魔法戦士アルの誕生 #1-1
アイリア学術院――通称〝学院〟――、ガルシア大陸の南西の海に位置する島国である「エリン皇国」の国立学術院である。実はエリン皇国は「皇国」という名称ながらも、それはかつての名残であって、現在は国王が支配する実質「王国」である。それはさておき、毎年世界中から生徒が入学・留学する学院は、「ガルシア大帝国立ガルシア学術院」と「ファドゥーツ騎士養成院」、「アスヴァーヌ国立学術院」と並んで、大陸四大教育機関と称される名門校である。
そんな学院には、その広大な土地全体に、古の強大な力の魔法がかかっている。かつての大戦ないし聖戦の為にかけられたらしく、非常に強力な結界が魔獣を一匹も寄せつけない。
そのせいで、学院はエリン王国の主要地であるとされ、戦争では必ず巻き込まれてきた。現在では、大陸の最も端の国「ファドゥーツ王国」と同盟関係にある為、その戦争も起こりそうにないが。
今日は九月一日。残暑はまだまだ厳しいが、紅くなった葉が徐々に見られるようになった。
そして、塔のように聳える荘厳な校舎の大講堂にて、今年度の入学式典が、やはり例年通り行われていた。
学院長が、新入生と留学生に魔法で声を大きくして言葉をかける。
「諸君。よく来てくれた。私がここの学院長の、シータ・クロイェルだ」
講堂で慣れない制服を着て緊張しながら立っている新入生たちは、エルフで背の高いシータの、長く美しい銀髪と彫刻のように整った顔に一瞬で目を奪われてしまった。シータは続けてこんなことを言う。
「私が諸君に言いたいことは、たった一つ。だから、よく聞いて理解してほしい」
どんな言葉がかけられるのか。胸を弾ませドキドキする新入生に、シータはこう言い切る。
「ここにいる諸君は、厳しい試験を突破した。だから、みんな優秀だ。それは否定しない。しかし、自惚れてはならない。下を見てはならない。上を見よ。上には上が、存在ることを肝に銘じよ」
途端に新入生たちの目の色が変わった。講堂内がガヤガヤと騒がしくなったが、シータはそれをなんとも思わないようで、
「以上」
それだけ言うと、シータは颯爽とその場から姿を消してしまった。残ったのは、その場に置いてかれた人々のざわめきだけだった。