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/21/旅立ち

物語はカムリルの過去に入ります。全6話かな、半端かもしれませんが、いつも通り2話ずつ投稿していきます。


誤字脱字・その他指摘よろしくお願いします。


そこは魔法で栄えた御伽の国。

魔法を1つしか使えない私ことカムリルは魔法の代わりに齢13で学の全てを修了し、18歳の今では国の中央図書館に篭りきりだ。

薄暗くて楽しみの無い図書館に篭るのは可哀想だと、大人達はよく言うって食事を運ぶ侍従さんが教えてくれた。

しかし私はまったく気に病んでいない。

学を備え、人の役に立つものを何か一つでも作れれば、それはとっても幸せなこと。

例えば、会話を交わして友達を喜ばしたら嬉しいものでしょう?

なら、良い物を作って、いっぱいの人を笑わせたらどれだけ嬉しいのか。

そんなことを思いながら、私は今日も羽根ペンを手に、寝っ転がりながら本を開いてレポートを書く。

足をブンブンと揺らし、鼻歌の一つでも歌いたいところだった。

しかし、私みたいな国に管理される人が他にもいるから、寝っ転がる程度に済ませているが。


「伝令!!」

「!?」


突然の叫び声に、館内にいる全員が目で音源を辿る。

発声したのは入り口に立つ全身に鎧を付けた、国の一般兵士だった。


「貴様ら、惨めな引きこもり共に告ぐ!近頃、外ではある病が流行っている!」

「ある病?」


兵士の軽口を気にも留めず、誰かが聞き返す。


「そうだ!まだ何の原因もつかめていないが、王都郊外で人間が全身真っ赤に腫れ上がった状態で変死している!村がいくつか壊滅状態との報告もある!貴様らただ飯食らいは今こそ働く時だ!」

「兵士も割とただ飯食らいじゃんね?」

「そー言うこと言わないの」


周りは呑気なことを言っているけど、私は特に生物学が専門分野だったから興味を持った。

全身腫れ上がって変死だなんてとても気になる事態だ。


「貴様らは今日からこの件について研究しろ!金はできる限り援助するとのことだ!ただし、役立たずは図書館から追放する!いいな!」

「はーいっ」

「ま、ぼちぼちやるかー」

「やる気はあるのか貴様らっ!!?」

「あんまりー」

「そこに直れ!その根性をーー」


兵士と他の研究者が戯れている間に、私はドサドサと生物学と歴史書を落として行く。

類似の現象が起こるか否か、過去に似た病があったかを探るためだ。

棚を背もたれに座り、パラパラと速読で本を読み潰して行く。

1冊目、ない。

2冊目、見当たらない。

3冊目、4冊目………11冊目、あった。


「骨髄炎、急速に全身に回り死亡……村壊滅……」


骨髄炎というと、骨の中で炎症を起こして細胞実質を壊死させる病気。

原因は骨の近くに菌の巣があり、それが骨に移る事だが、全身に急速に?

しかも、村壊滅って事は感染性?

どゆことよ?


「……原因の特定はできず、村は封鎖、か。役に立たないなー」


本を放り投げる。

他に探るも循環器病、膠原病など。

その問題なら解決するだろうし、病状が似通ってるだけで関係性はなさそう。

結局、独自で研究するしかないらしい。


「じゃあ、久々に外に出るかー。ちょっと楽しみー」


少し伸びをしてから立ち上がる。

図書館に篭っててあまり動かしてない体だけれど、まぁ馬車とか用意してくれるでしょ。


「カムリル~」

「うん?」


本棚越しに呼ばれ、振り返って棚の本を数冊抜く。

向こうも同じ事をして、棚に空いた穴からお互いの顔を確認する。

青い癖っ毛の髪で21歳になって間もない女の子、フィナだった。

比較的歳が近いこともあり、ここでは1番仲の良い友人だ。


「どーしたの?」

「今回の事、調べに行くの?」


心配そうに眉を潜めて尋ねられる。

フィナはこの薄暗い施設に合う小心者だ。


「もちろん私は調べるよ?人のためにならないならこんなとこ出て行くし」

「……危険じゃない?未知の病原菌に無闇に挑まない方がいいよ」

「危険、か。心配してくれるのは嬉しいけど、私は何もしない人生なんてゴメンだから。悪いけど、私は行くからね」


何もしない人生、ここの住人達の大半はそれだ。

研究研究って言っても本読んだり、ボードゲームをしてたり、そんな人ばかり。

だったらこんなとこにいなくてもいいのに、国が飼育してくれるからってここにいる。

彼らは今回も何もしないだろう。

なら、代役は私が務めればいい。


「で、その口ぶりだとフィナは行かないのね?」

「う……だって死にたくないし……」

「どうせここで生きてたって他の人に自分を知られることはない。知られない人間は生きてないのと相違無い。だって楽しいとか嬉しいとかそんなの知らない人と共有できないし、他人にとっては存在しないのと変わらないから。まぁ私には関係無いけどね。私が生きてたらまた会いましょう?」

