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ガルシア大陸戦記  作者: シグレイン
双剣士ガントの誕生
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双剣士ガントの誕生 #2-4

 アルが復帰したのはイグリアと同じ、十一月の第三週だった。

 授業を一週間も欠席してしまった分、その遅れを取り戻さなくてはいけない。早速、授業が終わったらイグリアに訊こうと思ったのだが、シータの言葉を思い出してしまった。結局、ガントに「先生から召喚くらったから、一緒に来てくれ」と言ってついてきてもらい、現在学院長室前に立っている。

 なのだが、

「ガント、学院長室ってどうやって入るんだ?」

 アルはそう口にしたが、それもそのはず、学院長室のドアには持つべき部分が無いのだ。これでは開けようが無い。

 質問に対して、平然としたガントは言葉では無く行動で答えた。

炎よ(エリフ)!」

 炎の呪文を扉に向けて放ち、破壊したのだ。

 ドン! という破壊音がして、二人の目の前に学院長室の本当の扉が出現した。

 一方、アルは横で心底驚いていた。破壊してドアを開けることと、ガントがそれを知っていたことに。

「なぜオマエはドアの開け方を知ってるんだ?」

「その質問には、私が答えるから、ガントは答えなくて結構よ」

 部屋の外から質問したのに、中のシータがそう答えた。きっと聴覚も人一倍優れているのだろう。それよりも、今の言い方は……。

 部屋に入った途端、散らかり放題な惨状を目の当たりにしたアルは、梅干しを口にした時のように顔をしかめる。アリッサの証言で想像していたよりも、はるかにひどかったのだ。

「そこに座ってちょうだい」

 シータが席に着くように勧めると、アルは「んじゃ有り難く。座る場所がここしか無くて、どうしようかと思っていたところだ」と、ガントは「では、お言葉に甘えて」と言って、ソファに座った。

 そして、シータが話し出した。

「さて、先の質問に答えるわ。ガントが扉を開けられた理由ね。それは、ガントがエルフの血を引いてるから、知っていたのよ」

 アルは、蛙が蛇を食べている瞬間を見てしまったかのように驚きに目を瞬かせ、

「そうなのか? オマエの耳は俗に言う、エルフ耳じゃないのに」

「いかにも、私の耳はロバの耳でなければエルフの耳でない、ヒトの耳さ。だが、私の髪はどうあろうか。みんなは染色したと思っているだろうが、これは地毛だ」

「金髪と言うのは、エルフの血を引いてるのを表すのか?」

「少し違う。輝きを放つ色の髪を持つことが重要なんだ。シータ先生もそうじゃないか」

「なるほど。で、その扉はエルフ式だということか」

「その通り」

 二人の会話の、キリが良いところに来たと見るや、シータは質問した。

「さて、問題。どうしてあなたたちは呼ばれたと思う?」

「さて、皆目見当がつきません」

「オレもいまいちわからん」

 まずガントが答え、アルがそれに賛成した。シータはため息をついて、

「二人とも、アルが神術使いであることを知ってるわね」

「はい」

「そりゃそうさ。自分のことだし」

 ガントとアルは、ほぼ同時に答えた。

「神術を使うアルは、はっきり言って魔術は使えないわ。どうしてかしら?」

「魔術は精霊を介し自然界の法則に間接干渉すること。それに対し、神術は自分自身がその法則に直接干渉するもの。この二つは対立するから、基本的には両方は扱えない。そういうことですか?」

「そう。その通りよ。ということは、魔術を使えないことが神術を使えることを間接的に証明してしまうのよ」

「そんな深読みする人なんていないだろ」

「可能性がゼロでない限り、危険は常にある。少なくとも、今のアルの実力じゃ、悪い奴らと戦ったらどうなるかわからないし」

「つまり、用件はオレの特訓ということか?」

「そう! そうなの。これが最優先事項なの」

「それで、私も呼ばれたということですか」

「ガントもさすが、話が早いわね」

 その時、壁にかかっている時計を見やったアルが、ぼそぼそと細い声で、

「先生、オレ、イグリア先生に魔術のことについて質問したいんだけど……」

「そうね。今日はとりあえず、二人に事情を説明出来たし、これくらいでいいわ」

「じゃあ、オレはここらへんで……」

 アルが部屋を出ようと立つと、ガントもつられるようにして、

「では、私も失礼します」

 と言ったが、シータに次のように言われてしまい、慌てて座りなおす。

「ちょっと待った。ガントはここで待っててちょうだい。話したいことがあるの」

「じゃあ、ガント。また後でな」

 アルはそう言って、イグリアに欠席の分の授業の内容を訊きに行った。よくよく考えると、授業をしていたのはシータなのだが……。

 二人きりになったところで、銀髪のエルフが独り言のように、

「エルフの祖は分からない」

「ええ、確かに。たくさんの血統がありますから」

「同様にヒトの祖も分からない」

「ええ、確かに。たくさんの血統がありますから」

「そして、この二種は明確な区分線を引くことが出来ない」

「ええ、耳の形も、髪の色も、寿命も、すべて血統的特徴と考えれば、そうなりますね。さっきはアルを納得させる為に、ああいう表現でしたが」

「それに、元の区分があったとしてもハーフが多すぎるわ。といっても、今となっては、クォーターのひ孫とかの時代だから、雑種――私はこの言い方が嫌いだけど――ばっかりなんだけど。でもね、髪の色が金や銀の色をしているものはヒトにしろエルフにしろ、もうほとんどの血統が失われて無いわ」

「つまり、金髪の私と銀髪の先生には、何か関係があるとでも?」

「そう。ガントは冬季休暇に帰省するよね?」

「どうして、先生がご存じで?」

「申請書類に目を通したら、ある程度は覚えているわ」

「その時、アルも一緒に連れて行ってあげなさい」

「!?」

「あなたの実家、ローエンハルト家とは、もうずいぶんと長い付き合いだけれど、その書庫の蔵書は素晴らしかったわ。私が教科書編纂の時に必要とした知識は、ほとんどそこにあったからね。ぜひ、アルにも見てほしい。神術についても数冊あるはずだし」

「仰る通り、蔵書の中に三冊ほど神術について書かれた本がありました。どれも古い言葉で書かれていて、読むのが大変でしたのを記憶しています」

「だから、神術について知識があったのね」

「はい」

「それと、エリオットから、私が昔ローエンハルト家に行ったときに置いていった剣を、もらってきてくんないかしら?」

「はい。お安いご用です」

「じゃあ。言いたかったのはそれだけだから。今日のあなたの勉強時間を奪って悪かったわね」

「別に大丈夫ですよ。誰にも負けません」

「頼もしいわね」

「別に宣言するのは、誰にも与えられている権利ですから、大したことありません」

 そう言って、ガントは退室した。

「さて、二人は何点取ってくれるかな」

 そして、シータは続けざまにこう言った。

「ルカ、お入り。一緒にお掃除をしよう」

「いいえ、一人でします。じゃないと、仕事が無くなってしまいますから」

「だが、私が汚くしたんだ。私がきれいにするべきだろう?」

「先生はゆっくりしててください」

「そうか。じゃあ、私は読書でもしてるよ」

 シータは足を組みながら座って、テーブルの上にあった分厚い本を読み始めた。

 その本の名を、魔術大全と言う。


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