2話 家族/学校で……/マーリン/決着/黒いナース
1
チェリッシュに会ったその日、俺はチェリッシュとこんな話をしていた。
「改めて聞かせて貰うけど君は、何者なんだ?」
その時の俺は、気が動転していたから改めて聞いてみた。
大地的には、山菜は無事だったのでよかったが、重装備をした騎士さんをおいて行くわけにはいかなかったのだ。
仕方がないので、自分の家に連れて行くことにした。
「私は、チェリッシュと言います。騎士軍から逃げてきました」
軍から⁇
マズイ人なのか?
警察呼んだ方いい?
「で……でも‼ 私は、悪い事をしたのではありません‼ 軍のやり方に嫌気をさして逃げただけです」
なるほど。それで、空から? イヤイヤ、納得どころじゃない。
「よく、生きてたな」
「この武装自体が、どんな衝撃にも対応出来るつくりなので……」
なんか、今の科学って進んでるな。西洋騎士の武装ってそんな耐性があったのかぁ。
「じゃあ、お前は軍から追われてるって事か⁇」
と俺は、なんとなく聞いてみる。
「そうです。私は、空挺部隊に所属していた学生騎士の一人だったのです」
軍に学生が? ロボットアニメとかによくある学生だけど、軍人で奴だろうか?
「私は、ある場所の軍事学校とも言えるような所に居たのですが、嫌気をさしてしまって逃げたんです」
俺は「どうして? 退学すればいいじゃないか?」と聞いたが、チェリッシュは答えなかった。
「…………」
答えるのを待つ訳にもいかなかった。なぜかと言うと、親への言い訳やら何やらを早急に考え、対応する必要があったからだ。
「さて、どうしたものか……」
すると、母さんが買い物から戻ってきた。
今日は、いいモノが買えたのだろうかかなり上機嫌だ。
鼻歌を歌ってるあたりで予想つく。
「あっ……母さん? ちょっといい? 大事な話が….…」
と俺は、母さんにチェリッシュの話をした。母さんは、あまり見せない真剣な顔でチェリッシュを見て話を聞いた。
話は、夜にまで及んだ。
そのうち、父さんまで帰ってきて話に混ざってきた。
「大地は、彼女の主になった。なら、彼女をどうしたいんだ?」
父さんが聞いてきた。
両親共に真剣な顔をしていたのは初めて見た気がした。
「主になったとは思ってないけど、できるなら家族として迎えてやりたいとは思う」
すると、チェリッシュは驚いて目をばっちりと開かせる。
「か……家族ですか?」
軍人として、幼少から育てられてきた事で家族と言うものに抵抗があるのか、チェリッシュは「私は貴方のしもべで十分です」と言って、俺の前で膝付く。
「そもそも、目の前にいた男に主になれとか怖くなかったのか?」
怖いという言い回しはおかしかったかもしれないが、俺なら誰かも分からない存在になんて服従できない。
それが普通だと思ったからチェリッシュに聞いた。
「私の勘は鋭い方なので、大丈夫です」
女の勘は、鋭いとは聞いてるけども少しは警戒心は持ってもらいたかったかな?
まぁ、俺が変な事をするわけじゃないんだけど……
「まぁ、主にはならないよ。一緒に暮らす家族だから、主とかは関係ない」
「ダメです! そんなの‼ 私が許せれません‼」
と女騎士は、力強く否定した。
プライドがあるかのように。
「え?」
「私は幼少の頃から、軍事学校の生徒として生きてきました。それが、私の中の最初の記憶。家族と言うものを覚えていないんです! 軍人である以上、家族を忘れるようにと……」
(家族を忘れる? 最近の軍人とは思えない考えだな!)
俺は、力一杯に手で拳を作っていた。
チェリッシュがいた軍に、腹を立ててしまったのだ。
軍人だから死ぬ事に躊躇いを持たない。そういう考えは、間違ってると思ったからだ。
「チェリッシュ。さっきも言ったが、俺はお前の主になれない。けれど、一緒に暮らす家族にはなれる」
「でも……、どうしたらいいのですかぁ」
すると、母さんはチェリッシュを優しく抱きしめていた。
「よしよし……。もう大丈夫だよ」
チェリッシュは、その時なぜか一粒の涙を流した。それに気づいた母さんは、「? どうかしの?」と聞いた。
「あっ……いえ。お母さんって呼べる人がわたしにはいなかったので……。こんな、温かいモノだったんですね。お母さんのぬくもりって……」
母さんは、微笑みながら頭を撫で、さらに抱きしめる。
その様は、チェリッシュの寂しさとか苦しさとか全てをも受け入れようとしているようだった。
「そう….。泣いてもいいんだよ。今日から、私が貴女のお母さんですから」
そういうと、チェリッシュは力強く母さんを抱きしめていた。
泣き声を高らかにあげながら、そして大粒の涙を沢山こぼした。
微笑ましい。そう思えた。
俺は、少しでもチェリッシュがいた軍に縛られた何かを戻してやりたいと思った。そして、少しでもあいつの笑顔を見てみたいと思う俺だった。
こうしてあの騎士ちゃんと生活する事になった。
2
朝。
チェリッシュの学校生活、二日目。
この状況をどう捉えるか、俺には決めかねない。
夢だと思った。
「大地様、起きてください。 気持ちがいい朝ですよ?」
自称、騎士メイドさんによって起こされているわけだが、それ自体が夢を見ているみたいで仕方ないので、起きる事を辞めようとはしなかった。
「なるほど。最終手段ですね」
すると、チェリッシュが俺のベッドに潜りこんでくるではないか!
