第九話 好きって言って②
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ひよりんの高校は、待ち合わせたのとは反対側の出口から、十五分くらい歩いた場所にある。県外からの移住者向けの住宅街が近くて、高校に向かうまでの広い歩道には、縁日に向かう親子連れもたくさん歩いていた。
正門の左右には立派な赤い提灯が飾られ、頭上にはアーチ状の看板も出ていた。敷地内からは賑やかなお囃子も聞こえてきて、有志のわりには本格的な気がする。
「なんか、思ったより豪華じゃね?」
「私立だからな。アピールも兼ねてるんだろ」
五十嵐が顎で示した方を見ると、門を入ってすぐのところで、先生らしき雰囲気の大人がビラを配っていた。通りすがる際、俺たちも渡されてしまったので見てみると、説明会の日程や進路実績、校風の特徴などが記載されている。
「さっすが五十嵐……ってかそういえば、五十嵐はここじゃなくてウチなんだな」
五十嵐の家は明らかな金持ちだし、五十嵐自身成績は悪くないはずだ。
駅を挟むから家からは少し遠いだろうけど、自転車を使えば全然、通える距離だと思う。
「親からは勧められたけど普通に拒否った。俺勉強好きじゃねえし」
「ふうん。そういえば、医者にはならねえの?」
「絶対にごめんだな。だいたい俺は、もうやりたいことは決まってんだ」
「え、なになに? 五十嵐のやりたいことって」
俺が尋ねると、五十嵐はすごく嫌そうに顔をしかめながらも、小さな声で教えてくれる。
「じいちゃんの店継ぐ。だから机に向かってやる勉強より、経営とか料理のことをもっと知りたい」
そう言い切った五十嵐の横顔は、普段の何倍も大人っぽく見えた。まだ一年生なのに、もうそんなに具体的に将来のことを考えてるんだ。
「……んだよ、あんま見んな」
カッコいい、と思ってついじーっと五十嵐の顔を見つめていると、頬を赤くした五十嵐が噛みつくような口調で言ってきた。
「ほらあっち。焼きそばあるぞ」
そう言ってすいっと目を逸らしつつ、ちょっと汗ばんだ指先が、俺の右手をぐいっと掴む。
「!」
えっ、と驚いたけど、五十嵐が長い足でどんどん先に行ってしまうから、ツッコミを入れる隙が全然なかった。俺はそのまま、若干引きずられるようにしながら、ロータリー脇に並ぶ飲食系の屋台群に向かって歩いた。
短い列にたどり着いてからも、五十嵐は俺の手を握ったままだった。すました長身の、耳の裏だけが少し赤い。それを見た俺の心臓の鼓動は、じわじわと追い詰められるみたいに速くなる。
これもしかして、五十嵐にも聞こえるんじゃねーの……?
掴まれたままの手を見下ろしながら思ったところで、その熱がぱっと消えた。俺たちの番がきて、五十嵐が財布を取り出すために俺の手を離したからだ。
あ、残念だなって、反射的に思う。
まだ触れていたかった。もっと、ずっと、当たり前に、俺は五十嵐と手をつなぎたい。
「一パック五◯◯円になりますー」
自由になってしまった右手のやり場に迷っている間にも、頭上ではお会計が進んでいる。ってかヤバい、お金。
「ごめん五十嵐。お好み焼きは俺が出すわ」
「ん。よろしく」
小銭と引き換えにパックを受け取った五十嵐が、ちらっとこちらを振り返って、息を抜くように小さく笑う。
逆光の中でも、優しい目をしているのがはっきりわかった。




