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/16/調和・後編

そう、カムリルの言うとおり俺にも責任がある。

見ているだけで何もできないというのは、悪化して行く状況を肯定しているのと変わらない。


〔悪の根幹があったのに誰も対処しなかった。誰かがきっかけを作って根幹をどうにかしなきゃいけなかった。つまり、悪いことをして、悪い人にならなきゃいけなかったんだよ〕

「……真和の言う事、難しくてよくわからないよ」

〔和子はそうかもね。悪いものを作り出した重要人物なのに何も気付いてなかったんだから〕

「えっ!?」

〔明葉の気持ちも知らず、俺を追いかけてた。お前にも配慮があれば、結果は絶対に変わってたんだ〕

「…………」


拳を握り、俯く和子。

和子はいつも無邪気だった。

だから気付かなかったけれど、配慮が足りないという打撃的な言葉をもらって自覚したんだろう。

確かにそうだった、って。


(はい、交代)

(ん?俺?)

(当たり前っ。自分の悪いところは自分でゆーのっ)


なるほど、毒が俺に回ってきた訳か。

自白というものは苦しいものだが、そんなもの飲み干してやろう。


「俺だって悪い。明葉を支援したかった。でも俺は3人の関係を保ちたくて何もしなかった。さっきもカム――俺が言ったが、悪の根幹は根絶やしにすべきだったのに、俺は何もしなかった」

「……真和」

「…………」

「本当に、さ……」


カムリルと繋いだ手を離した。

膝を折り、両手をまっすぐ床につける。

そのまま、ゆっくりと頭を下げた。


「悪かった」


胸の思い全てを込めて、俺は土下座した。


「――ッ!!」

「どうか俺が何もできなかったことを許して欲しい。結果としてライムが死んだ、その罪の一部は、俺にある……」


深く頭を下げる。

俺の声は妙に静かで、周りを沈黙に追い込むには十分だった。

顔を上げる。

2人は驚きと悔しさで、顔を歪めていた。

明葉には俺はどう映っているだろう。

原因を生み出し、嘘まで吐いてる自分に友達の土下座はどう見えているだろう。


「……真和。それは、ズルいよ」

「……何がだ?」

「……そんなこと、されたら……謝るしか、ないじゃないか……」


明葉が、俺と同じように膝をついて手を前に付いた。


「……ごめん、真和……本当に、長い間迷惑をかけた……。僕が……僕のせいで……」

「……今一度問うぞ、明葉。ライムを殺したのは、お前だな?」

「……そう……だよ……だって!そうでもしないとっ――!」


感情を振りかざして明葉が床を叩く。

赤くなった顔からは涙も見えた。

彼にも後ろめたい気持ちは、あったんだろう……。

暴走した感情を表に出させる前に、俺は一言で彼を諭した。


「俺は許す」

「……え?」


キョトンとして、またしても俺に驚きの瞳を向ける。わ


「ライムを殺したのは、償うべき罪だ。でも殺したのは俺たち全員でもあるんだ。俺は許す。そして、一緒に罪を償って行きたい」

「……ダメだ。真和だって苦しんでたのに、僕のせいで更に酷いことしていて……僕は、真和と一緒にはできない」

「うっせ。友達なら気にすんな」

「…………!」


刹那、明葉は泣き崩れた。

床に顔を伏せ、何かを訴えるように泣き叫んだ。

紛れもない反省の証に、俺は破顔した。


「……明葉が殺したんだ」


だが、またここに温度差のある言葉で呟く者がある。

そちらの方を見れば、和子が明葉に冷ややかな視線を送っていた。


「……明葉、そんな人だったんだ」


明葉を軽く見た言葉だった。

俺はすぐに言い返そうとするが、口が回らなかった。


〔それは違うだろ、和子〕


カムリルが俺の肩を掴み、口を“同調”したから。

体の自由は聞かず、命令してもいないのに俺の足は立ち上がる。


「違う?違わないよね?ライムを殺して今まで何食わぬ顔で私と過ごして……」

〔ライムを殺した理由はなんだと思う?〕

「……それは」

〔今までの話を聞いてりゃわかる。どうしてもお前が欲しくてやったんだよ〕


知ったような口でカムリルが喋る。

またもや黙殺されてしまう和子は眉を顰めた。


〔逆の立場だったらどうだ?好きな奴とそのすぐ近くに好きな奴の好きな奴がいるんだ。邪魔でしょうがない。俺ならきっと一日中、どうやってアイツを排除しようかと考えるだろうな〕

「……でも、だからってしていいことと悪いことが」

〔だから、明葉は泣きながら謝ってる〕

「…………」


未だに泣いている明葉を見て何か思うところがあったのか、和子は目を伏せた。

そして間も無く目を開き、しゃがんで明葉の肩を叩く。


「…………?」

「ごめんね……気持ちに気付いてあげられなくて……。明葉が辛かったのは、私のせいでもあるんだよね……?」

「……や、やめて……和、子は……悪く、ないよ……」

「……ありがとう。辛い思いしてくれて」

「…………」


こうして見ると、やっぱり皆普通にいい奴等だ。

思いの矛先がぐちゃぐちゃで変な関係になってしまったけれど、やっぱり俺は、こいつらと仲良くしていたい。


(……終わりかな?)

