第一話 アルバイト先の意地悪男子①
「とにかくさ、ほんっっっとうに意地悪なんだよ!」
コーラのストローを噛みながら身を乗り出すと、ひよりんはびくっと肩を跳ねさせてのけ反った。
そのまま数回まばたきをした後、「昴、落ち着けよ」と呆れ顔で言って、天然パーマの横髪を指先で避けながら自分のハンバーガーにかぶりつく。
「中身だけ聞けば、言ってることはまともそうだけど?」
「でも言い方ってもんがあるだろ? あんな冷たい感じで言わなくたっていいじゃん。ただでさえ俺、初めてのバイトなのに」
「でもそれは、店側には関係ないからなー」
「そりゃそうだけど。クラスメイトなのに」
「それもべつに、仕事には関係ないし」
「そうだけどお」
ひよりんのつれない態度に、俺はしおしおと顔色を曇らせる。
「まったく、ひよりんは誰の味方なんだか」
「そりゃもちろん、昴だよ」
ポテトを口いっぱいに頬張りながらむくれてみせる俺に、ひよりんはずばりと言い放つ。
「昴がそいつ……五十嵐、だっけ? そのクラスメイトに勝ってオムライスを食うためには、とりあえずはそいつの言うこと聞いて、テキパキ仕事できるようになるしかないじゃん?」
「それは、まあ」
「だろ?」
「ソウデスネ」
ぐうの音も出ず、俺はひよりんから目を逸らして、自分のハンバーガーに思い切りかぶりついた。
そんなヤケクソ気味な俺の言動を、テーブルに片肘を突いたひよりんが面白そうな顔で眺めてくる。
「ひよりん」こと西崎日和は、俺の中学時代からの親友だ。今年の四月から近くの私立高校に通っていて、頭がよくて根はいいやつ。だけどまあ、見てもらえればわかる通り、ちょっと行儀が悪くて表向きは全然優しくない。
俺たちが今食事をしているのは、駅前の小さなファーストフード店のテラス席だ。とっくの昔に桜は散って、歩道に植えられた街路樹には、艶々の若葉が光っている。
五月の半ばは、いつもだったらなんとなく胸がワクワクするような季節だけど――今年は全然、楽しくない。
俺・柴本昴は、椅子のすぐ脇のガラス張りの窓から店内に視線をやった。日曜の正午過ぎ、人に溢れた店の中では、レジの前にずらっと待機列が出来ている。
対応しているのは、まだぎこちない感じの動きをする女子だ。多分、俺と同じ高校一年生、人生初のアルバイトなんだろう。
「いらっしゃいませ」って言うだけなのに妙に緊張して噛んじゃったり、メモしたはずのページがわからなくて結局先輩に泣きついたり。
さっき自分のハンバーガーを注文する時も、俺はそんな店員さんを見ながら、心の中で「わかる、わかるよ……!」って百億回くらいうなずいていた。俺も今年の四月から、高校入学を機にアルバイトを始めたばかりだから。
そしてそのアルバイトが、俺の目下の悩みの種なのだ。
「昴、手止まってるよ。早く食べないと、今日もシフト入ってるんでしょ」
ひよりんに言われて、俺ははっと我に返る。「やべっ」とつぶやいて残りのバーガーを頬張るけど、午後のシフトのことを考えただけで、胃の中に石を詰め込まれたみたいに体全体が重くなる。




