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聖少女暴君  作者: うお座の運命に忠実な男
第六章 姫川さん落命
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6-3 天空からの帰還

【週末 金・土・日 定期更新です!】

 選手の集合時間がアナウンスされた。

 そのとき! 場外上空のヘリの爆音が近づいてきた。建物が振動するほどである。

 うっさいなあ。いまいいところなのに。


『GEBO会場前の広場に降下します。場所を開けてください!』

 取材ヘリが着陸するみたいだ。


『みんな~! お待たせ! 千尋! 初音! がんばったね!』


 スピーカーで拡大した声が天空から響く。その声は聞き覚えがある。もう遠くに行ってしまった声。天国へ旅立ったあの人の声に似ている。天界にいる姫川さんのメッセージだろうか。いや、彼女の声は物理的に響いている!


 わたしは会場外へ駆けだした。一一月の陽光は夏の日差しとは違う鋭さを持っている。


 天を見あげると太陽がプリズムをつくって網膜を刺激した。


 ヘリのシルエットからふたつの影が飛びだした。パラシュートが広がる。


 心臓が早鐘のように高鳴る。まだわからない。自分の目で確かめるまで、抱きしめるまで!


 スカートを翻らせながら降下する女子高生。

 地面間近でパラシュートを切り離す。


 見覚えがある亜麻色の髪をなびかせ着地する彼女。


「姫川さん! 生きていたんですね! あと二分で集合時間の締め切りです。走ってください!」


 わたしは喉が切れそうな大声をだした。


 着地した姫川さんは折笠さんの着地をフォローしようとする。


「ヒメ! お行きなさい! わたしのことはいい。自分の夢をつかむために走れ!」 

 折笠さんの上空からのヴォイスは張り裂けそう。


「あとで肩たたき券あげるよ。詩乃」


「もっとお金かけて!」


 この軽快なやり取りはドッペルゲンガーじゃない!

 姫川さんは会場へ走りだす。彼女は右足をひきずっている。


 村雨さんがわたしよりはやく飛びだした。姫川さんを必死に手引する。

 あと五〇秒。


 わたしは係員に状況を説明した。

「あのふたりは選手です。到着まで待ってください!」


「時間厳守です。集合時間に一分、一秒でも遅れたら失格になります」


 係員は首を横に振った。姫川さんはまだ望みがあるが、いま着地した折笠さんは絶望的だ。姫川さんが会場内の集合場所に到着した。


「わたしは選手です!」


「リングネームは?」

 係員がホワイトボードを見つめながら姫川さんを一瞥した。


「姫川さんのリングネームはプリンセス・Hです」

 わたしは仮登録した彼女のリングネームを告げた。


「まじか。恥ず」


「生きてたんですね! てっきり新幹線に轢かれてバラバラ死体になったと思いました!」


「言い方ね。ニュース見てないの? 死亡してたら大ごとになるでしょう」


 わたしは姫川さんが駅のホームに転落したという一報を聞いてからろくにTVもネットニュースも見ていなかった。


 考えてみれば生徒が修学旅行で死亡していたら学校中大騒ぎだ。護国寺先生の話を最後まで聞く前に泣きだしてしまったために真実にたどり着けなかったのだ。


「新幹線に轢かれたのは本当。子どものころ忍者の通信教育を受けていたから変わり身の術で助かったの」


「あなたって人は! 姫川さん歩き方がヘンですけど、どうかしたんですか?」


「病院から抜けだすとき二階から飛び降りて足をくじいちゃった」


「なにやってんですか!」


「てへぺろ~」


 ふざけてべろをだす姫川さんの視線のさきに村雨さんがいる。彼女は口元を抑えて小刻みに震えている。


「どうしたの。初音。おいで」


「わたくし行けません。一度はお姉さまの落命を信じてしまいました。愛する人を信じられなかったいくじなしです。ミジンコと罵ってください」


「いいから。こっちへ来て」

 姫川さんは村雨さんを抱き寄せ背中を抱く。


「あたしもみんなを試すような真似をしてごめんなさい。みんなが本気にならなければeスポーツ部を設立しても意味がないから」


 聖少女にしてわがまま暴君。いつも姫川さんには振り回されてしまう。そしてわたしたちはこの日々が永遠に終わらないことを願っている。


 そのとき折笠さんが会場に到着した。だが彼女は集合時間に間に合わなかったとして失格になった。


「わたしのことはいい。自分が踏み台になってもヒメを活かすのがわたしの役目だから。みんな集中して。全力でサポートする」


 折笠さんは気に留めていないようだ。さすが折笠さん。


「ごきげんうるわしゅう。姫川さん。一一月だというのにずいぶんおあついですこと」

 気がつくと九条さんがわたしたちを見守っている。


「九条さん。元気そうね」

 九条さんはパラシュートで天から降ってきた姫川さんとふつうに会話している。どういうこと?


「あたくしは姫川さんからのRINNEで事情をすべて把握しておりました。

 姫川さんいわく『一年生組が成長する良い機会だからあたしが生きていることは秘密にしておいて。もし鳴海さんと村雨さんが大会にでない選択をしたときは人を見る眼がなかったと判断してeスポーツ部発足は諦める』とのことです」


 姫川さんはわたしたちを試したんだ。そしてそれ以上に信じてくれたんだ!


「わたしは新幹線に轢かれたヒメにつきそって病院にいた。全身精密検査してもかすり傷ひとつないからお医者さまが不審がってすぐに退院できなかった。けががないから護国寺先生は引率に戻り、わたしとヒメは病院をぬけだす計画を立てた。

 パパのプライベートヘリを使わせてもらったけどフライトプランの提出に時間がかかってしまったわ」折笠さんが事情を説明してくれた。


 わたしこと鳴海千尋は読者さまに謝罪いたします。

 ストーリーテラーでありながら事実誤認をして間違った情報を語ってしまいました。


 姫川さんは落命してません! だって、あの状況は死んでると思うでしょう?

『聖少女暴君』のストーリーはまだまだつづきます!


 さあ、GEBOの決勝リーグ戦だ!


つづく


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