな目に遭わせたアイツを、このまま放っておくつもり⁉︎」


急に強い口調になり、琴羽を叱咤する少女。

琴羽は未だに意識が戻らない母親を思い出し、歯をくいしばる。


「私…アイツを絶対許さない。

必ず倒すんだから」


「決まりね」


そう言うや否や、忽然と姿を消す少女。

琴羽は周囲を見渡すが少女は見当たらず、

代わりに自分に走り寄ってくる者を確認する。


「プスコおはよ〜〜っ!」


「お、おはよっ、マジコ」


元気良く挨拶をする好美が琴羽の側に寄り添う。

そして、いつも通りに登校する2人だった…




放課後…

帰り仕度をする好美に、今度は琴羽が話しかける。


「マジコ…これ、受け取ってほしいの」


琴羽が鞄から少女に貰った小瓶を取り出し、好美に手渡す。


「何…?コレ。白い粒みたいなのが入ってるけど」


「お、御守りよ。この前、知り合いから貰ったの。マジコにも持ってて欲しいなぁって、思ってさっ」


見ず知らずの少女から貰ったとは言えない琴羽は、とりあえず最もらしい理由をつける。

「ふーん、変わった御守りね…


とりあえず、ありがと!大事にするよ」


そう言い、着ていたコートの胸ポケットに小瓶を入れる好美を見て、琴羽は。


「あははっ!マジコ、片方だけ巨乳になったみた〜い!」


「う、うるさいなっ

御守りなんだから、身につけておかなきゃ意味無いでしょ⁉︎」


顔を赤くして琴羽から目線を逸らす好美。

そして、軽く溜め息をつく。


「どうしたの?

…やっぱり、気に入らなかった?」


「ううん、違うよ。他の皆は楽しく部活やってるのに、私達がいるテニス部は未だ停部中…あんな事があったから」


「……」


俯き、表情が暗くなる2人。


1週間前、テニス部で女子部員が練習中に倒れて亡くなる事故が発生した。

他の部員が練習を終え帰っていく中、大会が近い為に少しでも上達しようとその部員はひたすらラリーを続け、その途中に倒れたのだが…

そのラリーの相手は琴羽だった。

琴羽は急いで駆け寄り、心臓マッサージ等の蘇生措置を試みたが意識は戻らず…

たまらず保健室へ先生を呼びに行く。

それが女子部員の明暗を分けた。

琴羽が保健室の先生を連れて彼女の元に戻った時には…既に、息を引き取っていた。




「わ、私が、私が…!あの子から離れずに、担いででも保健室に運んでいたら…!

あんな事には…!」


両手で顔を覆い、嗚咽を漏らす琴羽。

好美はそんな琴羽の身体をふわっと抱きしめる。


「自分を責めないで…プスコのせいじゃない。プスコはやれるだけの事はやったじゃない?

それにあの子は元々、心臓に疾患があったみたいだし…」


そう言い、琴羽の頭を優しく撫でる好美。


「こういう時は、美味しいケーキで気分を紛らわすのが一番ね!

というわけで、昨日行けなかったカフェに行こっ!」


「うん…そだね」


ニカっと笑い、教室を出て行こうとする好美の近くに例の銀髪少女を見つける琴羽。


「あっ…」


「プスコ?どうかした?」


キョトンとする好美。

どうやら少女の存在には気付いていないらしい。


「ちょっと忘れてた事があってね…

悪いけど、先に行っててくれる?」


「うん、校門前で待ってるね!」


走り去っていく好美。

彼女と入れ替わるように、琴羽に近付いてくる少女。


「ホントに、どこにでも現れるのね」


「私は基本的に、普通の人間からは見えない。だから、ここに来るくらいは造作もないの」


「あ、そ。今度は何の用なの?」


「これを…」


少女が、持っている黒く長い湾曲した棒状の物を琴羽に差し出す。


「これ、何なの?黒い木刀みたいだけど」


「『屠物(ともつ)』と呼ばれる、悪霊に対抗するための道具よ。それは『屠刃(とじん)』っていってね、仕込み刀になってるの」


「ちょっっ!刀って⁉︎

そんなもの持ち歩いてたら…」


「大丈夫。屠物は私の姿みたいに普通の人間には見えない。もちろん、警察にもね。だから変に騒がれたりはしないわ」


それを聞き、ホッと胸を撫で下ろす琴羽。

いくら仕込み刀とはいえ、こんなにあからさまに怪しい物を他人に見られたくはなかった。


「で、これをどうしろと?」


「刀だから、中に刀身が入ってるわ。

ちょっと引き抜いてみて?」


琴羽は言われるまま、柄の部分を握り力を込めるが…

刀身は微塵も姿を現さなかった。


「ぬ、抜けない…!堅過ぎる…!」


「やっぱり、無理そうね」


屠刃をヒョイと取り上げる少女。

琴羽は両膝に手を置きゼェゼェと荒い呼吸をする。


「な、何なの…一体」


「これは非常にまずいわね…

今アイツが襲ってきたら、あなたには成す術が無いわ」


「アイツって…お母さんに取り憑いていたあの悪霊の事⁉︎」


少女はゆっくりと頷く…


その直後、琴羽のスマホから着信音が鳴り響く。

画面には、『マジコ』と表示されていた。


「もしもし…

なんでそんな所にいるの⁉︎

え、今すぐにって…

うん、わかった」


画面をタップして電話を切る琴羽、

その顔は酷く引きつっていた。


「どうしたの?」


「マジコが…体育館裏の倉庫前で待ってるから、今すぐ来て欲しいって。

しかも声が変だった…まるでお母さんが取り憑かれてた時みたいな、複数の人が一度に喋ってるような…!」


「まさか…今度はあの人に⁉︎」


「私、行ってくるっ‼︎」


血相を変えて教室から飛び出していく琴羽。少女は大声で琴羽の名を叫び引き止めようとするが、彼女は構わず走り去っていった。


「屠物も使えないのに…どうやって悪霊と戦うっていうのよ…‼︎

もう、どうなっても知らないからっっ」


悪態を吐き、口をへの字にする少女。

置き去られた琴羽の鞄を見て、彼女は呟く…


「死なないで、お姉ちゃん…!」




つづく


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