魔法戦士アルの誕生 #1-6
次の一週間は学術の体験授業のようなものだったが、アルにとっては覚えることだらけで、あっという間に過ぎてしまった。後々、アルがこの頃を振り返ってみて、真っ先に思い浮かぶのは、「まさに地獄であった」ということのみである。
「歴史」・「地理」・「薬学」の三教科は、よくよく考えてみると全て暗記教科である。このあまりにも理不尽な現実を、アルは思いっきり呪ってやった。が、一個人がいくら呪ったところで現実は変わりやしない。結局、寝る間も惜しんで用語をひたすら暗記することに、彼はこの一週間を費やしたのだった。まあ、その甲斐あって十四日目の確認テストでは見事学年二位を取った。
彼は先生に対する態度や普段の言動こそ悪いものの、実のところ、昔から非常に生真面目な性格の持ち主だった。本人はそう決して認めないが、ある人はそう思わなかった。その人とは、アルを学院に入れるのに尽力した、孤児院の恩師ルース。彼はもう白髪交じりの老人だったが、子供思いの神父だった。孤児院最後の日の晩に、ルースは非常にゆっくりと、まるで一つ一つの言葉に魂を吹き込むような言い方で、アルに言った。
「アル。お前のことを、私は一番わかっているつもりだ。もちろんお前よりもだ。そんな私は、こう思う。お前は、実は真面目で、素直で、優しい心の持ち主だとな。幼い頃に両親を亡くしたお前は、ここ、聖ベネディクト孤児院に入った。大抵の子は、親を亡くして絶望し暗く、無口でどんなことにも関心を示さない。だが、お前は違った。毎日欠かさず、ただ強くなるという理由だけで、剣の稽古を受け続けた」
それに対してアルの言った言葉は、随分と壮大だったが、アルは真剣な顔だった。
「別に、オレは褒められたくてやってたわけじゃない。オレは、両親の命を奪った馬鹿貴族共に、必ず復讐してやると決めた。そして、出来ることなら、そんなことが二度と起きないようにこの世界を変えてみたいとすら思っている。その為には、オレはもっと強くならなくてはいけない。だから、オレは、これまでずっと剣術の修行をしたし、どんな小さな悪も許さない心を持とうと努力した」
「ここを出ても、その志を貫けよ。お前は、私の誇りだ」
ルースが心臓発作であの世の人となったのは、アルが孤児院を出た翌日のことだった。
さて、ガントにとっては、アルが苦労して覚えた事柄すべてが、既知の事実だった。入学前までにファドゥーツで数百冊もの本を読んだ彼にとって、授業の内容はどれもこれも今までに読んだ本の内容に等しかった。したがって、彼には十四日目のテストの全問題をたった五分で解き、残り時間をすべて見直しに割くぐらい余裕すらあった。そこまですれば、テストの最大の敵とも遭遇しなかった。わかりやすく簡単に言えば、ガントはかの有名なケアレ・スミス氏と仲良くなることが無かったということだ。そう、ガントは見事満点、学年一位を取ったのだった。
そんな彼がテスト前に、レヴァンとアルに教えることはあっても、自分の勉強を一切しなかったのは、もはや驚くべきことではない。だが、アルとしては、自分の方が努力したのに勝てなかったという悔しさを、一人感じた。
ちなみに、レヴァンは学年上位には位置するものの、アルとガントには遠く及ばない点数であった。彼は、いわゆる上の下というやつだった。