恋愛依存症のサガシモノ
『…ハナ、ごめんね。30分たったら起こして。』
元々細い目を必死に見開いてヨースケが言う。
AM2:46 間接照明の薄暗い部屋のソファーで伸びをしながら。
不眠症で夜型人間の私は、ヨースケの目を真似て細めて言った。
『嫌。寝なよ。明日も仕事じゃん。可哀想で起こせないもん。』
なんて、聞き訳のイイ振りをしてみる。
本当は、まだたくさん話したいし、イチャつきたい。
『いや…起こしていいから。せっかくハナといるのにもったいない。』
うん、そう。その言葉が聞きたかったの。
ニコッと営業的な笑顔で
『はいはい、おやすみね。』と、足元にあったブランケットを、ヨースケの閉じそうな目を塞ぐように掛けた。
暇だなぁ…。
TVの電源を入れて、付けたまんまのチャンネルを見入る。しかし、情報は全て、右から左へ流れていく。
ぐぉーッ…
ぐぉーッ…
ぐががッ
イビキスゴイな。
体育座りをして、体はTVの方を向けたまま、ヨースケを観察し始めた。
髭濃いなぁ…。
あ、ギャランドゥ…。
お腹出てるなぁ…。
体をボリボリ掻いている。
腕を見たら小さなカサブタがちらほら。
こんな顔だったっけ?
さっきまで、『好き』ってちょっと思ってきた…かもしれなかったんだけど…。
好き?
好きだったの?
自分でもわかんないけど。
ヨースケは彼氏じゃない。
CLUB仲間。
結構前から知ってたけど、話したコトあったような…なかったような。
友達の友達で、本当に最近ふとしたコトで携帯番交換した。
用事があって私から電話した。
『いいよ。俺からかけるよ。』
なんて、気の利いた奴で。
それから8時間も話し続けた。
8時間だよ?8時間!
初めて話すに近いから知らないヨースケばっかで。
もちろん知らない私ばっかだったんだろうね。
昔の恋愛とか、仕事の話し…。
実のない話しばかりたくさんした。
今までなんで話ししなかったんだろうって、顔見知りだけの時間を埋めるように話し続けた…。
…と、私は思ったんだけど。
こんなに長電話出来る人って早々いないッ!
なぁんて、ちょい運命的なモノを感じちゃってさ。
そういえば、元々彼とも付き合う前に一日中電話して『運命かも』なんて言ってた私。
女の子って『運命』好きだよなぁ。
理由こじつけて『運命なの』って連呼してる。
私もその一人。
好きってゆぅか『この人しかいないかもッ』って
雰囲気で突き進むタイプかな。
常に恋愛してたいの。
ヨースケは優しい。
仕事も頑張ってる。
男にしてはメールもマメだし。
でも、ぶっちゃけカッコヨクナイ。
髪の毛もどっか県の知事みたいに薄い…
私の好きなタイプは顔の濃いイギリス人みたぃな美形。
…全く違う。
全く以上に表せる言葉があるなら、そっちを使うべきってくらい。
でも、でもね、私、この間仕事でヘコんでズル休みしたの。
そのときヨースケが叱ってくれたの。
でもね、でもね、その叱り方が新鮮だった。
『いいんじゃない。ダメなときもあるよ。でも、ずっとじゃダメ。ズルして気がすんだでしょ。明日は行きなよ。朝電話してあげるから。』
お父さんみたい。
大きな心でさ。
包んで欲しいかも…って思っちゃった。
でもブサイク。
あ、30経った。
そっとヨースケの頬を突っ突いてみた。
ビクっとして眉間にシワが依った。
そんなヨースケを見て、私の眉間にもシワが依った。
いいや、寝かせておこう。
なんか違うかも。
きっと、好きじゃないもん。
ヨースケに背を向けて、私も寝転んだ。
私の髪がヨースケの鼻先をくすぐり、むず痒がっている。
鼻を啜りながら、慣れた手つきで、私の首の後ろに腕を入れて来た。
そして、後ろから包むように抱きしめられた。
ヨースケの顎が私の耳に当たる。
『…ハナ、いい匂いする…』
『耳がジョリジョリするよッ』
そう言いながら、ヨースケの方を向いて
生えかけた髭の頬にキスをした。
あぁ…
本当に…
『運命』って怖い。(苦笑い)