「ん? 何して……」
すると、騎士メイドは布団の中へ潜り込み、主の足を掴んで俺の足裏をこちょこちょとくすぐってきた。
「それぇ〜〜。起きてください〜」
「ん〜‼ ん〜‼」
起きたくないと擬音とジェスチャーで伝えるような仕草をして誤魔化す。
「そんな事を言っても無駄ですよ‼ 起きてください」
「え? ちょっと待ってくれ?」
と、大地は目をぱっちり開き起き上がる。そして、チェリッシュに問う。
「あっ、やっと起きました!」
「さっきの分かったのか?」
「何を言ってるんですか? 状態でわかりますってば。もう!」
「そうか……かわいいな」
「へ?」
「いや….まぁ、メイド服はかわいいからな!」
と適当にコスチュームが可愛いと言う。どうしても、メイドのあいつが可愛いと迂闊には言えなくなっていた。また、家が被害地になるわけにはならないからだ。
すると、チェリッシュは俺に見せつけるような感じで、狭い部屋の中で「くるくる〜」などと言いながら1回転。
メイド服のスカートが遠心力によって綺麗な感じで浮いた。
『なんか、惜しい感じだな。だが変な意味ではない‼ うん! 絶対そうだ』
などと考えていると、時間は7時半を過ぎていた。
「マズイ!」とベットから飛び出すようにして着替える。
「大地様。ご飯を用意してますので、準備でき次第いらっしゃってください」
とだけ騎士メイドは言って深々とお辞儀をしたあと、出て行った。
下へ降りてみると、そこには出かける準備を済ませた親父が椅子に腰掛けて新聞を読んでいた。そして、キッチンで洗い物をしている母さんが「あら、おはよう」と朝の挨拶をして、「おはよう」と返す。最後に父さんが俺に挨拶した。
すると、チェリッシュが俺のご飯と味噌汁を持ってきた。
まぁ、メニューはと言うと……
ご飯
味噌汁
卵焼き(出汁の効いた形が綺麗な奴)
納豆
和風サラダ
と言う見事な和食だった。
「全部、チーちゃんが作ったのよぉ〜」
と母さんは、チェリッシュを我が娘のように自慢してくる。
「そんな……。私は料理は下手な方で……」
謙遜していた騎士メイドを親父は、「そんな事ない! バカ息子なんかよりも娘の方が人のためになれるぞ!」と息子である俺を貶しながら励ます。
両親して物凄く嬉しそうだ。
単なる親バカ(自分達の娘ではないが……)と言いたくなるような喜びようだった。娘ができると、そんな風になるもんかねぇ?
俺が飯を食おうとすると今度はいつもの爆弾娘、美香子がやってきた。
「おっはよ〜ん‼」
ものすごい勢いで、廊下をドタドタと音を立てながら走ってきた。
「もうちょっと静かに来れないのか?」
俺の両親に朝の挨拶を済ませてから、俺の問いに美香子は答えた。
「静かには、無理かも〜」
反省してねぇな。こいつ……
すると、普通に俺の前に座ってきた美香子が朝飯を半ば強引に頼んできた。
「お腹空いたからご飯!」
「お前はもう家で食ったろ?」
「家のじゃ足らないんだよ‼ ごぉはぁぁん〜〜」
やかましくなってきた。俺としては、朝飯は静かに食べたいのだ。だから、飯食い終わるまで家に来るなと言いたかったが、美香子の家は親が共働きをしていて、そのために居ない時は、大抵俺の家で厄介になってる。 朝飯を食べてから、ここへ来るのは、俺の目覚ましのためだったのだが、最近はチェリッシュの為に来ているのだと言う。
と言っても、チェリッシュの邪魔をしてるようにしか見えないのは俺だけか?
そんな事を考えていると、父さんの「行って来る」という声がした。
時計を見てみると、時間的に危うくなってきていた。
本日、二度目の「マズイ‼」と言う俺の叫びに呼応するように、メイドは一瞬で自分の準備を済ませる。
未だ、美香子はご飯をせがんでいる。仕方ないので、俺は適当に大きめの握り飯を作って与えた。塩で味付けしただけの握り飯を美香子は嬉しそうに頬張る。
「あれ? 準備出来ましたか? 大地様? 美香子さん?」
制服姿のチェリッシュが、不安そうに俺と美香子を見ている。
それもそのはずだ。時間的に8時。急げば間に合うかもしれないが今回はそうもいかないかもしれない。
「行く準備なら出来てるが、問題娘がまだ飯を食ってる!」
と美香子のほっぺをつねる。
「んぐぁ〜!つへるなぁぁぁぁぁぁぁ」
「そんな事をしてないで、もう行かないと大変ですよ?」
俺としては、二日連続遅刻を防ぎたいから早く出かけたいのだが……
美香子が握り飯を食い終わると、俺達3人は急いで靴を履き、「いってきます」と言う掛け声と共に外へ出る。
学校から家までは、歩いて30分、
走って早ければ15分程度の距離にあるわけだが、いつもホームルームの30分前には学校に着いていたいというポリシー的なものがあった。しかし、今ではそんなものよりも着く事を優先的に考えざるえない。
学校に着く時には、ホームルームの5分前と言う何ともギリギリな時間になってしまった。
原因は、あの食いしん坊娘が原因なのだが……
クラスの友人に挨拶を済ませ、自分達の席に座ると同時に、小林先生が入ってくる。
「さぁさぁ。ホームルームがはじまるよぉ」
今日の先生は、ダラダラした感じだ。それもそのはず。なぜなら、今日は火曜日、職員会議の日だからだ。なんでも、集中力をこの職員会議だけに使い果たしてしまうのだそうだ。だから、人一倍グダグダになるのだと小林先生本人はそう言っている。
「今日の私の授業は、お休みってかホームルームの延長として、『チェリッシュちゃんとふれあおー‼ 会』をやりたいと思います!」
とグダグダした態度から一変して溌剌とした態度へ変わる先生。
その発言から皆の喜びの叫びがする。
「それで、何をするんですかぁ〜?」と前の席にいる女子が、左手を挙げて聞いてきた。
「何にする?」
「え? 決めてきたんじゃ?」
「ただ、やろうか?って言ってるだけだから自分達で決めてちょんだい!」
すると女子、男子に分かれての話し合いが始まった。
「遠足行こうぜ!」
クラスの人気者男子が、一言。
すると、ほとんどの女子が賛同した。 気に食わないわないと他の男子らは思っただろう。当然、俺も『お前らの意思はないのか?』と思った。
イベントのメインとなる、チェリッシュ本人は、「弁当作って来なきゃね」と笑顔で答えている。嬉しそうなので良かった。
俺は話し合いにほとんど参加していなかったのだが、いきなり人気者男子の池原がやってきて話しかけて来た。
「柊君。ちょっと放課後に顔貸してくんないかい?」
「はぁ? 別にいいけど?」
「じゃあ頼むよ」
話し合いは、来週の月曜日に学校から15分程度の所にある市立公園でのピクニックとなった。
放課後……
「さて……」
とホームルームを終えると同時に、俺は立ち上がった。
「大地様? ちょっといいですか?」
「ん? どうした? チェリッシュ」
