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ガルシア大陸戦記  作者: シグレイン
魔法戦士アルの決戦
105/107

魔法戦士アルの決戦 #7-4

 さきほどから自分をストーキングしていた男の正体をアリッサは知っていた。

 男は中肉中背で、茶色い髪に青い目を持ち、不機嫌そうな顔をしていた。アリッサに気づかれていたのが、気にくわなかったと思われる。

「アーガス・ジュパール? なぜジュパール王弟のあんたがここにいるのかしら?」

 セリフは威圧的でも、声色は動揺と恐れとを隠せず、お化け屋敷で視てはならぬモノを視てしまった子供のように震えていた。

「なぜ? それは単純明快。兄はお前が裏切るのを予見していたからだ。もっとも、お前に気づかれるとは思ってなかったが」

 アーガスの低く玲瓏な声を聞くと、満月の夜に狼の遠吠えを耳にしたような不安が襲ってくる。だが、アリッサは先ほどの動揺から立ち直り、相手が罠に引っかかったと言わんばかりの妖艶な笑みを湛えている。

「あたし耳が良いから、気配を絶っても足音が聞こえてくるのよ。さすがにあの足音なしには、あんたの気配には気づけなかったわ」

 それを聞いたアーガスは、フンと鼻を鳴らして、

「エルフ耳め」

 エルフの耳はヒトよりも細長く集音性に長けているのを、貶したのだ。

「誉め言葉として頂くことにするわ」

 アリッサはアーガスの挑発とも取れる言葉に余裕綽々と返した。アーガスはもともと不機嫌そうな顔をさらに不機嫌にした。

「そうか、勝手にそう思っておくが良い。さて──こんなふざけた会話はそろそろ止めにして──そろそろ本題に入ろうじゃないか」

「ええ、どうぞ」

「では、一つ質問しよう。お前はどうして俺がここにいると思う?」

「差し詰め、もともと今回の学院襲撃作戦のメンバーに隠れて入っていて、裏切りそうなあたしを見張っていたんでしょうね」

「ご名答。俺と兄貴以外にバレず、この半年二重スパイをしていたことは、誉めてやってもいい」

 ダグラス・ジュパールの弟という割に、アーガスは兄とはずいぶん対照的である。冷淡で無愛想、見るからに打ち解けにくい、いや、話しかけにくい雰囲気を纏っている。

「で、これからどうすんの? 念のために言っておくと、あたしはあんたに好き勝手されるつもりはないわよ」

「それは結構。お前はどう足掻こうと、俺に殺される運命にある。……あまり好き勝手にされると、さすがに内部の情報が世界常識になってしまうからな」

「そう、じゃあ、思う存分抵抗させていただくわ。……あんた、人質にとったら便利そうだし」

 両者、抜剣、五メートルほど間をあけて相対する。どちらの剣も魔法のオーラが漂っている。剣自体に魔力を付与することで殺傷能力や耐久性を向上させた魔法剣である証拠だ。

 二人にとって魔法剣を相手が持っているというのは、もはや想定内と言ってよく、眉を一ミリも動かさない。

 緊張感に包まれた屋上に、風が吹き抜ける。遮蔽物となるような高層建築物が近くにないため、風はゴーゴーといったような音を時たま出すほど強い。

 邪魔者も観客も当然いない中、二人の戦闘が始まった。

 アーガスが間合いを詰める。その速さ、パーシヴァルが本気を出したときよりも速い。

 アリッサはそれを目で捉えようとせず、本能に任せて身体を右に傾ける。

 刹那、アーガスの剣の残像がアリッサのいた場所を通過するのが、アリッサの目に入ってくる。

 続くアーガスの攻撃を紙一重で避けながら、アリッサも反撃を試みる。

 剣を右上から左下へ一閃、返す刃で左上から右下へ、鮮やかなバツ印の残像を残し、魔剣は舞う。

 それらをアーガスはすべて受け止め、守勢に転じる。

「あら、口ほど腕は立たないみたいね」

「……」

 体中から汗を滴らさせたアーガスは、何一つ言わず、というよりは、何一つ言えず、アリッサの連続攻撃を魔剣で受け止める。

(これは何か策があるのかもしれない)  アリッサは違和感を感じ、一度間合いを取ろうとする。

 その時、アーガスの不機嫌な顔にわずかな笑みが生まれた。


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