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/23/滅失

村の宿で一泊した朝方、私は前の村で採取した病菌で実験をしていた。

床に散らばった書類、色とりどりの溶液の入った試験管、魔法型解析板と魔法型顕微鏡などがそれを証明していた。

滅菌剤の調合には成功した。

しかし、この病気がどういうものなのかはまだわかっていないのだ。

もしかしたら違う性質を持っているのかもしれない、そう考えると解析を怠ることはできないのだ。


「……うーむ。これ以上は私の頭じゃ解析できないかな~」


器具をほっぽって床に寝っころがる。

私は所詮18歳、知識が豊富なジジイババアじゃない。

理解力が異常に早いってだけで、知識はないのだ。

これをもう少し解析できそうなんだけど、そのための知識が私にはなかった。


「はー……一旦図書館に本読み漁りに戻ろうかな……抗体も作ってあるし」


抗体はある。

だから死ぬ事はないはずだし、一度図書館に篭ったっていい。

というかそれが善後策なのは明白だ。

他の村の安否も気になるけど、王都からなら量産も一斉配布もできるしね。


「……よっこらしょ。そろそろ支度しないとなぁ……」


上体を起こし、のそのそと立ち上がる。

その時、宿の扉が盛大に開いた。


「カムリルゥウーー!!」

「あん?」


私の事をあんな大声で呼べるのは今のこの村では奴ぐらいしかいない。


「なに?フィナは此処にとどまるの?」

「聞いて!って、そんな事はないよっ!?」

「ん?あーそっ」


予想が外れたらしい。

てっきり、子供でもできたから村でない~!とか言うかと思ったのに……。


「で、なによ?朝から騒々しぃなぁ……」

「え?あー……実はね、サラムと付き合う事になりましたっ!」

「……おーっ。おめでとっ。なんもあげるものないけどね」


なんとも嬉しくない報告だった。

結局それは村に残るって事だろうに、わかってないのかな?

ちょっとは活躍しろ、21歳。


「落とした言葉は?」

「え?いや、そんなの恥ずかしくて言えないけど……」

「サラムさん、恋の魔法って知ってます?フフ、私は知ってますよ?唇をね、触れ合わせるんです……とか言いそうよね、フィナ」

「そ、そんなこといってないもんっ!」

「なんと、言ったと申すか!」

「ちーがーうーっ!!」


ジタバタと腕を回して反対するフィナ。

ふむ、これはマジで頭の中お花畑ですな。

このご時世でも可愛い娘はいるもんだね。


「……さて、じゃあ私はちょっくら王都行ってくるわ」

「え?戻るの?」

「そ。まずは薬を配給しなきゃならないでしょ?そういうのは魔法使いさんにやってもらった方が早いからね」

「……そっか」


フィナの声が、暗くなる。

あーあー、なにを勘違いし取りますかこの娘は。

私はフィナに近付いて、その頭を叩いてやる。


「フンガァアア!!!」

「痛ぁっ!!?」


思いっきり。

うん、これで少しは鬱憤が晴れたわ。

恋する暇もない私に関係報告しやがって……いや、そんなことは思ってないよ?うん、思ってない。

まぁ、とにかくね、


「私は“一旦”って言ったでしょ?また戻ってくるの。つまりは、アンタはここに残ってなさい」

「え!?で、でも……カムリルも寂しいでしょ?」

「安心しなさい、私は馬車と友達なの。馬車と会話してれば寂しくないわ」

「それ危ない人だよっ!?」

「え?ねぇ床?私って危ないかしら?」

「医療術師さーん!?ここに重傷患者がいるんですけどー!?」

「誰が重傷じゃいっ!」

「痛っ!」


再び怒りの鉄槌……じゃなかった、愛の拳を喰らわす。


「な、なにするのっ!?」

「だまらっしゃいっ!床と友達でもなんでもいいでしょ。アンタはアンタで頑張りなさい」

「え?うぅ……ありがとうね……」

「……別にいいっての」


やっとこっちの気遣いが通じたか。

マジで盲目なのかな?薬作ってあげよーかなー、なんて。


「うぅ、妹に尻に敷かれるなんて……」

「……あん?なんだって?」

「え?な、なんでもないよっ?」

「…………」


フィナ、私のこと妹のように想ってたのね。

へー、ほー、ふーん?


「お姉ちゃん?」

「ひぅ!?」

「ぬはははは!さらばだ!!」

「ちょ、もー!からかわないでよぅ!」


小屋を飛び出すと、後からフィナが投げてきた薬品類を華麗に躱す。

ふひひひ、可愛い奴め。

今度からはお姉ちゃんと呼んでやろう。


「あ、サラムだ」

「ん?カムリル、ちょうど良い所に」


バッタリ遭遇したのは件の色男。


「なに?私に用事?」

「いや、フィナを探してるんだけど見つからなくて……どこ行ったんだか……」

「…………」

「……え?なに?」

「イチャラブしてろっ!!!」

「!?」


ちゃんと居場所は教えてあげました。











気が付くと、カムリルは馬車と共に立ち去っていた。

私にぐらい、一言何か言ってくれればよかったのに。


「フィナ、相談があるんだけど……」

「どうしたの、サラム?」


カムリルが去って、既に3日が経っていた。

4日目の朝、寝室で恋人のサラムに相談を持ちかけられる。


「街に……いや、王都に行かないか?」

「え?どうして?」

「この村だと良い服とか売ってないだろ?俺の稼ぎもそこそこだし、王都ならそれなりの生活もできるんじゃないかと思ってさ……」

「う~ん……そうだねぇ……」


頬に手を当てて考える。

確かに王都に行ければそれで良い事はあるだろうけど、サラムはそれでいいのかな?


