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第二話 告白現場と火傷③


     *


「いやコワーっ!」

 くわっと目を見開いて、俺はリビングの真っ白い天井を見つめる。

 直後、視界の端っこで、テレビを観ていた三個下の弟が「わっ」と叫んで目をまん丸くした。「兄ちゃん、うるせー」って抗議の声が飛んできたけど、俺は今それどころじゃない。

「確かに俺、けっこうデリカシーなかったかもしんねえよ? でも『ドン!』は怖いじゃん! 全然トキメかねえ壁ドンじゃん!」

「うるせー、テレビ聞こえねえー」

「そんでさ、『……俺はそういうの、全部いらねえ』ってなに? 厨二すぎん? 俺らもう高一ですけど?」

「誰の真似? ってか急に一人で喋り出すのマジで怖い」

「無駄に顔がいいから違和感ないのちょっとムカつくし……だいたい告白に関しては、フツーに考えて『いらねえ』とか言ってる場合じゃないかんな? 返せよ! 仲さんの勇気を!」

「いやだから、マジで誰……母さーん、兄ちゃんがやべえよー」

「あーもう。思い出したらすげーイライラしてきた。あいつはなんでいつもあんなにトゲトゲしてんだ? 客の前では大げさなくらい愛想よくて丁寧なのに……痛っ!」

 ごんっと頭に衝撃が走って、俺は慌てて辺りを見回した。その流れで背後をぐいっと見上げると、左手にお玉を持った母さんが右手をグーにしたまま、こちらを見下ろしている。

「昴、ぶつぶつ喋るなら自分の部屋に行きなさいっ! さっさと勉強も終わらせてきなさい!」

「ひゃっ、ひゃい……!」

 ピシャリと叱られて、俺は弾かれたように立ち上がった。うちの母さんは、怒ると鬼のように怖いのだ。

 すごすごとリビングを立ち去る俺に向かって、弟がほっとした顔で手を振ってくる――思いっきり変顔をしてやったら、ひゃひゃひゃ、と腹を抱えて笑っていた。

 中一ってまだまだ子どもだよな。子どもの俺が言うことでもないだろうけど。

 つらつらと考えながら、玄関の廊下に置きっぱなしだったショルダーバッグをついでに回収して肩にかけ、俺は二階の自室へ向かうべく階段を上る。

 面倒くさくて電気をつけなかったから、トントントン、とリズミカルな足音が暗闇に響く。階段を上り切った後は、手探りのまま自室の扉を開け、照明をつけた。

 白っぽい光に浮かび上がるのは、休みの日ごと小まめに掃除や整頓に勤しんでいる八畳の洋室だ。

 勉強机の上や壁際のラックには今まで買い集めた小物が所狭しと並び、壁にはタペストリーやポスター、風景の写真が綺麗なカレンダーなどを飾っている。

 この部屋に入ると、心の中がふわっと軽く、明るくなるような感じがする。俺の趣味は雑貨の収集だ。小さい頃から綺麗な石やお菓子のオマケなどの細々とした物を集めるのが好きで、成長するにつれて、その対象は自然と、部屋に飾って楽しみやすい雑貨類に変化していった。

 子どもっぽい物よりは大人っぽい物の方が好きだ。近未来チックなデザインよりは、アンティーク寄りの方がいい感じ。

 高一男子の部屋にしては、かなりオシャレで整っている方だと思う。

 だからきっと、あのチューリップの絵も……。

 あっと思い出して、俺は下唇を軽く噛む。そうだ、あの絵は、もう手に入らないんだった。

 俺の口から、長い長いため息がもれる。「まあ金がないんじゃ仕方ないな」という五十嵐の声が頭をよぎって、俺はショルダーバッグを勉強机の上に置きながら「そりゃそうだけどさ」と独りごちる。

 五十嵐の言っていることは正しい――いくら同級生の頼みだろうと、店の決まりは決まりだし。佐々木はクラス内でもかなり発言権のある陽キャだから、そいつが狙っている女子からの告白は、ああやって誤魔化してなかったことにするのが一番なのかもしれない。

 今日の火傷だって、口調や態度はともかく、五十嵐はきちんと俺の処置をして気遣ってくれた。この前の、レジの時だってそうだ。シェリーで働いている時は特に、行動だけ見れば、五十嵐はめちゃくちゃ頼りになる。

 なんていうんだろう……読めない、っていうか。掴めないっていうか。

 一匹狼でいたい感じなのか、それとも周りと上手くやりたいと思っているのか、それすらもわからない。

 俺にとって、五十嵐は謎だ。だったら下手に踏み込まないで、放っておけばよかったんだけど。

 俺はなんでも口に出しちゃうタイプだから、ついあんなことを言ってしまった。そういうのが誰かを傷つけたり、怒らせたりすることがあるのも、一応わかってはいるつもりだ。

 五十嵐、怒ってたな。っていうか、もしかして。

「傷つけたかな」と考えて、胸がチクリと痛む。

 壁ドンして凄んできた後、俺から目を逸らした時、五十嵐は明らかに動揺していた。あいつのあんな顔は初めて見た。

 誰かを傷つけたままにするのは、俺は嫌いだ。

 ……明日、学校で会ったら、一回腹割って話そうって言ってみよう。

 そう決めたら、胸に渦巻いていたモヤモヤがすーっと晴れていく感じがした。とにかく明日だ。明日頑張ろう。

 心の中でそう唱えながら、俺は数学の教科書とノートを机上に広げる。

 悩み事にいったんの区切りがついたことで、久しぶりに課題もけっこう捗った……のだけど。

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