(さぁ、な……。でも、全員の想いはわかったよ)

(……うん)


肩に触れる手が腕を伝い、手を握ってくる。

俺も柔らかく手を握り返し、微笑んだのであった。











合わせる顔がなくても謝罪はしなくちゃならない。

俺たち3人、と妖精1匹でライムの墓参り兼謝罪をしに行った。


「……殺す時まで、僕に懐いていたんだ。本当に悔やみきれない思い、だよ……」


というのが明葉の言葉。

まぉ仲良しだったからな。

殺されるなど夢にも思わなかっただろう。

だから、また明葉は墓の前で泣いて落ち着く頃には夜になっていた。

俺と2人の間には、まだ3ヶ月の溝がある。

俺もそうだが、握手はおろか、肩に触ることもしてない。

歩く距離にも差がある。

でも、ここから埋めて行こう。

人と人との溝を。


「2人とも。一応訊いておくけど、これからも付き合って行くんだよな?」

「……僕は、和子さえよければ」

「私はあれだけ愛されて離れようとは思わないよ」

「……なら、付き合うのか。よかった……」


月の出た夜、俺たちは静かな道を歩いた。

そういえば前は雨が降りそうな天気であったことを思い出す。

案外晴れるもんだ。

俺たちも、なんだかんだで万事解決だったしな。


「……真和にも、素敵な人見つかるよ、きっと」

「おい明葉、お前の彼女粗大ゴミに出すけどいいよな?」

「よくないよ!?」


軽口を言ってくるあたり、和子はだいぶ俺に打ち解けたようだ。

少し足が離れているが、内心は近いらしい。


「……真和、いい人だっていい人。それってわ、た、し?ぶぎゃっ!?」

「?真和、どうかした?」

「いや、ちょっとローキックの練習をな」

「は、はぁ……」


俺の奇行は明葉に怪しまれたが、なんとかごまかしが効いた。

カムリルめ、そういうのは帰ってからにしろ。


「……そんなわけで、俺は対ゴリラの訓練で忙しい。もう遅いし、先に帰るぞ」

「……うん」

「今日は……いや、今日までごめんね」

「気にすんなよ。じゃあ、またな」

「……うん、またね……」

「また、会おうね……」

「…………」


さっきの考えは取り下げるべきだろう。

溝は思ったよりも深い。

少しでも早く、修復して行くべきだろう。

俺は何かいい方法を思案しながら帰路についた。












帰る頃には21時を回っていた。

家に帰っても、別段変わるところはない。

母さんはボケーっと俺を家に迎え入れ、俺は着替えを、カムリルは風呂に入りに行った。

多分、出て行くかどうか悩んでいるのだろう。

時間を取るために風呂場に逃げ込んだ。

なら、俺はカムリルの決断を待とう。

どちらを選んだにしろ、心受け入れてやろう。

それが俺のできることだから。


「……ただいま戻りました、ご主人様」

「誰がご狩猟(しゅりょう)様だ」

「え?ん?狩りに出るの?なら私という心の中で存分に狩ってくださいっ!」

「魚とか釣れそうだな」

「狩りじゃないねっ!」


ベッドに座って待っているとうるさいのが戻ってくる。

いつの間に持ち出したのか、俺の半袖短パンを身につけている。

(えり)が緩く、ズボンも膝下まで隠れてる。

あまりにもにあってないが、俺の私物なのだから当然か。


「……ほんと、お前のツッコミは和子並みのセンスがあるな」

「ふっふっふ、これが天性というものよ」

「単に頭がポンコツなんだろ」

「ある意味正解だけど、納得いかない!」

「ponkotu. これでいいか?」

「それ、正解!」


発音変えただけだがなにやら正解らしい。

頭のおかしな正解を出すんだから相当なポンコツなんだろう。

可哀想に。


「……なに?その本気で哀れんでますっ、って目は?」

「おう、よくわかったな」

「哀れむなぁああ!!」


今日も今日でよく叫ぶカムリル。

なんだなんだ、別れるかどうかは考えてもいないのか?


「なぁ、カムリル」

「なによ?」

「出て行くのか?」

「…………」


カムリルは頭を抱えた。

テンションの変わりように俺も少し驚いたが、不躾な質問ではあった。

でも、頭を抱えるほどだろうか?


「……どうしたんだ、カムリル?」

「……うん、どうしたんだろ、私……」

「……あん?」


自分でも自分がわかってないのか?

前は“私も、ずっと1人に構ってはいられない”って言ってたのに……。

……いや。

その後の夜、似た問いをしてもカムリルは苦悩していた。

何か、俺から離れたくない理由があるのだろうか?


「……なんだよ?なんとか言わねぇと俺も困るだろうが」

「……うん……その……」

「……もったいぶらなくていいんだよ。お前は俺を助けたんだから、俺もお前を助けたい」

「ッツ……。もう、そういうことを、言うから……」


カムリルは目に涙を浮かべ、震えた声でこう言った。


「……私、出て行きたくない……」




続く

本来、仲直りはこんなに簡単にはいかないでしょう。

ですか、仲直りをしようということ、何度も挑戦しようとすること、その心は大切です。

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