第3話 最初の記憶。
「私が思い出した最初の記憶はこうだ。」
彼が語ったことを、なるべく私情を入れずに書き留めておく。
隣国と我が国の関係がきな臭くなっていた頃、私は国境警備の任についていた。噂よりは平穏な日々だった。国境近くの村々も、緊張感もなく平和なものだった。
私たちは同じ警備兵として、交代で監視にあたっていた。
高い城壁の向こうに黒々とした森。そこが国境だった。
私たちは近くの村々の小作の次男坊や三男坊で、国境警備のために駆り出されてきた。私とお前は、初めて会った時から意気投合した。宿舎が相部屋だったので、私たちは暇さえあれば酒を飲み、話をしたね。みんなが言うほど、すぐに戦争は起きそうになかったから。
ある日、お前の妻が訪ねてきた。着替えや差し入れを持って。
お前は私に紹介してくれたね。
「妻のアナスタだ。この人は俺の友人でね…」
お前の声が途中から聞こえなくなるほど、私はアナスタに釘付けになった。
この人だ、と、声がする。なぜなのかはわからない。ただ、この人だということは解った。アナスタが驚いた顔で私を見る。瞬きする時間も惜しいくらいに。
夜の警備になった私をアナスタが訪ねてきてくれた。
こうなることがわかってたように、私たちは求め合った。夜の、城壁の影で。
その夜に起こったことはお前もよく知っているだろう。
私とアナスタがお互いをむさぼるように求めている間に、敵兵が侵入していた。
火がつけられ、騒然とし…それを合図に暗い夜の森に潜んでいた大軍が堰を切ったように押し寄せた。
開戦。
私は…お前に殺されたアナスタの骸を見た。
あの時、君の流した涙には、私は何の感慨もなかった。
ただ、求めていたアナスタに会えた歓喜に震えていた。狂っているね。だって、お前が振り下ろす剣に、訪れる死に、感謝したから。