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第九話 好きって言って③


     *


 その後はお好み焼きも買って、俺たちは飲食スペースになっている体育館に向かった。約束通り焼きそばもお好み焼きも半分ずつ食べてお腹を満たしてから、満を持して校舎内の探索に乗り出す。

 各教室は射的や輪投げ、ヨーヨー掬いなど縁日らしい屋台の仕様にアレンジされていて、俺たちと同じ高校生や家族連れで賑わっていた。

「思ったよりあちー。ちょっと水飲んでいい?」

 何で遊びたいか相談しながら教室棟の一階を回り、二階へ続く階段を上り切ったところで、フーディーの襟元をパタパタやりながら五十嵐が言った。

 俺がうなずくと、五十嵐はそのまま壁際に避けて、持参していたらしいスポーツドリンクをごくごくと飲み始めた。

 その、少し汗がにじんだ首筋を、俺は思わずまじまじと見つめてしまう。

「なに?」

「えっ? あ、ごめん。なんでもない」

「……」

 訝しむようなジト目が、こちらを見る。

 その視線はやがて、俺の左手に下りてきた。ペットボトルをしまい終えた五十嵐は、「それ」とおもむろに口を開いて首を傾げる。

「その袋、なに入ってんの? ずっと気になってた」

 五十嵐に指摘されて、俺は手に持っていた紙袋を咄嗟に後ろに隠した。

「これは、その。えっと……あ!」

「ん?」

 俺は苦し紛れに、視線の先にあった教室を指さした。入口には店員役と思しき学生が立っていて、手に持っている看板には【ビンゴ大会 次は14:00〜!!】と大きな文字が書かれている。

「なあ、あれ面白そうじゃね? 俺やりたい! 今俺、ビンゴめーっっっちゃやりたいっ」

 いいよな? と五十嵐の顔を覗き込んでから、今度は俺が五十嵐の手首を掴んだ。十四時まであと十分だ。

「すみませーん、二人いいですかーっ?」

 大きな声で叫びながら近づくと、店員役の生徒も「いいですよー!」と元気に返してくれた。五十嵐は少し戸惑ったような表情をしつつも、紙袋についてはそれ以上突っ込むことなく、俺の後をついてきてくれる。

 二人でそれぞれビンゴシートを受け取り、教室の中へ。黒板には景品の目録が貼られていて、五十嵐の意識も自然と、そちらに吸い込まれていったようだ。

「へー。特賞はビッグおやつパックだと。ありゃデカすぎて、当たっても持ち帰るの大変そうだな」

 教卓の上には手動で回すガラガラが置かれていて、その左右には、特賞から五等までの景品がずらりと並べてあった。一番左にある特賞は、両手にひと抱えもあるような大きさの袋に詰め込まれた、ありったけのお菓子たちだ。

「あー確かに。お菓子は欲しいけどな」

 あれを今もらってしまったら、縁日を回るどころの話ではなくなってしまうだろう。白い不透明の袋は、口を縛って担いだら、季節外れのサンタクロースにでもなってしまいそうな見た目をしている。

「まあでも、特賞だし。こういうのは、どうせ当たんないから大丈夫」

 それより俺、三等のボトルシップセット欲しいわ。

 そう付け加えると、「へえ」と相づちを打った五十嵐は意外そうに片眉を上げた。

「見かけによらず、オシャレな物好きなんだな」

「おい、なんか失礼だぞ。俺の部屋、正直めちゃくちゃセンスいいからな?」

「ふーん? じゃあ今度、連れてけよ」

「えっ」

 突然の提案に、俺は言葉を詰まらせた。でもすぐに「やっぱり嘘じゃん」と責めるように言われて、「嘘じゃねーし!」と反射的に反論する。

「綺麗だし! 俺の部屋! 色々飾ってるし! バイトしてんのも、欲しい雑貨たくさん買うためだし!」

「あ、そ? じゃあ今度、お前んち行くの決定な」

「〜〜〜〜!!!」

 ふふん、と微笑まれて、俺は動揺する。いやそもそも、部屋がどうのって話じゃないんだけど? お前と個室に二人っきりって状況が、主に俺の心臓によくないって話なんだけど?

 なんて、言えるわけもないので口をパクパクさせていると、ビンゴ開始のアナウンスが聞こえてきた。さっきの店員役の生徒が教卓の後ろにやってきて、聞き取りやすい声でルール説明をしてくれる。

「へー。特賞はそもそも、この真ん中縦の列で一番に揃わないともらえないんだ」

 じゃあ早々当たんないよなあ、とつぶやくと、五十嵐も「そうだな」と同意してくれた。俺とおんなじ、「安心安心」って感じの声色だ。

 さーて、狙いは三等のボトルシップ。

 よしっと気合いを入れながら、ビンゴカードの真ん中の一マスに穴を開ける。

 そのタイミングでちょうど、「じゃあ始めます!」という掛け声と共に、ビンゴゲーム開始のハンドベルが高らかに鳴った。

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