「ま、待って!」

「うん?」


まず向かうのは王宮、準備とかはないので早足で行きたいのだが、フィナに呼び止められる。


「どしたの?」

「行く!行くから!ほら、か、カムリルは“同調”しか魔法使えないし!」

「ん、そりゃ私は助かるかな」


慌ただしく手をブンブン振って反論してくるフィナ。

私の弱点を持ち出して仕方なくって感じを出すあたり、フィナは思ったより負けず嫌いなのかもしれない。

いやしかし、論破はしないのね。


「それじゃ、行きましょー!」

「あ、カムリル!待ってよ~!」


自分勝手に図書館の出入り口を開き、その後をフィナが続く。

久しぶりに見た陽光は暖かく、私たちを出迎える。

ここから、旅が始まる。

死へと向かう、赤い旅がーー。










王宮で馬車と金貨を幾つか貰って国東側の郊外へと向かう。

勿論国はそれなりに広いわけで、もう3日は野宿をした。

まぁそんなのはベッドが備え付けられてるのにもかかわらず図書館の床で寝てる私にとってはなんの苦でもない。

さて、東郊外の村ーーとある民族の集落らしかったのだが、一体何が残っているやら。

発生地はもうすぐだ。


「……いきなり根幹を突かなくてもいいんじゃない?」

「ううん。まずは死体と“同調”する。直接触ったりしなければ感染はしないでしょ」

「……まぁそうだけど」


フィナの言葉を否定しながら私は御者を務める。

荷台に引っ込んだフィナはやはりやる気なさげだ。


「危険性が無いとか、言ってられないよ。村が壊滅する感染力。一刻も早く対処すべきなのっ」

「……真面目だなぁ、カムリルは」

「真面目なぐらいがいいの。さ、着くよ」


もう建物がちらほら見えてきた。

やがて距離は縮み、村内部に突入する。


「…………」

「……カムリル、外どう?」

「死体の処理が済んでない」

「……ゴロゴロあるの?」

「うん……」


村の中は、無残だった。

全身が赤く腫れ上がり、皮膚の至る所から血の飛び出した死体が無造作に転がっている。

それもそうだ、こんな村にわざわざ近付いてしたいの処理をしようなんて国も思わない。


「……一旦馬車を止めるね。死体と“同調”してくる」

「じゃあ、私は生きてる人と食料探してくるね」

「うん……」


適当に馬車を止めて木に繋ぎ、私達は足を村に着けた。

改めて荒廃した村を見るが、そこかしこに死体が散らばっている。

家で死んでない、と言うことは感染から死に至るまでが異常に早いのだろうか?

否、考えても始まらない。

私は一歩を踏み出した。


「うわっ、これはひどいね……」

「嫌なら荷台にいていいよ」

「ううん、もうなんでもいいからやるよ……」


それだけ告げて、フィナと別れた。

私は両手にビニールでできた手袋を着け、適当な死体の前に腰を下ろして死体の手を掴む。


「ーー“同調”」


静かに、私が唯一使える魔法を発動する。

ここは魔法が栄えた国、普遍的に誰もが魔法を使えるけど、私はこれしか使えなかった。

しかし、珍しい魔法でもある。

これだけで、私には十分だった。


(……病気は思った通りの骨髄炎かな……。結構菌が似てる物質で出来てる。しかも、これは骨だけじゃない。心臓にも菌が行ってるーー)


“同調”して死体の体を診た結果、全身の腫れの原因は骨髄炎で、しかも心臓が一番菌の量が酷かった。

感染は、心臓からなのだろうか?

心臓から出た血や酸素が全身に回るのから全身に?

仮説としては成り立つだろう。

だけど、心臓全体がやられてるからどこの部位がどう原因なのかはわからないか。

心臓以外の部分から発病してるかもしれないし、他の死体も診てみよう。


「…………こんな小さな子も」


近くに寝ていたのは、1mも身長の無い少年。

民族服だろう白い衣服は血に染まって真っ赤になり、腫れ上がった顔で瞳は開いておらず、苦しそうに口を大きく開けていた。


「……“同調”」


再び、同調をする。

先ほどの大人と変わる所は、あまりなかった。

子供だから動きが活発だったのか、血の吹き出し具合が酷い。

それだけ。

だが、やはり心臓から菌が出ているということは変わりない。


「つまり、菌が心臓に入るということ?」


という事は血液、若しくは空気による感染なのだろう。

血液なら食べ物に菌があったと見れるけど、空気なら私達も次期死ぬだろう。

ふむ……。


「取り敢えず、菌を手に入れて抗菌剤を作るかな」


何をどうしても、抗菌剤は必要だろう。

私は王宮で貰った研究用の道具を取りに、一度荷台へと戻った。




続く


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