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第7話 シモンズの懺悔。

あの時、君は神を信じているのか?と聞いた。

やっと今、意味が分かった。


私たちの持っている経典には、転生は無いんです。

転生も輪廻もしません。

神のもとに行くか、地獄に落ちるか。


私は生徒たちに何万回と説いたではないか。



しかし、私は思い出してしまった。

あの人を愛し続けた人生を。



一度目は農家の次男坊だった。


畑に出て毎日を送っていたが、黒髪の僕は目立つらしく、女に不自由はしなかった。決めた女はいなかったから、徴兵されて国境警備に駆り出されることになって、親が慌てて嫁をあてがった。アナスタ。赤毛でそばかすだらけの美人とはいいがたい女だった。こんなものかとせっせと抱いた。緊張しているのか、何の反応もなく興ざめしていた。


間もなく国境近くの城砦に派兵。

昼夜交代で見張りをする、という、大して面白くもない仕事だったが、国からの給金は畑仕事よりも魅力があった。


宿舎で同室になった男は、金髪で青い目。綺麗な男だった。


俺らは休みの度に飲みに出掛けたり、女を買いに出かけたりした。そいつは淡白なのか、好き好んで女を抱くことはなかったが。


例えば、そいつが酒を飲む。唇についたグラス、動く喉仏、零れ落ちる水滴、ぞくぞくしている自分がわかった。目が離せなかった。そいつと目が合うと、泣きたくなるほど嬉しかった。


ある日、俺の嫁が面会に来た。着替えや差し入れを持って。

相変わらずさえない風貌。何の魅力も感じなかった。軽く紹介すると、今日は僕は夜勤なので、泊ってもらって構わない、とそいつが言いだした。

まるで木で出来た人形を抱くように嫁を抱くと、酒を飲んで寝てしまった。


夜半に叩き起こされる。

外は昼間のように明るく燃えていた。嫁が隣にいないことすら失念していた。


「見張りはどうしたんだ!」


火は城砦の内側からつけられていた。敵が侵入したのだ。

その火を合図に、大軍が押し寄せる。待機していたこちら側の兵士が応戦するが、出足が遅れてしまった。


僕はあいつを助けに向かった。助けなければと思った。城砦の屋上で見張りについているはず。


そこで、見たこともないほど乱れた自分の嫁と自分が引かれてやまなかったその男が睦あっているのを見た。


バッサリと嫁を切り捨てる。


ああ、そうして自分が愛していた男も切り殺した。


城砦は炎が上がり、崩れ落ちた。






そう、そうして次は私は子爵家の娘だった。


美しい黒髪を持った私は、婚約の申出も多かった。

しかし、父親が金銭的な援助欲しさに、平民の商人との縁談を持ち込んだ。

渋々臨んだ見合いの席で紹介された青年は、金髪に青い目。透き通るような白い肌。

今までどんなパーティーに出てもこんなに美しい男はいなかった。私は一目でその青年に恋をした。

程なく結婚したが、平民とは思えない、大貴族さながらの贅沢な生活だった。


私は旦那様を愛し、いつも身綺麗にして彼の帰りを待った。

こんなにお美しい奥様をお持ちの旦那様は幸せ者ですわねえ、と、皆口々に言ってくれた。幸せだった。


そんな旦那様が家に帰らなくなった。


お義父様は、若いうちは一度はある熱病みたいなものだから、そのうち帰ってくると言っていた。高級娼婦?けばけばしい女に旦那様が騙されているのだろうと思った。


噂に聞いた二人で暮らしているという小さい家を、ほんのちょっと覗くつもりだった。ほんのちょっとだけ。ナイフを持ってきたのは護身用だった。そのつもりだった。


小さな家からその小さな庭に出てきたのは、化粧化のない、赤い瞳の、赤毛のそばかすだらけの女だった。後から出てきた旦那様は、大事なものに触れるように、そっとその女を抱きしめた。

穏やかな木漏れ日の中で、二人はただ抱き合っていた。


何かが、あふれた。私の中で。


気が付くと、ナイフを握りしめた私の手はその女の鮮血で濡れていた。



私は…自分の望んだとおり旦那様を家に連れ帰り、日常生活に戻った。


旦那様は、生きているのか死んでいるのか分からない態で60歳まで生きた。

私は常に旦那様を大事にし、お世話をし、そして愛した。


その瞳に、私が映っていなくても。
















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