双剣士ガントの誕生 #2-1
一時間目。魔術科講義室にてのことである。
教科書とノートを持って授業に臨んだものの、生徒は困惑した表情であった。みな、こう言いたいのだ。
「学院長って、魔術を教えられるんですか?」
そして、さらに疑問がわくことを彼女はやってくれた。なんと驚くことに、シータは何も持たずに現れ、講義を開始したのだ。
「教科書三十五ページ、『魔術の歴史』の項目について、開け」
教科書を持っていない人間――ヒトもエルフも人間に属すから、この表現は正しい――に教科書のページを指定されたところで、ついに我慢出来なくなったレヴァンが、シータに尋ねた。
「先生は教科書を持たなくて良いんですか?」
魔術の授業とは関係ない質問に、イグリア代理は表情一つ崩さず答える。相変わらず回りくどい言い方だ。
「私は学院長だ。だから、諸君の中には私の魔術科教師としての技量を疑っている者もいるだろう。しかし、前学院長にして学院創始者のヴォーデン尊師に頼まれて、この学院の教科書はすべて私が作ったのだ。ゆえに、教科書の内容は完全に覚えているし、授業なんぞ余裕なのだよ」
そうだったのか、とクラス中が口を大きく開けた。いや、一人は欠伸で口を大きく開けていた。ちなみに、その「一人」とは、漆黒の髪で片目を隠すという珍しくて不思議な髪形をしている少年だ。ガントによれば、ここ最近あまり良く寝られないらしい。
それはさておき、学院長は才色兼備なのかと目を見張るレヴァンなのであった。
――これもどうでも良い。
それもさておき、今度はガントが質問した。このクラスはガントとレヴァンの二人しか質問をしないという気がするのは、私の気のせいだろうか。
「先生、先生は教科書を編纂なさる知識はおありでも、魔術の腕はいかがなのでしょうか?」
「少なくとも、パーカース著の魔法大全に書いてある魔法は全てできる」
即答だった。おそらくシータは、予めそのような質問を予測ないし予知していたのだろう。ほとんどの生徒が「それって何?」のような表情だったが、ガントはその返答に満足して、しきりに頷いていた。
時計を確認して、授業時間をだいぶ消費してしまった分をどう帳尻合わせるか考えながら、銀髪のエルフ教師は、
「さてと、そろそろ授業に入ろうか」
と授業を開始した。
「先程ちょうど良いところで、『パーカース』の名が出たので、まずそこから説明しよう。パーカースは、魔法体系を完成させた最も偉大な魔術師だ。エルフだった彼は……」
教科書三十五ページはどこへ行った?
しかしながら、ともあれ、こうして、十一月は始まった。
十二月二十五日からの冬休みを安全に迎える為に、生徒たちは勉強に躍起になるのだった。




