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/5/お出かけ

日曜日になった。

ヒントを与えてやると約束したが、気の滅入る事なので朝からする事でもなく、俺は昨日と同様寝ようとした。

しかし、そう上手くはいかないらしい。


「で、どういうご関係なの?」

「夜を楽しんだ仲です!」

「母さん、こいつの言う事は全部嘘だから信用しないでね」

「真和酷い!?」


リビングに母さんに呼び出され、突如始まった三者面談。

テーブルを三人で囲い、緊張の欠片も無い空気が流れる。

好い加減カムリルを不審に感じたらしいけど、寝泊まりしてるんだからもっと早くから感じ取れよ。


「でも“そういう”関係じゃないならどういう関係でうちに泊めてるの?」

「こいつ妖精なんだよ。な?」

「羽の伸縮は無限に可能ですっ」


にょにょにょとカムリルが羽を伸ばして行く。

その気持ち悪い姿を母さんは顎肘ついて眺める。

そして感想を一言。


「あっそう」


さして気に留めてないようだが、妖精であることはあっさり認めた。


「じゃあなんで妖精が真和に取り付いてるの?暇潰し?」

「いえ、真和さんを見初めましてねぇ、えへへへ……」

「嘘ばっか吐きやがって。こいつは俺に希望を与えるとかいうことで俺に取り付いてる悪霊だよ」

「ふふふ、真和?夜に私の恐怖体験ベスト10を聞かせてあげる……」

「ふーん、そうなのねぇ……」


母さんがカムリルの話を遮り、彼女をジロジロ観察しながらポツリと呟く。

因みにカムリルは今、例の白衣を着ている。

寝てる時とかはずっとこれだった。


「……羽だけじゃあ、証拠に乏しいわよね?」

「じゃあ証拠その2!変身っ!」


突如湧き上がる蒸気のような霧のようなものに包まれ、15cmくらいに小さくなったカムリルが中から出てくる。

宙を羽ばたいて俺と母さんの前を右往左往し、一度母さんの目の前に止まってビシッと指差す。


「どうですかっ!?」

「うんうん、ファンタジーねぇ~……納得は、したわ」

「うぉおおおおおおおおおおおお!!!」

「無駄に叫ぶんじゃねぇよ……」


そんなに長く居ないだろうから意味のなさそうな喜びなのに。

ここで、母さんは目を鋭くさせて言葉を付け加える。


「ただ、妖精だろうと、うちの息子を(たぶら)かすようなことはしないでね?」

「大丈夫、墓まで一緒ですっ!」

「今すぐ墓場立ててやろうか?」

「いらないです冗談です」


母さんが半ギレすると、カムリルも恐れをなして平謝りする。

ちっちゃい人間が人に謝ってると、どことなく滑稽に見える。


「……うん、まぁいいわ。お話終わりっ。戻っていいわよー」


母さんがパンパンと手を叩き、話が終了する。

カムリルは一旦テーブルの外に出て元の人間サイズに戻り、それから俺の腕を抱きしめた。


「やっぱり、もらっちゃだめですかっ?」

「…………」

「…………」


母さんと俺は静かに座っていた椅子を持ち上げる。


「え?いや、ちょっとそれは死んじゃうかな~……」


俺から手を離し、一歩一歩後ずさるカムリル。


「非礼を……」

「……詫びろっ!」

「いやぁああああ!!?」


椅子をぶん投げると同時にカムリルが飛び去って逃げて行く。

椅子は壁に当たるだけで、カムリルはすり抜けて外まで逃げて行った。

なんとも清々しくない朝である。











カムリルが帰ってきたのは昼頃のこと。

実体化したまま飛んでって大丈夫かと疑わしいが、本人が気に留めてなさそうだから大丈夫だろう。


「見てこれ~!お母様が貸してくださったでござる!」

「あぁ、大分人間らしくなってきたな」

「元から人間なんだよっ!?あと、こっち見てないよね!」

「あ?うん」

「適当な相槌とはなんて寂しいの……よよよっ」


わざとらしい泣き声が聞こえる方をチラッと見る。

借りたものというのは白いニーハイソックスらしい。

先日買った服とに、ソックスを履いて彼女は足を崩して座り、泣き真似をしている。


「頭悪そうだな」

「何ということを言うの……この天才カムリル様に向かって!ええいこの狼藉者!覚悟せよ!」

「襲いかかってきたら口ん中に鉛筆突っ込んで舐めまわさせてやるよ」

「真和さんのドSっぷりぱねぇッス。参ったッス」

「あっそう……」


いつまでも煩いカムリルを適当にあしらい、俺は一昨日読んでた漫画の続きを読む。

悪党を悉く銃殺するというバイオレンスな内容だが、その中で仲間を誤射とか恋愛関係とか中々面白い。


「まお~。私が暇で死んじゃうよ~」

「……そうだな」

「いいの!?」

「まぁ俺は構わねぇけど……」


どうせ死なないし、いい加減構うのも面倒になってきた。

面白くはあるんだが、こうも続くと怠くもなる。


「……おい、カムリル」

「ほい?」

「希望通り出かけてやるよ。行くぞ」

「えっ!?真和とうとう気が狂ったの!?」

