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/8/絶交

展開が早くなり、力不足を感じております。

誤字脱字、ご指摘等よろしくお願いします。


高校生になる前、秋真っ只中の焼き芋が美味しい季節。

私と真和は同じ通学路で同じ中学校に通うほど、仲が良かった。

この関係は高校生になっても続くって、そう思っていたーー。










帰り道、一匹の野良猫と遭遇した。

少しぽっちゃりした三毛猫で、名前はライムって名付けた。

それはなんとなく私がつけたもので、最初真和は苦笑していたけど、2人と1匹の、この時に、秘密の関係ができたんだと思う。

それから私達は、下校時に必ずライムと戯れた。

最初は色々悪さされたけど、慣れてくると中々可愛い行動をしてくれる。

特に真和には従順で、真和が「突撃ぃい!」と叫ぶと私に飛びかかってくる。

痛いけど、それなりに楽しかったんだ。


冬の訪れたある日、いつも通り真和とライムの所に向かうと、別の少年が餌を与えていた。

私達が後ろから近付くと、足音で気づかれてしまう。


「……君たちは、誰?」


振り返った少年は前髪が目にかかるくらいに長く、肩を狭めてて見るからに内気な少年だった。


「お前こそ誰?まさかとは思うが、ひょっとして飼い主さん?」


真和が失礼にも程がある尋ね方をする。

少年は少しおどおどしながら、弱々しい声で答えた。


「いや、違う、けど……」

「そうか、じゃあ俺らは仲間だな」

「へ?」

「仲間だ~♪」


それから明葉とはすぐに打ち解けた。

なんだか高校入試が不安らしく、偶然見つけたこの野良猫|(呼び方はライムで決まった)に餌をあげて気分転換してたらしい。

そしてそして、なんと目指す高校は私達と同じだった。

家から近い、中堅ぐらいのレベルだからと私達は選んだんだけども、明葉は学力に自信がないようで、集う時はライムと遊ぶだけじゃなくて明葉に勉強を教える事も日々の習慣となった。


春が来た。

明葉も私と真和も、無事に合格して毎日3人で遊んでいた。

明葉も私達と打ち解け、軽口を言い合うほどの仲になれた。

そんなある日に明葉から電話がかかって来た。


「もしもし、明葉?」

《遊仕さん?今からさ、ライムの所に行かない?》

「ん?うん、いいよー」


急だったけれど、二つ返事で承諾する。

会話はそれだけで私は着替えを済まして集合場所へと移動する。


集合場所の1歩手前。

そこで明葉は、壁に隠れてライムがいるであろう所をこそこそと見ていた。

たどり着いた私は彼の肩を指でつつく。


「!?」


明葉は驚いて振り返り、私の顔を見つけると安堵のため息を吐いた。


「やほっ。どうしたの?」

「……遊仕さん。あれ、見て」

「……ん?」


明葉が壁の向こうのライムが居るだろう場所を指差し、その先を見るために私は顔をひょっこり壁から出した。


そこにあったのは、血溜まりに沈むライムと、膝を地につけ、朱く濡れたハサミを握った真和だった。


「――真和!!!」


刹那、私は力一杯叫んだ。

ピクンと跳ねるように動いた真和の体。

私の方に振り向いて、立ち上がる。


「……和子……」

「なにやってるの!?なんで!なんでこんな!!」

「え……あ……」


ドスドス私は彼に近付き、別の何かに気付いたのか、真和は自分の手に持つハサミを見つめた。


「違う……俺がやったんじゃない……」

「凶器を持ってるのに……そんなわかり切った嘘吐くなんて、私をバカにしてるの!?」

「なっ!嘘じゃ――!」

「真和……」

「っ、明葉……」


明葉も私の後ろから姿を出し、歩み寄ってくる。


「……とても残念だよ。ライムと一番仲良かったのは、真和だったのに……」

「違う!本当に俺は!!」

「見苦しいよ」

「ッッ――!」


苦虫を噛み潰したかのように真和が顔を歪める。


「――そうかよ」


怒りが一周回ったのか、真和の声は急に淡泊なものに変わる。

私から見れば、ただ開き直っただけだった。


「お前たち、どうするんだ?起訴でもするのか?訴えれば勝てるだろうからな」

「そんなこと……」

「僕たちに酷いことをさせようっていうの?」

「そんなんじゃねぇよ」


何をそんなに憂うのか、真和は空を仰ぐ。

そして、ただ一言。


「俺から言わせたさそうだから、言ってやるよ」


最悪の言葉を口にした。


「絶交だ」











それから1ヶ月が経って、明葉に告白されたわたしはそれを受け入れ、平穏な高校生活を送っていた。

幼馴染であったけれど、私の中での真和の存在は、徐々に薄れて行った。


「…………」


5時間目終了のチャイムが鳴り響く。

ここまで断片的に記憶を()て、和子ちゃんの背に付けた手を離す。

次は教室を移動するのか、和子ちゃんは教材を手に席を立って廊下へと消える。


「……腑に落ちない」


自然に出たその言葉。

何に対してかと言えば、それは真和の事。

場面を見れば確かに、真和が犯人なのは揺るぎない。

でも、ハサミが置いてあっただけでつい持ってしまったということも考えられなくはないだろう。

真和が犯人だと認めてない以上、私の推測が当たってることは必死なんじゃなかろうか。

それは、良い。

けれどなぜ、真和は“自分が犯人でいる事が皆にとって都合が良い”と言うのだろうか?

