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第九話 好きって言って①

 八月五日、駅で待ち合わせた五十嵐は、黒い半袖のフーディにシンプルなチノパンを合わせていた。

 いつもは下ろしている前髪はワックスで上げていて、ワイルドさが増している。いいね。

「柴本お疲れ。ってかどうした?」

 自分の白Tシャツが五十嵐と並んでも変じゃないか、急に気になって確認していると、不審そうな顔で尋ねられた。「大丈夫」って答えながら上を向いた瞬間、バチっと視線がかち合う――やっぱり五十嵐、背高い。輪郭シュッとしてて、首筋も綺麗。

「なんか、赤くなってね?」

 熱? って首を傾げながら、五十嵐が俺に向かって、白い手のひらを伸ばしてくる。

「なっ、ない! 熱はない! ちょっと暑いだけっ」

 咄嗟にそう叫んで、気づけば俺は、自分の手で額をガードしていた。

「あっ、ひよりんの高校、反対側から出た方が近いんだって。五十嵐は飯食った? 俺まだだから、ついたらソッコー焼きそば探してもいい?」

 目を見開いて少し驚いた様子の五十嵐に、誤魔化すような早口で続ける。

 いつもと違う場所に、いつもと違う服。いつもと違うイベント。思ったよりドキドキしてしまって、またもや俺、自分でもわかるくらいに挙動不審だ。

 絶対怪しまれてるよな……と思いながら、恐る恐る五十嵐を見上げる。

 五十嵐はしばらく、目を細めてじいっと俺を見返してきた。でも結局はニヤッと口角を上げて、ずいぶんと楽しそうに笑った。

「おっけ。俺も食ってねーから、お好み焼きと一緒に買って半分ずつにしよ」

 セリフと一緒に、大きな手のひらがぽんっと一瞬、俺の頭に乗せられる――うわ、だからこれ、やばいんだって!

 今度こそ真っ赤になって立ち尽くす俺を置いて、五十嵐は駅の連絡通路をスタスタと歩き始めてしまった。

 飛び出しそうなくらい脈打つ心臓を必死になだめながら、俺は慌ててその後を追う。

 俺がもし今日熱中症になったら、それは多分、太陽じゃなくて五十嵐のせいだ。

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