「お母様が朝に言っていたのですが、今日は集まりがあるそうで適当に食べていてくれとのことなので、私が作ろうかと……」
チェリッシュは、自分が飯を作る気でいるようだ。
「いや、今日は俺が作るよ。最近、チェリッシュに作らせてるみたいだし…」
「え….でも、私は……」
自分が俺のメイド兼騎士だからと話そうとしているのがわかったが、それを遮るように俺が語る。
「せっかくだから、君にも俺の料理を食べて貰いたいなぁと思ってるんだよ」
「そうですか……男性って料理出来ないものかと……」
それだと、料理人は全員女性になっちゃうよ……
しっかし、侮ってくれる奴だなぁ。「作れるのですか?大丈夫でしょうか?」と子供を見るような不安な顔をしやがって。
これでも、母さんがいない時には適当に作っているんだ。(一応言っておくが、レトルトやカップ麺以外で……)
と訴えようとしたが、料理自体にはあまり自信はないから黙ってくことにした。
「最悪、美香子に頼むさ」
美香子は大がつくほど料理が出来ないのだが、この際、誤魔化すために言った。なぜなら、それ以外にはコンビニ弁当や出前という案しか出てこなかったからだ。
幸い、美香子は部活と言って先に行ってしまった。
「そうですか。じゃあ……」
とチェリッシュは何かを一生懸命考えている。どうせ、自分にまかせてほしいといった具合だろう。
無理して理由作らなくて良いのに……。
仕方ない。一緒に作ると言う方法に移行するか。ただ単に肉ジャガが食いたかっただけだし……
他に理由があるにはあるけど、それ以上は黙っておくさ。
「よし!じゃあ一緒に作ろう」
「い……いっ一緒にですか? 男性は料理を作れないのではないのですか?」
チェリッシュは真面目な顔で驚きながら、またも聞いてきた。
どんな偏見だよ! などとツッコミたいが、暮らしてきた場所のせいだと勝手に納得して話を進める。
「んなわけないだろ? 料理くらい俺でも出来るさ。それなりに」
「そうですか……」
「それより俺が予定してるメニューは、肉ジャガだよ。少なめに作るからサイドメニューにしよう。メインをチェリッシュに任せるよ」
と言いながら大地は帰る準備を済ませる。
「任されました。肉ジャガに合う美味しいメイン料理を作りますからね」と笑顔になるチェリッシュ。
「じゃあ、少し待っててくれ。用を済ませたらスーパー行こう」
「はい!」
大地は、池原との約束のため池原の元へ行った。
池原は俺に学校の屋上へ来るようにと、ホームルームの後に言ってきた。そのため、屋上へ向かった。
学校の屋上には、家庭菜園と言える程度の小さい畑がある。なんでも、園芸部の一環と校長の趣味らしいが、それはそれで変わっていて楽しめるものだ。
屋上へ出てみると、そこに池原の姿があった。
「すまないね。呼び出したりして」
人気者特有の爽やかな雰囲気で謝りをいれてくる池原。
別に謝られる道理はないので、俺は構わずに本題へ移行するように、「それで、何の用だい?」と問いただした。
「うん。実は……」
深刻そうな顔で、俺に話し出した。
「実はさ。チェリッシュちゃんの好きな物って何かなぁ〜なんて……」
「好きな物?」
「ああ」
「聞いてなかったから、好きな物なんて知らないんだけど? 何かあったか?」
「いや……、まぁ俺は彼女に惚れたみたいなんだよね」とヘラヘラと池原は、笑ってチェリッシュへ愛の告白じみた発言を俺にしてしまったのだ。
本人の前じゃないからまだ良いものの、大地は呆然としていた。それを認めるかどうかは、本人次第なわけだが、はただ一言。
「そんな事は、本人に言えよ」と捨て台詞を吐いて屋上から校舎内に戻って行く。
池原は調子がいいのか、ミュージカルでもしているかのような調子で笑顔だった。
さらに二人で帰ろうとした時、池原は昇降口で、ファンの女性陣に囲まれながら、「やぁ!チェリッシュさん! 僕は、君に好きだと言いたい。 なぜなら、一目惚れしたんだ‼」とチェリッシュの前で右の膝を地面に付け、池原の両手一杯のバラの花束をチェリッシュに渡す。その様子はまるで、姫に求婚する王子の姿のはような図になっていた。(言葉使いを除けばだが……)
ただ、周りの女子の反応が俺には怖かった。彼女らはいとしの池原の心を奪われたのだ、チェリッシュによって。なのに、泣くとか否定するとかの反応が全く見られなかった。終始、笑顔で迎えていた。俺自身、初めて女性の笑顔が逆に怖いと感じた瞬間とも言えるだろう。
一方のチェリッシュはというと……
「すみません。私、貴方の恋人には、なれません。なぜなら、私は大地様の騎士であり、メイドだからです。気持ちは嬉しいですけど……」とゆっくり、丁重に断りを入れていた。最後に深々と一礼して「すみません」とだけ言った。
「さっ。お買い物行きましょ? 大地様」
「あ……ああ。ちょっと先に行っててくれ。すぐ行くから」
その時のチェリッシュは、いつもの笑顔だったが少しぎこちない感じだった。
「はぁ……」
チェリッシュは、買い物へとさっさと走っていってしまった。
一方の池原は、チェリッシュの返事を聞いてからまるで静かな木のように呆然と突っ立っていた。
「僕………………、振られた?」
と一言。すると、周りの女子が慌てたように慰め始めた。
「僕は、そうか振られたか……」
昇降口を埋めてしまうほどの人数の女性に包まれていても池原は、そんな事なぞ気にしていなかった。
「今まで女性に振られた事ないのに……」
すると、昇降口から一人の女子が話しかけてきた。
「あの女の事なんて忘れてしまえばいいのですわ」
「え?君は?」
その女は制服に身を包み、 口調から分かるように、お嬢様を連想させる。そして身長は小さめなのだが、胸はかなりある美少女だった。
「私は、池原様のファンであり、チェリッシュの姉である、万鈴‼ですわぁ!」
「…………えぇ?」
ずっと呆然としながらさっきのやり取りを見ていた俺がつい、声を出してしまった。
「何かしら?」
「いや……、あいつの妹の間違いじゃないか?」
「あら、言ってくれるわね。現に私は、3年で転校生ですわぁ!」
3年生だったのかぁ。ヘェ〜。
さて、お邪魔する訳にはいかなかないし、おいとまさせてもらおう。
「すいません。先輩。俺、予定があるので、失礼、します‼」
と区切りながら、子供のような先輩に断りをいれて立ち去ろうとした。しかし、お子様によって阻まれた。
「ちょっと待ちなさい‼」
「はぁ?」
「チェリッシュに伝えて頂戴。『池原様を振るなんて悪行‼許さないから‼』と……」
そう言って、お子様先輩は池原にべたつきはじめた。負けじて周りの女子らも参加し始めた。
池原はもはや放心状態で、途中からは無言だった。会って間もないとはいえ、好きな人に振られるのはそれなりに堪えるのだろう。
