魔法戦士アルの誕生 #1-4
学院長シータとイグリアが、シータの自室でお茶をしていた。
シータはソファに細長くきれいな足を組んで優雅に腰掛け、イグリアはテーブルを挟んで向こうにある、シータとは別のソファに背筋を伸ばして座っていた。
普通なら、向かい合って酒を飲んでいる光景を思い浮かべると思うのだが、シータの酒癖は非常に悪いから、それはありえない光景だ。
部屋は広い。しかし、そこら中に物が散らかっていた。おそらく、二人が座るソファとその間のテーブルの周り以外は足の踏み場が無いといっても、過言ではないだろう。
だが、二人はそんなことは気にしないで、いや、慣れてしまっただけかもしれないが、今日の出来事を語り合っていた。
「……イグリア、そのアルって子は、どんな子なの?」
「ええーと、単に生意気な子だと思っていたんですけど、何か秘密がありそうなんです」
イグリアにははっきりとわからないが、一つだけ不思議な点があった。
「彼が髪で隠している右目が、怪しいと思うんです」
片目だけ隠す。それには、明らかに何らかの意図があるに違いない。イグリアはそう踏んでいた。
「隠していない左目は、黒曜石をはめ込んだかのように黒いんですけど、右目は一体何色なのでしょう?」
シータが急に真剣な顔になった。
「私にも、それはわかりかねるわ。だから、早急に、目の色を確かめてちょうだい。これは最優先事項よ」
シータは、「目の色と髪の色は、その人の血統や出身地方を明示する」ということを知っていた。このことを知っている人はほとんどいないのだが、その持つ意味は大きい。ただ、血筋が良い人の目の色や髪の色が、金や青などの派手な色であるのに対して、平民の多くは、茶色だったり黒色であったりすることが多いぐらいは、さすがに常識だった。
イグリアは「はい、わかりました」と頷き、それから突然思い出したかのように、
「シータさん、入学式で言ってた言葉の意味がわからないんですけど……」
「イグリアは、そんなこともわかんないの?」
呆れ果てたシータだったが、それでも何故か笑っていた。
やっと、長い九月一日が終わりそうだった。