そんなの否定すれば、3人で仲良くできる筈なのに……。


「……情報が足りない。けど、進んでは、いる」


まだ情報を集めなくちゃいけない。

しかし、ここまで知れれば終点は間もなくだろう。

真和、待ってて……。











気分のさもしい放課後。

1日1通も欲しくないのに、もう1通メールが届いた。

差出人は一番見たくない名前の男のものだった。

常山(とこやま)明葉(あきは)

中3の頃からの知り合いで、一昨日知ったが、和子の彼氏らしい。

本文はこうだった。

[和子を泣かさないでよ。もう絶交したんだから、僕たちに関わらないでくれ]


返信も、メールを残しとく必要もない。

メールは読んでさっさと削除し、携帯をしまう。


「……やけに遅かったじゃねぇかよ」


放課後の教室に残ってる人は居なくて、左前の席にポツンと座った俺はドアの向こうに声を投げかける。

来た人間は、影を見てわかった。

長い髪を持った友達なんていないから。


「記憶でも()てたのか?」

「……それもあるよ」


木靴を踏み鳴らして、カムリルが入ってくる。

和子の記憶を診たらしい。

つまり、事の概要は大凡わかったはずだ。


「ただ、彼女の記憶を見ても全くわからないの」

「何がだよ?」

「真和がライムを殺したってこと。そんなものは嘘に決まってる」

「…………」


俺を犯人だと言い張る和子の記憶を診て“嘘”と思うなんて、こいつは中々頭がおかしい。

いや、それはいつものことだが。


「それに、犯行に及んだとして真和になんの得もない。こんなの異常だよ」

「んなことわかってるんだよ」


俺たちの関係は異常だ。

しかし、責任があるとすれば俺だろう。

だって俺は、“彼奴らの気持ち”に気付いてなかったから。

だからこうなってしまった。

この異常な関係に。


「何度も言うが、犯人は俺じゃない。でも俺には犯人にならなきゃいけない理由がある。だから解決する必要なんてないんだよ、カムリル」

「……そんなことで納得する軟弱女だと思った?」

「無理なものは、無理だ。諦めろ」

「…………」


悲しそうに、悔しそうに顔を歪ませてカムリルは押し黙る。

それでも彼女は諦めず、食らいつける所に食らいつく。


「真和がどんなに無理と、無駄と言おうと、見捨てることはできないよ」

「それがお前の性向なら、俺の側に取り付いてるのはいいさ。だけど、ここからはヒントも殆どない。俺は喋っても良いが、無理なのを納得させるだけだ」

「そんなことはわからない。真和はいつまでも私の事をナメてるからそんなことーー」

「ナメてねぇよ」

「…………」


ピタリと会話が止まる。

カムリルの間の抜けた顔が俺の真摯な視線を捉える。


「ナメてない。お前は気さくで人を見る観察眼も持ってる。希望の妖精、かなり向いてるよ」

「……私の事を高く見てなお、できないと思うの?」

「そうだ。1足す1が絶対2であるように、俺はこの役に従事なきゃならない。皆が悪い思いするより、1人が悪い思いする方が良いに決まってる」

「……違う。そんなの……」

「違わねぇよ。いつまでも同じ関係じゃいられない。誰にしたってそうなんだからよ」


人は人を好きにも嫌いにもなるというのは言うまでもない。

それは時間をかければより深くなる。

身を持って俺は体験した。

好きというのは時間さえあれば嫌いになると。


「そうだよ。誰にしたってそう」


急に落ち着いた様子になるカムリル。

瞳は真っ直ぐ俺を見据え、そっと、手を差し伸べた。

彼女の手は俺の手に伝い、優しく握り締める。


「優しくも辛辣にもなる。誰かが粗末に扱われて傷ついてしまうのは避けようがない。だけどね、傷ついたままなのも、時間のせい。時間のベクトルが悪い方向を向いてるの」

「……何が言いたいんだよ?」

「だからね、悪い方向に向いてる時間を、良い方向に直す機転が必要なの。それはきっとね」


既に近い彼女の体をさらに押し寄せて、耳元でそっと囁かれる。


「仲直りだよ」


たった一言。

でもそれは、一体どれほど難しい事であろうか。

機転は作り様がないだろう。


「できるんなら苦労してねぇよ……」

「真和1人じゃできないかもしれない。でも、私と一緒ならどうかな?」

「…………」

「自己評価としては、そんなに頼りないつもりはないんだけど、どう……かな?」


目の前で瞳をパチクリさせ、問うてくる。

……まったく、こいつは……。


「どうしても引かねぇつもりかよ?」

「知っての通り、私はこういう女だよ?」

「……ああ、その通りだな。つうか邪魔」

「にゅおっ!?」


いい加減顔が近いので押しとばす。

こいつは本当に女なのか、大の字になって倒れてピクリとも動かない。


「お前は、全部知らないからできると思ってる。俺だってただ、俺がライムを殺しただけなら謝ってるんだよ」

「……うん」


そりゃそうだ、犯人扱いされても謝りゃいい。

なんどか謝ろうとも思った。

俺が悪くなくとも。

でも、それができないんだ。


「名探偵とか言いながら全く情報集めてねぇから、もう教えてやるよ。お前ができないと納得する様に」

「……わかった」


カムリルが、ゆっくりと上体を起こして床に座り直す。


「私も、ずっと1人に構ってはいられない。教えて、何が悪かったのかを」

「ああ……」


俺は語り始める。

全ての始まった日、ライムと出会った日。

そこから始まった悲劇を――。




続く

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