まぁ、女子らが何とかしてくれるだろうと、俺はチェリッシュの元へ急ぐ。
3
チェリッシュに追いついたのは、家の近くにあるスーパーにほど近いところだった。
「お〜い!チェリッシュ〜‼」
「あっ!大地様。遅かったですね。何かあったのですか?」
「ああ。いろいろとな。ところで、お前にお姉さんっているのか?」
「え?はい。居ますよ? よく妹に間違えられるんですよぉ」
笑いながら姉の話をし始めようとしたチェリッシュに、俺は姉の名前を聞いてみることにした。
「名前って、もしかして……万鈴って言うか?」
「え?いいえ?マーリンですよ?」
「あの後、会ったんだ。万鈴って名乗るお前の姉さんにさ」
チェリッシュは、少し考える素振りを見せると「もしかして……」と呟く。
「何かあったか?」
「え? あっいえ、さぁ! お買い物を済ませて、夕食作りましょう」
チェリッシュが、一瞬重たい感じの顔をしていたが、笑顔で店の中へ入って行く。それもそうかもしれない。なぜって恐らく、チェリッシュが空から来た原因にあるのだろう。あいつは、騎士団に嫌気が刺したと言っていたが、元々行くことになっていた学校だ。別に空から逃げる意味がないだろうよ。チェリッシュ本人は、「騎士団に嫌気を刺した」と言っていたが、そうだっだとしたら、普通は学校になんて行かないだろう!妹……じゃなかった、姉も同じ騎士で、同じ日に転校してきたのだとしたら、騎士団に従ってるのと変わらない。ある意味、見張られているだけじゃないか!なぜチェリッシュは空から逃げる必要あるのか。
謎は深まるなぁ……。 まぁいいや……なるようになるさ。
買い物をするため、カゴを持つ。すると、チェリッシュがいろいろとカゴへ入れていく。
醤油、、じゃがいも、人参、しらたき、牛肉。この辺りは、俺が作る予定の肉じゃがの材料。醤油は少なくなって来たので追加という意味も込めて購入。
そして、チェリッシュが作るのはと言うと、肉じゃがに合うメニューということで白菜の和え物とシメジとねぎの味噌汁にしたらしい。
そのため材料は、白菜、きゅうり、ツナ缶、塩昆布、しめじ、ネギを買う。
「今日は、私個人的に大地様の料理を食べてみたいので……」
と嬉しそうな顔をするチェリッシュ。
「こりゃ、男代表として美味しい料理を作らんとなぁ…」と身に力が入る俺。
買い物をしていて少し面倒なことに巻き込まれた。
それは、比較的温和なチェリッシュがある商品に興奮していた。
それが一つの訳だ。
「スタミナ○たれ」と言う東北地方の北部じゃ有名な焼肉のタレをかけた豚肉を食べて喜ぶ女騎士兼メイドはどうやら、「ものすごく美味しい」を身体で表現する癖でもあるのか、踊ると書いて暴れるという行動に移っていた。
「何してるんだ?」
「このタレをかけたら豚肉がより美味しくなったんです!これは味付け方次第で、焼肉以外の使い方がありますね‼」
試し食いさせている叔母さんが苦笑いしてる。
さらに、そこにお嬢様笑いをする小娘がやり取りに参加して来た。
「おーほほっほ……ゲッホ‼げほげほ‼」
さっき会ったばかりの、万鈴が噎せてしまって苦しそうだ。
無茶な笑い方なんてするから……などと思いながら、「よしよし……」と俺は、背中をさすっておく。
しかし、チェリッシュはいも……っと姉のことなぞ、「スタミナ○たれ」のことで頭が一杯で気づいていない。
あの盛大な叫び声(笑い声)に気づかないのは、難聴なのか?と心配したくなる。だが、それほどに美味いたれだったらしい。
そのため、「スタミナ○たれ」をすたれと呼びながら2本購入することになった。本数は比較的に普通で助かった。10本なんて買うはめになれば、俺の金銭が苦しくてたまらんよ。
「チェリッシュ‼」
復活したらしい万鈴が、チェリッシュの元へ行く。
「え? おっ……お姉さん? お姉さんはいつからココにいたんですか?」
今になってあの騎士は、お子様姉さんに気づいたらしい。
結構、目立ってたんだがなぁ……
あの咳き込むほどの笑い声でさ……
「姉さんはどうして、ここへ?」
「どうしてですって? あなたを騎士団へ連れ戻すために決まってるじゃない!」
「連れ戻す……。そうですか……あれが重要なんですね。騎士団には……」
「そうかもしれないわね。他の騎士に任せるよりも、心を許している姉に任せた方が効果があると思ったのでしょうね」
二人だけの会話に俺がつい口を出してしまった。
「あれとはなんだ? なんのことだ?」
「それは……、言えません。いいえ……言いたくありません」
チェリッシュは思い詰めた顔をしていて、今にも泣きだしそうだ。
「仕方ない。少しストップだ。一旦、さっさと買い物を済ませてから、ゆっくり家で話そう。万鈴先輩も来てください」
万鈴は、「分かった」と言わんばかりに首を縦に振る。
チェリッシュはさっきまでの明るい感じを失ったせいか静かだ。一歩間違えば倒れてしまうようだったが、家までは程遠くないので、さっさと会計を済ませて家に帰る。
家に着いたら、姉妹にはテレビを見せておくことにした。
当然かのように、「あんた、料理できんの?」と万鈴にまで言われたが、チェリッシュを彼女に任せ、普段着に着替えた大地は料理をスタートさせた。
「二人は、リビングでテレビでも見ていてくれ。話はその後にしよう」
二人は、広めのソファに腰掛けて少し距離を作ってテレビを見ていた。
その様子は、キッチンからもよく見れるのだが、二人して静かすぎだ。だが、そんなことなんて言えないので大地は黙って料理を作った。
メニューは、大地特製の肉じゃがに、しめじとねぎの味噌汁、白菜の和え物。そして、以前採った山菜の漬物の4品にご飯だ。
肉じゃがには、せっかくなので「スタミナ○たれ」を醤油代わりに使って作ってみた。
少し時間は掛かったが、小一時間で全品完成した。
「よし! 盛り付けて完成……っと」
料理が出来たので、飯だと呼びに行ったがすぐ隣のリビングには、チェリッシュの姿がなかった。
万鈴は、ソファが気持ちいいのか寝ていた。
自分の部屋にでもいるのかと行ってみれば部屋は暗く、誰もいなかった。
もう一度、リビングへ行ってみると今度は万鈴まで居なくなっていた。
すべての部屋へ行ってみるもいなかった。
「あれぇ? 二人はどこ行った?」
外へ行こうかと靴を履いていると、物凄い爆発音がした。
音からして、近くだと分かった。
爆発音は不規則に4回ほど、学校の方からした。
音の方、学校へ向かってみることにした。あたりは暗かったので、途中で同じような音がするのでそれを頼りに走って行く。
「仮に二人が学校にいるとしたら騎士団に戻るとか、戻らないとかで揉めてるに違いない!」
と適当な木の棒を道端で見つけたので手に取り、ブン‼と音をさせながら縦に一振り。
「よし!」と意気込みながら、俺は学校の正門までダッシュしていく。
