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ガルシア大陸戦記  作者: シグレイン
双剣士ガントの誕生
30/107

狂戦士レヴァンの誕生 #3-0

 死ね。

 そう言われて死ぬ人間が一体何人いるだろうか。私は少なくとも死ぬつもりは無いが、私以外の大多数もそうであろう。それこそ死ぬ人間なんてたった何人……いや、たった何人しかいないからこそ、戦争という化け物は、人間を傷つけたり殺したり悲しませたりする事を平気で可能にし、さらに正当化する。そして、悲しみは化け物の「母」となり、化け物という「子」は延々と継がれていく。

 これでは、明日の世界も一万年後の世界も結局のところ何も変わらない。一部の野心家たちのくだらない野心によって戦争が起こり、多くの尊い命が奪われ、深い悲しみだけが残されるだけだ。

 緑の大地を深紅の血で染め上げるとともに人々の心に悲愴をもたらすこれの、一体どこに意味があるのだろうか。

 さらに追及するならば、聖戦は「聖なる」と形容しつつも実際は戦争の一部で、やはり化け物である。

 化け物を化け物が(くら)ったところで、果たして何が残るのだろうか……。


 剣はペンより強し。

 大陸二大国の一角、ジュパールの合い言葉と例えたところで、これは何の差し支えもない言葉である。

 実はジュパールは大国といっても、周辺の小国を一気に統一して瞬く間に大国にのし上がった、新参者でしか無かったりする。とはいえもう十五年もたっているので、そう思っている者はそう多くは無いだろう。

 ジュパールが位置する大陸の北東部は、極寒の為――それでもさらに北の雪原地帯よりは、まだまだ暖かい方だ――に農業が出来ず、また厳しい山脈が他の地域とジュパールを分断する為に商業もそこまで発展しておらず、そんなジュパールに住む人々は貧しい生活を送っていたのだ。

 が、そんな時に革命が起こった。革命派は、他国を侵略する事で現状を打開する事を試みたのだ。もともと満足な生活を送っているのはごく一部の権力者だったから、革命は多数の民衆の支持を集め、国を一つにまとめた。革命後、ジュパールは国力を強くすることに重点を置き、何年もの歳月を経て強大な力を手に入れた。そして、その周辺諸国を瞬く間に統一してしまった。

 普通はこんな簡単にいかないものなのだが、こうも簡単に侵略を進められたのにはもう一つ理由がある。

 ――寝返ったら、相当の地位を以て迎える。逆にこのまま対立するなら、戦争に勝った時は奴隷として扱わせてもらう。

 このように、ジュパールは周辺の弱小な諸国の優秀な人材を脅していた。その結果、能力はあるが低身分で恵まれない他国の人間は、その脅しに屈して寝返っていった。もちろん寝返ることのない他国の忠臣もいたわけだが、彼らは本当に奴隷として肉体労働させられていた。

 他国を侵略する際、なるべく血を流さずに統一すれば、その後の統治が楽になる。しかもその国に精通している人間を仲間にすることで、さらに支配が楽になる。

 寝返った人間は忠心がないと思われがちだが、寝返った身では立場が危うい為、むしろ自分の地位をいち早く確立しようと主君に尽くしてくれる。

 その戦略の立案者にして革命の指導者であり、かつ現ジュパール帝国王の名を、ダグラス・ジュパールという。

 大陸の一国の主にしては若い三十歳の君主であるが、人の上に立つのに相応しい能力を持ち人望は厚い。それに加えて、穏やかで優しさに満ち溢れながらも、王者の風格ないし威厳があった。

 そんなダグラスの正義は、ジュパールの国民を世界で最も幸せにすることだった。その為に他国の侵略は(いと)わない。これが彼のやり方(スタイル)だ。

 それが正しいか否かは、私のみぞ知る……。


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