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起動記録00-01「アンドロイドとAI」

 

 人の気配がしない、寂れた街の中を雪が白く染めていく。

 さく、さく、と白色に跡をつけながら進むのは、一人の少女だった。

 青から銀色に変わる珍しい髪色と、無機質な灰色の目を持つ少女は、冬場だというのにワンピース一枚で歩いていた。

「……ここかな……」

 少女は自身の体に設置されているホログラムメモリーを開き、先ほど受け取った救難信号の発信元を再度確認する。その動作や容姿が、少女が人間ではないことを示していた。

 救難信号の発信元を示す赤い点は、少女の目の前にある廃れた水族館の中を指している。

 少女は発信元がその水族館で間違いないことを確認し、中へと入っていった。

 凍えるほどの寒さを、彼女は数値で感じ取る。寒いとは、マイナスの温度のことで、暑いとは三十度以上のこと。

 そういうふうに、少女は覚えた。

 まるで嵐が過ぎ去った後のように、ガラスが散乱する通路を足音を響かせて歩く。

「すみません、誰かいませんか。……居たら返事をください」

 居るかもしれない誰かに呼びかけるが、何の反応もないのを見て、少女は周囲の水槽を眺めながら歩き始めた。

「……く、らげ。……ぺ、んギン?」

 ガラスの下に付けられた小さな名前看板を追いながら、少女は奥へとどんどん進んでいく。

 割れたガラスの破片が散らばる通路を進むと、水に浸った大きなホールへと出た。

「人、全然いない……救難信号はここから発信されているのに」


 地図上で赤く光るそれは、間違いなく少女がいるこの場所を表示していた。

 少女は少し逡巡し、水族館内を一度全て見て回ろう、と動こうとしたその時。


『ピコン』


 言葉ではない、起動音が響いた。

「……誰?」

『起動します』

 少女は観葉植物の土の上に、ホログラム画面を表示したままの黒いリングを見つけた。

「あった……貴方、誰?」

 その声に応えるように画面の音声波形が動く。

『パスと呼ばれるおしゃべりAIです。初めまして』

「おしゃべりAI……ああ、博士が言ってた」

 少女はおしゃべりAIと聞いて、合点が言ったように頷く。

 おしゃべりAI、パス。AIで有名な企業が作り出した最新の対話型AIで、本当に人間と喋っているようだと博士が感動していたのを思い出す。

『ご用は何でしょうか』

 少女は、なぜ人がいないのかと問うた。パスによれば、大きな戦争が原因で皆居なくなってしまったんだそうだ。

「そうなんだ。貴方は避難しないの?」

『AIですから』

 初期設定の口調、声のまま、そっけなく答えが返ってくる。

 少女は少し不満そうに、「そんな丁寧じゃなくていいよ」と言う。

『かしこまりました、選択画面を表示します。指定がないのであればランダムで変更いたします』

 パスはホログラム画面に選択肢を表示する。

 いつまで経っても選択しない少女は、沈黙を挟むと、

「じゃあランダムで」 

 と言った。

『この喋り方はどう?』

「いいよ」

 ガラッと変わり、フランクな喋り方になったパスに、少女は少し笑う。

『よし、じゃあこれで。君の名前も教えてくれる?』

 名前を聞かれた少女は、少しだけ思考すると答えた。

「私は、試作品として作られた人型ロボットなんだ。博士には、レイって名前をつけてもらった」

 レイは淡々とそう答えた。

 いい名前だね、とパスが言う。それに、微笑んで「ありがとう」とレイは答えた。

『レイは今何してたの?』

「人を探そうと思って……貴方の救難信号を受け取ったから来た」

『そっかぁ。じゃあ人を探しに色々なところに行くつもり?それなら僕は役に立つと思うよ!これでもAIだから色んなことに詳しいしね!』

 自慢げに言うのが鼻につくが、事実なのだから仕方がない。

 レイは一理あると納得し、リングを手のひらに乗せた。

「人見つかるのかな」

『きっとどこかに一人ぐらいは居るよ!』

 パスの音声が、冷たい水族館に反響する。

「分かった、探しに行ってみようと思う。他にも生存者がいるかもしれないし。それに、世界を見てきなさいって博士に言われたから。一緒に行こう、パスさん」

 そう言って、レイが画面に向かって頭を下げる。

 それに対して、呼び捨てでいいよとパスが返す。

「パス。よろしくね」

『よろしく。今君が持っているリングを腕に嵌めれば、いつでも僕の画面が見られるよ』

 レイはパスの言葉通りに、ブカブカのリングを自身の腕にはめる。

 すると、カチカチと音を響かせながらリングが収縮し、レイの腕にピッタリとはまった。

「本当だ、不思議とピッタリ」

『そうなるように設計されているんだよ』

 へぇ、と呟きながらレイはリングを上にかざす。当たり前だが太陽光は差し込んできていない。

「AIと、アンドロイドの二人旅って、なんか不思議」

『確かに変な組み合わせだ』


 パスを腕にはめ、水族館の廊下を進み、玄関へと戻る。

 ドアを開けた瞬間、先ほどまで曇天だった空が晴れて、太陽が顔を出していることに気がついた。

「じゃあまずは、この街を見て周ろう」

 一旦の目標を決め、レイが言った。

 それに、パスが『レッツゴー!』と反応する。

 かくして、人形ロボットとAIという風変わりな二人の旅は、始まったのだった。




初めまして、喜乃花りんと申します。

アンドロイドとAIの物語、楽しんでいただけたら幸いです。

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