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/30/本音

「神様、どういうこと!」

「まったく、君は来るたびに態度が変わるね……」


水の上に立ち、いつも通り木々に囲まれた夢の中で、神様はそっと私を見下ろしている。


「なんで真和が、ドロップ病にかかってるの?」

「何を当たり前なことを言っているんだ。君が願いを言う前に感染したからに決まってるじゃないか」

「――ッ。あーそっ」


死んだ身だから、新しい体になっているんじゃないかとか、感染しないだろうという思いもあった。

甘かった。

まさかこの世界にドロップ病を持ち込んでいたなんて……。


「僕は一応、君をずっと見ていた。人と関わらないのは君の病のせいかなとも思っていたが、それとは別だと知った時はなんの因果かと思ったよ。いやはや、中々面白かった」

「クソ神様ね、ほんと」

「自由だからね、真面目にも不真面目にも、どちらにでも転ぶさ」

「チッ!」


今更そんな事を知らされ、地団駄を踏みたいところだが、生憎踏んでも足が濡れるだけ。

歯ぎしりをするに止まった。


「しかし、良かったね。偶然にも感染してるのは湖灘真和だけだ。願いを叶える前に推移以上の好意を持った人間に触らなかったのも運命かな?」

「最悪な運命ね。吐き気がするわ」

「まぁいいじゃないか、彼が死ねば君も心置き無く妖精として働ける。本望なんじゃないのかい?」

「嫌よ!!」

「……ほう?」


必死の想いで叫んだ。

妖精稼業なんて寂しさが募るだけ。

好きな人が死んで、それで心をすり減らす妖精業なんて耐えられない。


「そうは言うが、救う手立てはないよ?」

「ふん。私は薬を持ってきてるのよ?」


前真和に“この世界じゃなんの役にも立たない”と言った薬。

それこそがドロップ病の抗体なのだ。

大丈夫、真和が死ぬことは――。


「何を言っているんだい?」


だが、神様はそれすらも嘲笑うかのように疑問を口にした。


「僕の世界に魔法はない。魔法薬が効くわけないじゃないか」

「なっ!? で、でもドロップ病は感染するし、私は“同調”を使えるじゃない!」

「ああ、それかい? はぁ、一々説明も面倒だ……」


やれやれと言わんばかりに肩を竦め、人差し指を立てて神様が説明する。


「いいかい?感染性心的全身炎症自体はただの菌。魔法は元来関係ないんだ。僕の世界の科学でも、もうちょっと発展すれば治せる。君の世界では魔法を使って偶々抗体ができたに過ぎない。僕の世界に魔法はないが、菌の感染ならできるんだよ。“同調”は僕が与えた力だろう? 前世の力をさらに倍増する……と言ったか、忘れたが、僕は君に“同調”能力を使えるように与えたんだ。使えて当然だろう?」

「……そう、ね」


神様が言う以上、信じざるを得なかった。

ということは、つまり――


――もともと私は、人と接するべきじゃなかった――。


「……なんて、ことをっ……!」


悲しくて立っていられず、手を着こうとして、バシャリと水の中に沈む。

振袖が濡れて重かった。

けれど、なんとか引き上げて、ゆっくりと水面に着く。


「……君が今更悔やんだって仕方がないだろう?」

「だから諦めろっていうの!?嫌だ!真和に死んで欲しくない!一緒にいたいのっ!!」

「……そうかい」

「当然じゃない!だって、私は……私は……」


私は真和の事が好き。

それが心からの本音。

私は世界よりも、彼を取りたいーー!


「……君がいくら(わめ)こうと、どうにもならないし、僕もなにもしない。他の神の勧めだからって、君には干渉しすぎだからね」

「……私に、なんとかできる問題なの?」

「さぁ、それは君次第だよ。なんせ、君にある力は――」


それだけ聞ければ、私には十分だった。

愛する彼が生きていけるなら、それでいい。

大丈夫、自分の罪は自分で償うから――。











「……んぅ、う……?」


目が覚める。

ボヤついた視界に映るのは真和の部屋の天井。

もはや見慣れた彼の家のものだった。



「――ふぅううううううう!」


のんびりしている暇はない。

寝ぼけた頭を回すため、思いっきり息を吐く。

やらなきゃいけないことがある。


私は体を飛び起こした。

ベッドの上で、普通に起き上がれた。

真和は居ない。

一体どこに?


「……よう」

「――あ」


声をかけられると、自然と振り向いた。

椅子に座り、こちらを悠然と眺める真和の姿があるが、その体の半身は赤く腫れ上がっていた。

矢張り見立て通りのドロップ病。

死の病――。


「……真和――!」

「なんだよ、血相変えて……」

「え……だ、だって、ドロップ病に……」

「……ああ、そうだな」


真和は自分の腫れた腕を見て、なんともないように握ったり離したりと繰り返した。


「……死ぬんだな、俺。なんとなくわかるよ」

「ッ――、そんな事――!」

「良いんだよ、カムリル」

「え?」


私の言葉を平然と制する彼。

何が良いものか。

真和が死んで、誰が良いだなんて思うものかとすぐさま反論したかった。

しかし、彼の方が早く口を開く。


「俺が居たから、お前はいつも通りで居られなかった。だから、(しがらみ)になる俺はいらなかったんだ」

「そんな事は――!」

「いや、俺のせいでお前が止まっていたのは事実だ。こればっかりは否定しようがないだろ。それに――」


一瞬間を置いて、彼は口にした。


「好きな奴の邪魔はしたくなかったんだ」


目頭の熱くなる言葉だった。

邪魔だなんて――私は――。


「いつもお前を悩ませていた。なのに、俺はどう言うこともできずにいた。俺のことを助けてくれたお前に、何もできなくて、悪かった」

「違う!やだ、こんなの、私の助けになんかっ……ならないっ……」

「お前には幸せにやってって欲しいんだよ、カムリル」


真和は立ち上がり、半身が醜い体で歩み寄ってくる。

歩くたびに、少量の血が零れ落ちた。


「これまでずっと働いてきた。身を粉にして、いや、一度死んでも頑張ってきた。でも今では柵もない。今からなら、やり直せるんじゃないか?戸籍がなくても、お前ならどうにかすることができると思うぞ?」

「……何を……何を言ってるの?」

「……普通の生活をして、この世界を謳歌して欲しい。楽しい生活を送って欲しい。それだけだ」


私の肩に手を置いた。

わざわざ腫れてない方の手で。


「……“同調”してくれ。俺がどれだけ本気か、わかるからさ」

「……嫌だよ。私は……真和に、死んで欲しくない……」

「俺が生きてたってしょーもないさ。だからさ、これでいいんだ」


薄く笑う彼の腕に、私は涙をこぼした。

何も良くない。

何も――。


「好きなお前に希望を持っていて欲しい。悩まないで欲しい。俺の最後の願いだよ」

「……そんな風に、言わないでっ……よぅ……」


心が、とても痛かった。

かつての希望を与えるべき人に、希望を持っていて欲しいと言われるなんて――。

好きだから、なんて――。


「……短い付き合いだったな、カムリル」

「…………」


最後の会話だと言わんばかりに、彼の腕の力はなくなった。

私の方まで垂れ下がった彼の手を、私は何も言わずに掴んだ。

もう片方の手も、握った。

指と指を絡ませて、織り交ぜて、俗に言う、恋人繋ぎというやつをした。

そして――


「ごめんね」


“同調”を開始した――。




続く

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