「ここはサラムの生まれた村でしょ?寂しくないの?」

「俺の事はいいんだよ。君が幸せになれるならさ……」

「……えへへ」


なんとも幸せな言葉を頂いた。

別に、私だって図書館に篭ってた身だし、今更遊ぼうだなんて気はさらさらない。

ここでも、サラムがいるなら十分幸せに暮らせると思う。


「王都は、いいよ。私もサラムの生まれた村を良く知りたいし」

「ん、そうか……ッ」

「? どうしたの?」

「……いや、なんだか……」

「……?」


彼の視線は、自身の腕に落とされている。

私も視線の先を追うと、当然彼の腕を見る事になるのだがーー腕が赤く腫れていた。


「……あれ?それって……」

「でもカムリルの薬は服用したぞ?」

「……うん……」


薬を服用する所はフィナも見ている。

だから再発するなんて事はあり得ない。

……うん、あり得ない。

だって、私は10日以上薬をもう一度射ってないのに発症してないんだから。

でも……。


「……一応、薬の予備を持ってくるね」

「ああ、頼む……」

「…………」


着物を着直して、薬の予備を預けてある村長さんの所に行く。

先日宴会をした広場の先の、役所のような場所だった。


「村長さん、いますか?」

「あぁ、いるとも……」

「良かった……!?」


村長さんが私の方に微笑んだ。

その顔は、半分腫れていた……。


「……そんな、なんで……」

「薬自体は効いたのじゃ。さっき再発した少年に予備を使わせたら腫瘍は収まったからの。じゃが、3〜4日しか持たないようじゃな……」

「そんな……」


嘘だと思いたかった。

だって、私はまだ、発症してないし……なのに、何故……。


「再発した者はもうかなりの数に登ってな。村で薬を増やせる者は手を尽くしたが、もう予備の薬は1つしかない。この1つを渋って、さっき1人死んだ」

「なっ……」

「発症してから死に至るまで、精々半日じゃろうか……ワシもそろそろかのう……」

「……待ってください。大丈夫です」


カムリルの薬を作る手順は知ってるし、調合方は教えてもらってある。

材料さえあれば、私にだってーー


「あっ」


そこで、気付いた。

肝心の材料は、馬車の中。

完治を予定していたカムリルは材料を態々この村に残していないはず。


「ーー村長さん、今から言う材料を集めるように、村人に呼びかけてくださいっ!!」


悲痛に叫びながら懇願する。

材料探しの村人はすぐに集まった。











「ふっふふっふふー♪」


村を出て10日、いよいよ今日には村に戻る事ができる。

馬車を走らせ、御者台に座りながら鼻歌を歌う。

いやー、表彰だの大臣招集だので時間かかってしまった。

薬の材料も徴収したし、とっとと戻ってフィナを悪どい言葉で唆してやるとしよう。

お姉ちゃんと言った事、まだ覚えているだろうか?

覚えてたらたくさん言ってやるとしよう。


「お、見えて来た見えて来た」


太陽はもう西の方に行き、夕焼け空となる頃に村が見えてくる。

敷居もなく、色々と建物が立ち並ぶのが丸見えだった。

間もなく村について、馬車を前と同じように外側に繋ぎとめる。

そして、ひょこひょこと村の大通りに躍り出た。


「…………」


そこに見えたのは、一番最初に行った村と同じ惨状であった。

赤い死体が無造作に転がり、ただ荒涼とした世界が広がっている。


「……あれ?場所、まちがえたっ、け……?」


自分で言っておきながら、そんな事はないとは知っている。

ここは、フィナとサラムがいる村で間違いがない。

そう、間違いがない……。


「うっ……」


頭で理解すると、唐突に吐き気に襲われる。

何かに酔ったかのように頭が痛い。

今すぐにでも吐きたい、そんな感想。

でも、まずは調べなきゃならない。

お姉ちゃんの、安否をーー。


居場所はわかっていた。

サラムの家というなら、村の案内板を見ればわかる。

私はすぐにサラムの家に押しかけた。

ノックなんてする事はなく、異臭を放つ部屋に侵入する。


「…………」


誰もいない。

あるのは、死体が2つだけだった。

見知った顔の死体が、2つ……。


「……うそっ……なんでっ……っう……」


薄暗い室内、2人抱き合って毛布に包まった死体を見て、私はぺたりと座り込んだ。

とても立ってはいられなかった。

真っ赤な顔をしていても、赤黒い目をしていてもはっきり識別できる。

あぁ、これがフィナなんだってーー。


「……フィナ……」


自然と涙が零れた。

ぼろぼろと溢れる涙を留める事もなく、私は某然としてそこで泣いていた。

夜が来て、朝になって、気を失うまで、ずっとずっと泣いていたーー。




続く

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