櫻町高校、校庭。
大地が校庭に着いた時、大剣を持った騎士の学生と、小さな子供のような学生が野球のベースを照らすライトによって照らされている。
野球のベースの周りは、穴が沢山掘られたような跡になっている。
爆発の原因がこれだとすぐに判断した。どういう状況かは、分からないが二人が戦っているのがチェリッシュがボロボロになって万鈴と対になってることも判断出来た。
二人から叫び声が交互にした。何を言っているかは定かではないとはいえ声の主は明らかだった。
チェリッシュと万鈴だ。
「二人共‼ 何してんだ!」
「大地様⁉」
俺の叫びに、チェリッシュが気づく。同時に、万鈴も気づき返事をする。
「あら? あんた……よくココが分かったわねぇ。褒めてあげる」
万鈴の雰囲気が変わっている。悪人にでもなったようだ。
「あれだけのいつの間にか二人ともいなくなって、爆発とかしてるから心配だったんだぞ?」
万鈴は、高らかな声であざ笑った。
「何? いきなり来て、会って間もない人に心配なんて良く出来るわねぇ」
「でも、会った。話した。それでいいじゃねぇか!」
溜息をもらす万鈴。
「私は、あの馬鹿な妹を取り戻しに来たの」
「チェリッシュの追っ手がいも……、いや姉か」
「私は、騎士団には戻りません! 何があっても‼」
チェリッシュは、俺が来るまでに何度か攻撃を受けていたのか制服が汚れている。 傷だらけでないだけ、万鈴も抑えているのか、あるいは実際に弱いのか。
どっちにしろ、この状況を終息させないと!
「騎士団を裏切るなら、殺せと上からの命令よ」
と同時に万鈴が動き出した。
しかし、動いたのはわかったがどこにいるのか分からない。
まるで瞬間移動でもしたかのような早さだ。
「どうしたの? 私は、ここよ?」
気づけば、万鈴は俺ら2人の後ろにいた。
「なっ!」
俺は、驚いてしまい尻もちをついてしまった。
チェリッシュが俺を庇う。
「姉さん。やめてください……」
「私は、今、あなたの姉じゃない。騎士団の魔女。マーリンよ‼」
「マーリン……か……まるで……」
「私は、伝説の魔術師の名を継承する者よ‼」
マーリン。 「アーサー王伝説」において伝説のブリテン王、アーサー王の助言者で、強力な魔術師としてのマーリンである。
そのマーリンを継承しているのが、チェリッシュの姉だったと言うことらしい。
「チェリッシュが、「マーリン」と言うのが姉の名だと聞いていたから、騎士団の関係者か。そもそもなぜ、騎士団がそんな事を?」
「……」
チェリッシュは、何かに躊躇しているようだったのでマーリンが溜息交じりに答えた。
「いいわ。教えたげる。私は、魔術師。そしてこの子は騎士。それだけなら良かった。」
「それだけなら?他にこいつにはあるのか?」
俺は、少しでも会話を伸ばして時間を稼ぎ、この状況をどうにかしょうと考える。
チェリッシュは、そうとうダメージを受けているせいか、何かをするにもキレがない。脱力感すら感じられる。
「そう。他の力……。それはーー」
その時だった。
チェリッシュが「やめろ‼‼」と力強く叫ぶ。刹那、俺とマーリンは静まり返る。地面がビリビリと振動するかのような叫びだった。
「姉ちゃん………… いいえ、マーリン! 」
チェリッシュは、手に持っていた大剣を再度握る。そして、構えマーリンに向かって突っ込む。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
すると、マーリンはまるで、音楽とかで使われる指揮棒のような物を取り出して振り回す。
「お姉ちゃんのお話は、終わって、ないでっしょ!」
「私は、もう騎士団ではないのだから! 関係ないでしょ!」
「フッ!」
すると、いきなり俺とチェリッシュの目の前に岩が現れる。
「うぉあぁ!」と俺は、ギリギリのところで身体をひねって回避した。一方、チェリッシュは岩を飛び越えて姉のマーリンへ斬りかかる。
俺は、見ていることしかできないほどに驚きで身体が霞んでしまっていた。
剣と剣の戦いではなく、剣と魔術の戦いになっている。まるで、ゲームの世界のようだった。
ゲームの世界なら、近接に持ち込まれた魔法使いは弱いと、相場が決まっているものだ。しかし、チェリッシュが大きな剣を頭上から振り回すも、マーリンの指揮棒で一振りすると、別の場所に転移していた。
魔法詠唱とかの
「姉さんの転移魔法をどうにかしなきゃ、攻撃が当たらない!」
すると、マーリンがチェリッシュに聞いてきた。
「ねぇ。あんた……、あのぼけっとしてる男と何の関係? やたらと、私らに突っかかるんだけどさぁ……」
と俺を指差してきた。
「俺は……こいつの、チェリッシュの主だ!」
と俺は、恐いの一線を超えたかのように震えていた身体を叩きながら立ち上がった。
「なに?」
「そう……、騎士団から大地様の騎士として生まれ変わったの!」
すると、マーリンが腹をかかえて笑い出した。
「あーーはははははははぁーはぁははははぁ〜、ひぃゃぁ……」
「なにが可笑しいのですか?」
「だってぇ、主がいたのなら額にその証が出ているはずだもの」
「え?」
「騎士と主の契約は……」
マーリンが語り出した瞬間に俺は走り、チェリッシュの元へ急いだ。
「契約なんてのは、いい‼家族なんだから‼」
「家族? 私はあなたを家族とは……」「違う‼ 契約なんてなくても、一緒に暮らすなら家族も同然だ! お前と出会ったあの日を思い出せ‼」
『まぁ、主にはならないよ。一緒に暮らす家族だから、主とかは関係ない』
チェリッシュの脳裏にこの言葉がよぎったのか、その言葉を呟いた。
「契約とかよりも、家族って方が大事なんだ。マーリンもな」
「はぁ? 私もですって? ああ。チェリッシュの姉だったらおなじようなもんなんだし! だから、今のお前は苦しく感じてるように見えるよ」
「あんたぁ、ばぁかぁ!」
マーリンの顔は、虫ケラを見るような顔になった。
指揮棒を振り回し、また岩が動き出した。
その時、学校の消灯時間になったため野球場のライトが消え、辺りが真っ暗になった。
時刻は、夜の9時になろうとしている。
「ぐあ!」
岩が俺の背中に当たり、地面に張り付く。漬物石のように、岩は俺をギリギリと押し付けてくる。
「ぐぁあぁあぁあ」
「大地様‼ 」
暗闇で、どこに誰かを音や感覚で探すしかない。だが、俺は岩の重さや押し付けられる痛みで、どうにかなりそうだ。
「くっ……どうしたらいい⁉ ぐぁぁ」
「大丈夫ですか? 今、助けます」
近くにいたチェリッシュが岩を退けてくれたのだ。岩はかなり重く、大きいはずなのだが、彼女は軽々しく持ち上げてしまった。
かなり細い身体をしていることがブレザー姿で分かるのだが、それを無視するかのような身体能力だったのだ。騎士というのは、そういうものだろうか?
