表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/29

第九話 好きって言って②


     *


 ひよりんの高校は、待ち合わせたのとは反対側の出口から、十五分くらい歩いた場所にある。県外からの移住者向けの住宅街が近くて、高校に向かうまでの広い歩道には、縁日に向かう親子連れもたくさん歩いていた。

 正門の左右には立派な赤い提灯が飾られ、頭上にはアーチ状の看板も出ていた。敷地内からは賑やかなお囃子も聞こえてきて、有志のわりには本格的な気がする。

「なんか、思ったより豪華じゃね?」

「私立だからな。アピールも兼ねてるんだろ」

 五十嵐が顎で示した方を見ると、門を入ってすぐのところで、先生らしき雰囲気の大人がビラを配っていた。通りすがる際、俺たちも渡されてしまったので見てみると、説明会の日程や進路実績、校風の特徴などが記載されている。

「さっすが五十嵐……ってかそういえば、五十嵐はここじゃなくてウチなんだな」

 五十嵐の家は明らかな金持ちだし、五十嵐自身成績は悪くないはずだ。

 駅を挟むから家からは少し遠いだろうけど、自転車を使えば全然、通える距離だと思う。

「親からは勧められたけど普通に拒否った。俺勉強好きじゃねえし」

「ふうん。そういえば、医者にはならねえの?」

「絶対にごめんだな。だいたい俺は、もうやりたいことは決まってんだ」

「え、なになに? 五十嵐のやりたいことって」

 俺が尋ねると、五十嵐はすごく嫌そうに顔をしかめながらも、小さな声で教えてくれる。

「じいちゃんの店継ぐ。だから机に向かってやる勉強より、経営とか料理のことをもっと知りたい」

 そう言い切った五十嵐の横顔は、普段の何倍も大人っぽく見えた。まだ一年生なのに、もうそんなに具体的に将来のことを考えてるんだ。

「……んだよ、あんま見んな」

 カッコいい、と思ってついじーっと五十嵐の顔を見つめていると、頬を赤くした五十嵐が噛みつくような口調で言ってきた。

「ほらあっち。焼きそばあるぞ」

 そう言ってすいっと目を逸らしつつ、ちょっと汗ばんだ指先が、俺の右手をぐいっと掴む。

「!」

 えっ、と驚いたけど、五十嵐が長い足でどんどん先に行ってしまうから、ツッコミを入れる隙が全然なかった。俺はそのまま、若干引きずられるようにしながら、ロータリー脇に並ぶ飲食系の屋台群に向かって歩いた。

 短い列にたどり着いてからも、五十嵐は俺の手を握ったままだった。すました長身の、耳の裏だけが少し赤い。それを見た俺の心臓の鼓動は、じわじわと追い詰められるみたいに速くなる。

 これもしかして、五十嵐にも聞こえるんじゃねーの……?

 掴まれたままの手を見下ろしながら思ったところで、その熱がぱっと消えた。俺たちの番がきて、五十嵐が財布を取り出すために俺の手を離したからだ。

 あ、残念だなって、反射的に思う。

 まだ触れていたかった。もっと、ずっと、当たり前に、俺は五十嵐と手をつなぎたい。

「一パック五◯◯円になりますー」

 自由になってしまった右手のやり場に迷っている間にも、頭上ではお会計が進んでいる。ってかヤバい、お金。

「ごめん五十嵐。お好み焼きは俺が出すわ」

「ん。よろしく」

 小銭と引き換えにパックを受け取った五十嵐が、ちらっとこちらを振り返って、息を抜くように小さく笑う。

 逆光の中でも、優しい目をしているのがはっきりわかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