ミラクル☆ピンキー♡プリンセス
基本全年齢向け、ハッピーエンド短編を書いております。
タイトルを考えてからお話を考えることが多いのですが、今回どうしてもこのタイトルで書きたい衝動にかられ、頑張ってお話を作りました。笑っていただければ幸いです。
「ピンキー=スイート、貴様が王子である私を謀って、この愛しのエリザベスを傷つけた事は分かっている。
貴様との婚約は破棄の上、国外追放を申しつける!!
今すぐ私の前から消え失せろ!!」
それまで私の事を『愛している』と大切にしてくれた婚約者に、凍るような声でそう告げられた。
その腕の中に、婚約破棄されたはずの公爵令嬢を抱えながら…。
彼女に犯罪紛いの嫌がらせをされた時は、あんなに優しく庇ってくれたのに…。
王子から色々と告発された私の行いは、全て身に覚えがない事だった。
けれど、いま大切なのはそこじゃない。
『危なかった~!!もう少しで私、眠り姫として、この変態に愛でられるところだったよ~』
そう金髪碧眼の見るからに王子様王子様したこの王子、実は生きた人間よりも死体にトキメキを感じるという死体愛好家だった。
当時“異色のラブストーリー”という謳い文句と、そのビジュアルの美しさに騙されて買ってしまった『ミラクル☆ピンキー♡プリンセス』なんてぶっ飛んだネームの乙女ゲーム。
とんだクソゲーだった。
ハッピーエンドは、結婚式の時に、誓いの口づけをして幸せ絶頂のヒロインに、何故か悪役令嬢が命懸けで最後に放った呪いの毒針が刺さり、永遠に眠り続ける眠り姫となってしまう。聖女はその存在自体が結界となるので、眠り姫となっても国を守り続け、王子はそんな妻を生涯愛し続けるという純愛で終わる。
バッドエンドは、攻略に失敗し、王子はそのまま悪役令嬢の婚約者と結婚するが、国の結界を保つためにヒロインの聖女の力が必要ということで、やっぱり眠り姫状態とされて、一生誰に思い出される事もなく、教会の霊廟で眠り続ける。バッドエンドなのに、妙にその透明の棺の描写が美しかったのを覚えている。
これ、王子に愛されていたか、誰もいないかだけの違いで、ヒロイン的には状況変わらなくない?
寧ろ動けないのを良いことに、死体に色々仕掛ける王子がいない分、バッドエンドの方がマシな気もする。
ミラクル☆って、そりゃその存在だけで国の結界が張れるのだから、ミラクルよね。
物語を思い出した今、王子の気が変わらないうちに、この国から逃げ出さなければ…でも、聖女の地位も奪われ、ただの平民になってしまったので、どうやって逃げるかが問題だわ。
1人ショックで項垂れたフリをしながら、逃亡手段を考えていると、素敵な提案をしてくれる人が現れた。
「なら私が隣国までお連れしましょう。私は聖女としての彼女に助けられた事があります。せめて隣国まで私に送らせてください」
そう言い出し、胡散臭い笑顔で手を差し伸べたのは、攻略対象でも何でもない、隣国のイケメン商人ローランドだった。
他の攻略対象も既に悪役令嬢が攻略済だから、助けてはくれなかった。もしかして、この悪役令嬢、私と同じ前世持ちなのかもしれない。
でも絶対あのクソゲーには手を出してないと思う。
だって、あのストーリーを知ってたら、絶対あの変態王子を攻略しようなんて思わないもの。
そして、このローランドも曲者だ。
私には、聖女特典で相手の鑑定が出来るのだけれど、この人鑑定に腹黒、根っからの商売人と出ている。
決して善意だけで申し出てくれたのではないのだろう。
ちなみに王子の鑑定もしてみた。やはり死体愛好家と出ている。
記憶を取り戻す前の私は、彼を鑑定してみようと思わなかったのだろうか…。
無事、隣国に入国した途端、それまで胡散臭い笑顔を保っていた彼は、急に真顔に戻り
「でっ、君は何が出来るの?」
と聞いてきた。
「えっ、君に助けられた事…?そんなのその場で適当に作った嘘だよ。
聖女というからには、それなりに何か能力があるんでしょ?
まあ、無能でも珍しいピンク髪にラベンダー色の瞳だから、需要はあると思うよ。美少女好きの金持ちに。
金持ち親父に売り飛ばされたく無かったら、君を側に置く有用性を示してよ」
鑑定通りの腹黒で商売人だった。
このままでは、せっかく王子から逃げたのに、また金持ち親父に売られてしまう‼と思った私は、余す事なく白状し、どれだけ自分が有能かをプレゼンした。
その結果、金持ちに売り飛ばさる事もなく、私は彼の妻として手元に残された。
その後、鑑定能力を使って交渉を上手く進め、前世の記憶をもとに開発した商品は売れに売れ、気がつけば店は各国に支店を持つ大商会となっていた。
私も彼も引退し、二人で美しい花に囲まれた田舎で余生を過ごしていたが、そろそろ彼のお迎えの時が近づいてきたようだ。
隣の部屋には、愛する4人の子供達と12人の孫達がお祖父様に最後の挨拶をするために控えている。
今は夫婦で最後の思い出話に花を咲かせている最中だ。
「なあ、何であの時オレが君を連れ出したと思う?」
あの時というのは、あの王城で婚約破棄を告げられた時のことだろう。
「わたしが使えると思ったからでしょ?」
あの時は本当に必死だったけれど、今となっては笑い話だ。
私はローランドの手を握りながら、微笑んだ。
「それもあるけれど…一番の理由は、一目惚れだった」
私は彼の右の眉を見た。
彼は嘘をつく時、右の眉がピクッと上がる。
そんな彼の眉はピクリとも動かなかった。
「知ってたよ」
本当は最初に彼の鑑定を見た時に、分かっていた。
「ピンキー、今までありがとう。愛してる」
「私もありがとう。愛してるわ、ローランド」
それから、子供達、孫達との別れを終え、彼は天国へと旅立った。
そう間を置くことなくピンキーもローランドの元へと向かったが、聖女と商売人の血を引いた子供達は、その後も商会を繁盛させ、末永く繁栄したそうだ。
めでたしめでたし。
こちらの小説はアルファポリス様でも掲載しております。
誤字脱字報告ありがとうございます。