「いつも気が狂ってるお前に言われたくねぇよ」

「あー、確かに……」


そこ納得するのかよ。

まぁなんでもいい、兎に角家でのんびりもできないのなら外に出よう。

俺が家を出れば、こいつも勝手に付いてくるだろうし。

考えがまとまると、俺は財布と携帯をポケットに突っ込み、漫画を置いて部屋を出る。


「……人生からか妖精になってからか、兎に角初の放置プレイですかっ」


その声は聞こえなかったことにして、俺は扉を閉めた。


家を出ると、今日の天気は快晴だった。

昨日天候が外れただけに今日は降るかもしれないけど、傘を持ってるのも変なのでそのまま外を闊歩する。


「真和たいちょぉおおおう!!待ってくださぁああい!!」

「飛べば俺より速……もう追いついてるじゃねぇか」


大絶叫など意味もなく、振り返ればすぐ後ろにカムリルが居た。

飛んでは来なかったのか、ぜぇぜぇと息を切らしている。

こういう姿を見ると、なんだか悪い気がしてきた。


「大丈夫かよ?つーか、なんで飛んで来ない?」

「そりゃあ実体化してるからですよっ。いい大人が空をブーンって飛んでたら気持ち悪くない?」


言われてみればその通りだが、別に実体化しなけりゃ良いんじゃ……と言っても後の祭り。

こいつが何考えてるのかはよくわからん。


「あっ、そうだ。真和、喫茶店に行きましょう!」

「やだよ。高いし」

「じゃあファミラスでいいから!兎に角パフェなるものを私は食べたいのでござる!」

「……パフェだぁ?」

「そう!パフェ!」


目を煌々と光らせてファミレスをカムリルが顔をズイズイ寄せて懇願する。

俺はもう昼飯を食べている。

だからファミレスに行く理由もないし、行ったところで俺は暇だ。


「嫌だ、行かない。行ったところで得するもんがない」

「なんとっ……うーん、どーしよっ?……うん、なんか交換しよう!」

「それなら考えんでもないが、お前の持ってるものって?」

「えーと、性転換薬でしょ、腐敗防止剤、お腹減らなくなーるZでしょ、それから、媚薬!」

「一昨日来やがれ」

「うひぃー!」


意見を却下されると地に額を付けて泣きじゃくる真似をしだす。

最初に会った頃首に付けてた黒いカプセルは全部無意味な薬が入っていたらしい。

そんなもん何に使うんだか。


「まぁ、まだカプセルあるだろ?残りは?」


まだカムリルが開けてないカプセルを2つ指差してやると、奴はケロッとした表立ちで顔を上げる。


「あぁ、うん。私の気分をポジティブに保つ薬と、もう一つあるのはこの世界じゃなんの役にも立たない薬なの」

「……役に立たない?」

「うん。もう使えないし、いらないから捨ててもいいんだけど……あ、中身は液体だから割られたくないし、渡さないよ?」

「……ふーん」


彼女からすればそれらは前世の物でこの世界には無いだろうからな。

この世に性転換できる薬なんてないし、お腹が空かなくなる薬とかもない。

きっと科学者と言ってた彼女手製の無二の代物だろう。

それなりの想いが詰まってる筈だ。

俺に渡したくなさそうだし。


「……交換する物もなさそうだな」

「ぐっ……。私の科学知識提供する!どう!?」

「この世界で使えんのかよ?」

「大丈夫、共通な物とか多いから。水素、硫黄、アルミとか?もちろん酸素は共通だし」

「……ふーん」


なら多少勉強を教えてもらえそうだ。

科学は嫌いじゃないし、別にそれなら良いか。


「いいよ、それで」

「え、いいの!?」

「気が変わらないうちに頷いておけ」

「やったー!真和優しいぃい!!」


急に元気を取り戻し、その場で意味不明な踊りを繰り広げ出すカムリル。

…………。

まぁ、本音をいえば科学を教えてもらおうとどっちでもいい。

前学校で話してた、彼女の食事事情が可哀想だとまだ思っていただけ。

俺も甘過ぎるとつくづく思わせられる。


「……兎に角、コンビニ行くぞ」

「え?なぜに?まさかお金ないからアルバイト!?」

「コンビニでその日に給料支給って俺は聞いた事ねぇんだけど。まぁ半分は合ってるよ、金下ろしてくる」


飯と漫画買うぐらいしか使わない小遣いは通帳に貯まる一方だった。

こんな事で少し減っても痛くはない。


「……なんかごめんね?無理強いはしないからさっ」

「……はぁ?」


お金を下ろすと聞くと眉根を潜めてショボくれる。

なんで急に俺の事を気にし出すんだか。


「俺の事なんか気にしなくていいよ。お前はそういう奴だろうが」

「…………。なに?私の事をオトしたいんですか?」

「人間に生まれ変わってから言え」

「はい、早く霊長類に返ります……」


言ってから気付いたのだが、今のは『人間だったら付き合ってもいい』と暗に言ってた。

まぁカムリルが気付いてないようなので俺も気にしなくて良いだろう。




続く

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