などと考えているが、今はそういう問題じゃない。
「大地様。私は姉さんと戦い、倒すことを覚悟できました」
女騎士として、魔女である姉と戦う覚悟。すぐにそれが分かった。だが、俺はそれを認めたくはなかった。だから、「ダメだ」と否定し、一言付け加えた。
「戦うなら、救ってやろうぜ!マーリンの苦しみから!」
「……」
仮に、敵の手先だったとしても姉なんだから救ってやりたい。実際、チェリッシュが苦しんでいたのだったら、少なからず同じ思いをしていたかもしれないから……
「そんなの、いい迷惑なだけよ‼」
マーリンは、俺達の会話を聞いていたのか叫んで反論を述べた。
「私は、苦しんでなんていない!それは私の中で覚悟ができていて、あなたを騎士団が欲しているから!」
必死だということが言葉の勢いから分かるが、説得力なんてものはない。
チェリッシュは、暗闇で周りが良く見えていないのだが、大剣を構えている。何かがあると察知した俺はなにも考えず、「くそっ!」と手に大事そうに持っていた木の棒を投げつける。
「いったっ! なにぃ?」
その木の棒は、見事にマーリンへとヒットした。
「その程度で攻撃できたって思ってるわけ?」
マーリンは、一瞬で光る球を作り出して、暗かった辺りが見えるようになった。
「これは……、光る球か?」
その光球は、幾つも生み出されて浮いていることが分かっていく。
どういう原理で浮くのかまでは分からないが、少なくとも奴の新しい魔術だ。
俺の問いにマーリンは、笑いながら答える。
「そうよ。これは、ただのライト用の光球じゃない。こんなこともできるの‼」
指揮棒の振りに呼応するかのように、複数の光球が動き出した。
そして、複数の球のうちの一つがチェリッシュの腹へと勢いよくぶつかっていく。
「かはっ‼」
「チェリッシュ‼」
俺は倒れて気を失ってしまったブレザー姿の騎士を担ぎ逃げようとしたが、光球がそれを阻む。
「どこへ逃げるの?」
「くっ……」
万時急須かもしれないな……
俺では、どうにもならない。
頼みの綱である騎士のチェリッシュはこのザマだ。
降参だ。 そう思った。
「逃げても無駄よ? さぁこのバカな妹をこちらへ頂戴」
とマーリンは、逃げようと踏ん張っている俺に小さな手を差し出す。
その言葉を聞いて、俺は寝顔が可愛らしい騎士を渡したくなくなった。
そして、俺は自分自身がバカなんじゃないかと言える行動に出てしまった。
チェリッシュを地べたへ寝かせると、勢いよく息を吸って一言。
「家族をぉぉぉ、バカと言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
4
マーリンに叫んでいる時、ふと俺は思い出した。
前日の夜の会話をいまの今まで、どうでもいい会話だからと忘れていたのだ。
前日の夜、大地の部屋。
チェリッシュは、自分の部屋でいるのがぎこちないからと、大地の部屋のドアの内側で、体育座りをして貸した本を読んでいた。
「なぁ? お前の家族、兄弟はいないのか?」
俺は何気なく聞いてみた。以前に母親はいないことは聞いていたが、それ以外の家族が気になったからだ。
「私には親はいませんが、姉はいます。私より子供っぽい外見はしていました。ですが、優しいお姉さんだったのは覚えています。今でも、鮮明に……」
彼女は、昔の楽しかった日のことを思い出しているかのように、目を閉じて両手を組んで祈る。
「でも、私達は騎士として働くときには、昔のお姉さんはいなくなっていました。」
「いなくなった?亡くなったのか?」
チェリッシュは、うつむきながら顔を縦に振る。
「いえ、存在だけなら居ますよ。仕事熱心だったのが、姉は性格を豹変させたんです。ある日、姉の様子が気になっていたら、聞いちゃったんです。私……」
「どんな話?」
首を長くして話を聞こうとした。
だが、チェリッシュは耐えられなかったらしく、「やっぱり言わないでも構いませんか?」と言って答えを聞く前に出て行ってしまった。
ちょっとまずいかったなと反省してはいたが、次の日には何も無かったかのように笑顔だった。
そんな過去がある中で、マーリンは、どうして「妹を殺す」なんて言えるんだろうかと俺は疑問になってならなかった。
大地が叫んでいたのを、近くで聞いていたマーリンは耳を塞いでいた。
「つぅ〜〜、あんたぁ‼ うっさい!」
いくつもあった光球が、あの叫びに使い手が驚いてしまったために全て消えてしまった。
「お前は、チェリッシュのいもう……、妹なんだろ?だったら、少なからず、肉親を殺すことに悩んだろ?」
俺は、少しでも彼女の気持ちを理解したいと思った。だから話をして原因をけれども、マーリンは答えようとはしなかった。
「…………」
少し静かな間があってから、口を次に開いたのは、マーリンだった。
「あんた……。私が、苦しんでるように見えるわけ? あんた、おかしいよ」
非常にゆっくりにではあったが、動揺している。その様子に、大地は違和感を強く感じた。
「ああ、おかしいだろうな」
「どうしてか教えてくださるかしら?」
「実の妹を殺すのだと主張してた奴だ。姉は妹を大事にしてたはずの人が、どうしてそうなったのか気になったのさ。チェリッシュが言ってたぜ? 優しいお姉さんだったってさ!」
「んな⁉」
小さな魔女は、かなり驚いた顔をした。
「そんな!恥ずかしい事!言うなぁ!」
光の球を出して大地をめがめて投げつける。 魔術を理解したわけじゃない。けど、現実にこうやって現れてしまった以上!対抗策を探すしかないと、さっきのことを思い出す。
さっき、俺が放り投げた木の棒が偶然当たって術者は、ダメージを受けると術を 止めてしまっていた。
つまり、集中しなければ魔術は使えない。逆にいえば、魔術は集中力と魔力が必要と言っても過言ではないわけだ。
「魔術は怖くないかもか!」
光の球は、暗闇の中のホタルのようで避けるのがわかりやすい。
そして、回避を繰り返しながら俺は少し大きめの小石を求めて野球場を出る。
この際、気を失ったチェリッシュを安全な所へ移すのではなく、ここから離れたところへ魔女を連れて行けばいい。
「あっ!逃げる気か‼」
マーリンも追いかけるように走り出した。光の球を増やしたりしているが、走っているせいか正確に当てることが出来ていない。当てようとするのが限界なのだろう。
「中庭なら。確か……」
と中庭へと走っていく。校舎に囲まれた空間で、小石もそれなりにある。光球で互いに狙いが定め安くなる。それも含め、ココがいいと言えるだろう。
「逃げても無駄よ? このルート。暗くてあんまり分からないけど、確か中庭へのルートよね?」
とマーリンは、バカにするようにあざ笑う。
