プロローグ
……「絵になる」って、多分こういうことをいうんだろうな。
俺はオムライスの乗った皿を手に持ったまま、思わずその場で立ち止まってしまった。
大きな採光窓の外のテラス席で、カフェエプロンをつけた高身長イケメンが恭しく身を屈め、女性客の前のテーブルにグラスを置いている。
その中身は、ただの水だ。でも彼が給仕すると、ギリシャかどっかのとんでもなくありがたい聖水みたいに見えてくるから不思議。
揃えた指先でメニューを指し示してから、イケメンはにっこりと微笑んで客の前から立ち去った。くるっと体の向きを変えて、こちらに向かって歩いてくる。
その白い頬に、桜の花びらがふわりと舞い落ちる――それを追って、黒い瞳がスイっと動く。だけどその視線は、さっきまでの爽やかさとは打って変わって超絶気怠げだ。「なに? これ。ウザってえな」とか思ってるんだろうな、どうせ。
ばちっと目が合って、やばって思った。俺はそそくさと動きを再開して、オムライスをカウンター席のおじいちゃんに届ける。
「ありがとう。やっぱり今日も、ここのオムライスは卵の艶がいいねえ」
にこにこの笑顔でお礼を言われて、ふわっと心の中が温かくなった。
俺は「ごゆっくりどうぞ」と笑い返して踵を返し、定位置であるカウンターの中に戻る。
「おい」
突然ぶっきらぼうに呼ばれて振り返ると、さっきのギリシャ神話イケメンがバックヤードの入口にもたれかかって手招きをしていた。
俺は反射的に顔をしかめつつ、無視するわけにもいかないので渋々そちらへ歩いていく。
「なに、五十嵐」
「お前見てただろ」
「なにを?」
「俺を」
「気のせいじゃない?」
「とぼけんな。ってか目え合っただろうが」
そう言われてしまえば誤魔化しきれず、俺は無言になって唇を尖らせた。
そんな俺に、五十嵐は切れ長の目を険しくして言い募る。
「鬱陶しいからやめろ。あと、じいちゃんのオムライスは出来たてが一番うまいんだ。だから提供する時は、一分でも一秒でも早く客の前に持っていけ」
「……」
――内容はごもっともだけど、そんなキツい言い方しなくたっていいじゃん。
言い返したい気持ちをこらえて押し黙っていると、「返事は?」と促された。「はい」と「へい」の間みたいな声で返事をした俺は、カランカラン、と入口で鳴り響いたベルにここぞとばかりに振り返って、「いらっしゃいませー!」と笑顔で駆け寄る。
「ったくじいちゃんは。なんでこんな役立たずを雇うかな」
背後から、心底呆れた様子のつぶやきが聞こえる。その時、俺が心の中で思ったことはただ一つ。
うるせえ、ばーか!
である。