確かに中庭なんかに向かって走って行けば、自殺行為かもしれないが、最大の目的は武器となる石を求めてのことである。噴水の近くにまで逃げて隠れる。
噴水の周りには小石が沢山ある。
俺からすれば、ある意味で対策が立てれる。なぜかといえば、相手に石を投げれば明かりがあるとはいえ、防ぐのは難しいと思ったからだ。
マーリンが、光球を灯り代わりに使っていることだ。狙いを定めやすくなるはずだからだ。
「中庭って、噴水の前くらいしか隠れるとこないよね」
と指揮棒を振り、光球を突っ込ませると。俺はとっさに小石を投げた。二つがぶつかり合い、まるで花火のように光が飛び散る。
「くっ!」
「ぐぁ!」
二人は、眩しさに声をあげてしまう。しかし、マーリンは眩しながらに光の球を操作して大地の後ろへと移動させていた。
それに気づくのは、背中に直撃を受けた後だった。
「ぐあっ! しまった!」
うつ伏せに倒れ、なぜか立ち上がれない。金縛りになった?
俺はどうにかしようと動こうとしたが、ぴくりとも動けなかった。
「あら、動けないの? 力尽きたのかしら?」
マーリンが、満面の笑顔になって近づいてくる。
「くっ……」
俺は、脳に「動け!動け!」と連呼する。しかし、それでも身体は全く動かなかった。
「さぁ、邪魔した報い。うけておきな」
すると、右手に持っていた指揮棒を左手へ変えて、新たに短剣を持つ。
その短剣を振りかざそうとした途端だった。
「やめてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
聞き覚えのある声が響く。
チェリッシュだ。空から大剣で振り下ろすようにしてマーリンの短剣を弾く。つかさず、次の攻撃へと繋げようと大剣を突き出す。
しかし、魔女は騎士の攻撃を避ける。その戦いを見ているしか出来ない大地は、地面を押しあげて立ち上がろうとするも、うまくいかない。
「チェ…チェリッシュ……くっ……」
『姉妹で戦うのはダメだ』と言いたいのに、光球から受けたダメージのせいでこの重要な続きが声として出ない。
それを知らず、チェリッシュとマーリンは戦う。姉妹だとわかっていても、互いの正しいもののために剣と杖を向ける。
そうした姿が、光球と剣による反射光によって目に焼きつく。
「腕をあげていたの? やるじゃん!」
と妹騎士に指揮棒で指す。その方向へ光球が突っ込む。剣で受け止める。その時、反射した光が偶然、マーリンの元に当たる。
「んな⁉」
目を閉じて腕で光を遮る。
チェリッシュはこの隙を狙い、飛び出す。それと同時に魔女となってしまった姉へと力強く大剣を振り回す。それが、衝撃波となってマーリンへと襲いかかる。
さらに、大剣の刃先ではなく表面で頭に叩きつけた。鈍い音と共に吹き飛ばされる。
「ぎゃああ!」
衝撃と大剣の打撃によってさらによろめき、勢いのまま地面に倒れる。
そして、辺りが静かになるように全ての光球が消えて、真っ暗になった。
ざっざっと大地の方へチェリッシュが向かってくる。
「大丈夫ですか? 大地さま?」
「あ……ああ。チェリッシュは?」
「私は何ともないですから」
俺は、立ち上がろうとしたが、体を起こす動作をすることが出来なかった。背中にかなりの痛みが走った。
「がっ……‼」
また、うつぶせに倒れこむ。
「……背中を痛めたのですか?」
「少し痛むだけだ」
強がっては見せたがどうにも痛みは引かない。今思うに楽な態勢がうつぶせなのだ。
「あの……、背中見せてください」
すると、マーリンが使っていたような光球が現れ、俺を中心とした半径3メートルほどが照らされる。
「私は、姉ほどじゃないですが魔術もそれなりに……」
チェリッシュは話を途中で止めた。
「どうした?」
「…………いえ。なんでもないです。さぁ、背中を」
「あ……、ああ」
服を脱ぐと、彼女の手が俺の背中に触れた。
女性に触れられるのを、変に意識すると恥ずかしいな……。しかも、くすぐったい。
つい顔全体を真っ赤になり狼狽してしまう。
「そ……それはそうと、お、お前……」
「大丈夫です。じっとしてください」
何が大丈夫なのかはどうでもよかった。今、何をするのかが気になった。
今まで気づかなかったが、チェリッシュの横に置かれた大剣には、1センチメートルあるかないかほどの綺麗なエメラルド色をした石が真剣でいうところの鍔に埋め込まれていた。 その石は、光を発しら、彼女の手から身体全体へと包んでいく。
背中が痛んでいたことが忘れてしまう様な温かさがチェリッシュの手から俺の背中へと伝わってくる。気づけば背中の痛みは無くなっていた。そして、そのまま俺は目の前が真っ暗になり、倒れるように寝てしまった。
5
「うぅ…………ん」
マーリンは、ゆっくりとよろめきながら起き上がる。近くには、倒れている大地と、それを助けようと担ぐチェリッシュがいた。
大剣でぶたれたところが、かなり痛むのか、「ぐっ!」と言う声と共に、右手で頭を抑えながらしゃがみ込む。
「ど……、どうしたら魔法相手にそんな戦いが?あなたは、あんなに強かったの?」
チェリッシュの強さは、今までとは違ったと言うのだった。
「姉さん……」
「私は、あんたを殺さなきゃいけないんだ! 絶対に‼」
「姉さん……」
チェリッシュはボソッとマーリンに聞こえるくらいの音量で呟いた。
「私は変わりません。特別なことをしてないです。仮にも、変わったのだとしたらあの人のせいじゃないでしょうか?」
チェリッシュは、そう問う。
マーリンは、少し考えているような間を開けてから声を発する。
「私は…………」
それ以降の言葉は出ていなかった。出すことは、出来ないようなそんな雰囲気だった。
「わた……しは……」
刹那、チェリッシュが姉を抱きしめたのだ。
ただ、力強く……力強く抱擁をする。
「ま……万鈴おねぇちゃん?」
チェリッシュは、「マーリン」としてではなく、「万鈴お姉ちゃん」と呼んだ。彼女は、万鈴へと人格が戻ったことを意味する。それがわかったのはチェリッシュが彼女の目を見ていた。
どういう仕組みかは分からないが、マーリンのときには目が赤いのに対して、万鈴の時には緑がかかった青になるらしい。
チェリッシュには、鋭い観察眼を持っている事を俺こと大地が知ること、になるのは後なのだが、これによりマーリンの暴走は止めることが出来たことになる。
目が覚めた時、俺には白い天井が一面に見えた。頭が痛む。そのせいか、少しばかり混乱している。
「ここ……は?」
ゆっくりと呟いてみる。
隣に大地を見つめている人がいる。正確には人がいるように感じるのだ。顔を左へ動かすと、太陽の光が窓から指して眩しかったが、正体は分かった。
チェリッシュだ。
だが、家にはそんな部屋はない。
だから、病院か?
「だい……じょ……ぶ………か?」
チェリッシュが喋ってるのが分かるが、なぜか上手く聞こえない。
何かを言おうと口を開こうとしたが、口が動かない。仕方ないので、ジェスチャーを駆使しようとしたが、腕も固定されているみたいに動かない。
「大丈夫ですか?」
大地の目がしっかりと開く。それに気づいたチェリッシュが「あっ……起きました?」と座っていた椅子から立ち上がっていた。
「こ……、こ……は?」
目覚めたばかりだから寝ぼけているか、混乱しているようだ。
「病院ですよ」
「そうか……」
とりあえず安心って事を意味するのだろうと、大地は二度寝をしようと目を閉じた。
「いやぁ、医者になるのって大変だから、なんか大変で、大変で」
チェリッシュが、以前のような感じで無いような気がした。そして次の発言にチェリッシュではないと確信をした。
「私は、医療騎士になるのであって医者になりたいわけじゃないし……」
以前、医者の技術は医療騎士になる上でも必要だと言っていたのに、真逆のことを言っていたからだ。そして、明らかに言葉使いやら態度がチェリッシュのおしとやかな感じから一変した。
「お前……、何言って……」
チェリッシュじゃなければ誰かを問いただしたいが、何やら話をしたいらしく、俺の話は聞いてくれていない。
仕方ないので黙って聞いておくことにした。
「医療関係の魔術的な意味を理解するのに、医療の知識が必要なのです。そのためのものです。あくまで……」
「あくまで……?」
「形としては、そう言うことなんです。私は、医療に関わる傍ら、私を追うメンバーの関係者を暴くために必要だったのです。もちろん、医療技術も大事ですが……」
騎士団と言った方が分かり易いのに、なぜか遠回しだったことに俺は気になった。
「お前が探すメンバー?騎士団じゃないのか?」
「騎士団であるのは確かです。でも、騎士団ではない。」
「どういうことだ?」
「騎士団に所属していますが、騎士団として行動してないんです。捉えるのが難しいならば、騎士団にいる騎士じゃない人と言うあたりかと……」
「良くはわからないが、騎士団所属の研究員とかそんな感じか?」
「はい」
じゃあ、もっと早くそう言って欲しかったんだが……
あんな、分かりづらく言われたらちょっと不安だよ。
彼女は、口調から優秀な感じがする割りに言葉を知らないのか?
そんな事を考えていると、ドアを叩くのを、チェリッシュ(?)が「はい」と返事すると、女性の看護師が2人入ってきて、「体温を計りますね」と二人が同時に言う。
病院だと理解はしたが、なぜか白い看護服ではなく、黒かった。変わった病院なのだろうか?
「なんで、黒い看護服なんだ?」
二人に聞いてみたが、無言だった。
代わりにチェリッシュが口を開く。
「彼女らは、私の知り合いなんです。医療魔術の一つなんです」
「え?人間だろ?本物のじゃないのか?」
「だって、黒いナースなんていないじゃないですかぁ」
チェリッシュが、にこやかな笑顔で俺を見るのだが、なんか違和感を感じた。
「まぁ……そうなんだが、そう言うことじゃなくて、ここは病院じゃないのか?」
「ええ、あなたの家と言ったところね。チェリッシュは今、隣の部屋で寝てるわ」
と言いながら、チェリッシュの姿が歪み出す。
そして、歪みの先にマーリンがいた。
「私は、万鈴。マーリンは私のもうひとりの人格でありながら、今回の犯人なの……」
「二重人格なのだから、犯人ってのが、お前だということには変わらない」と俺は言うと、冷静に万鈴は話を始めた。
「でも、今回はもう戦う気はないわ。 私自体疲れちゃったもの」
俺が見た状態からもフラフラなのが分かる。よく立ってれたな。
「けど、あの子を殺さない訳にはいかない。それを分かってもらえたかしら?」
「つまり、その研究員の邪魔だから殺らなきゃいけないと?」
「そうよ。別の手段があるならそうしてたでしょうけど、そんな知識などないわ」
「探せば、いつかは……」
「あなたは馬鹿ね。そんな時間はないの。あの子が行動に出ることは無かったとしても、研究員側が何かして来ないなんて言えないの!」
俺は、何も言えなくなっていた。
「……」
万鈴は、黙り込む俺を見て言った。
「貴方を主としていたようね、チェリッシュは……」
俺は、万鈴が話題を急に変えていたことに驚いた。
彼女の顔は、なぜか少し笑みが染み出ているかのようだった。
「半ば、強制だった気するけどな」
とニコッと笑って見せる。
「そろそろこの部屋が、元に戻るわ。あの子をお願いね。次、マーリンが出たらどうにもできないから……」
万鈴はその一言を言って、部屋を出て行った。
どうも、なっすーです。
やっと次が書けました。
仕事やらなんやらで、忙しく時間がつくれませんでした。
2話にして、急に戦闘ありなんで、正直びっくりしてます。(ぼのぼのを予定してたんだけどなぁ……)
また、時間が空いたら書いて行こうかなって考えてます。
またいつになるか……とにかく待って頂けたら嬉しいです。
では。また。